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ユーリー・イリエンコ『A Spring for the Thirsty』ウクライナ、生命の泉と記憶の行脚

ユーリー・イリエンコはウクライナで最も有名な映画監督だったが、映画内に現れるシンボリズムが反ソ連的として一般上映は尽く禁止されてきた。本作品は、彼が撮影監督として参加したセルゲイ・パラジャーノフ『火の馬』と同年に公開されて上映禁止となった長編デビュー作である。まるで『ニーチェの馬』のように、文明から隔絶された砂漠の中に、一軒だけポツンと建つ家に老人が住んでいる。彼の家の前には井戸があり、様々な人が水をめがけて集まってくる。それは現実なのか幻想なのか老人の記憶なのか判然としない。そして、水を介して水を必要とする様々な出来事(家作り、畑作、壺作り)が強烈なイメージの反復として連なっていく。老人は壁に飾ってある写真を裏返し、自分の棺桶を作り始めるのだが、走馬灯のような脈絡のない映像と相まって全体的に死のイメージで氾濫している。その無機質さは『The Stone Wedding』にも似ていて、ここに戦争や戦没者のイメージが重なることで、唯一無二の世界観が完成している。特に終盤の戦闘機に巻き上げられるテーブルクロスのショットと、井戸を横にして井戸内部を歩くショットが白眉。ウクライナのタルコフスキーと呼ばれている(要出典)のも納得の映像美。

・作品データ

原題:Криниця для спраглих
上映時間:70分
監督:Yuri Ilyenko
製作:1965年(ウクライナ)

・評価:80点

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