見出し画像

パトリック・タム『Cherie』写真家と実業家に恋されて…

豪邸から出てきた車が、沿道を走る体操着の女生徒たちを見て停車し、壮年実業家の男は彼女たちを追うように女生徒しかいない体育館に平然と入り込む。男の目的はただ一つ。さきほど一目惚れした引率教師チェリーを探していたのだ。チェリーが男を追い返して帰宅すると、ルームメイトのルーシーがいる浴室のドアに甥っ子の腕が挟まっていた。この男、チェリーがいないのに家に入って、全然違う声に応じて全裸のルーシーにタオルを渡して攻撃されている最中だったのだ。その後も、寝転がって恋人と電話しているルーシーの腹にポラロイド当てて撮影するなど、奇行が目立つ。実業家の運転手兼助手も奇天烈な人物で、やっとのことでチェリーをプライベートクルーズディナーに誘った上司を思って精力のつく虫を食事にブチ込んだり、チェリーのワインに薬を盛ろうとしたり(これは未遂?で終わる)と、上司よりも危険な人物であることが伺える。極めつけは夜道で出会った青年写真家アルファで、彼もチェリーに一目惚れした挙げ句、紙飛行機にした自分の写真をタクシーで逃げ去るチェリーにめちゃ鋭角で投げつける。冒頭15分なのに、この濃度で狂人が押し寄せてくる。しかし、チェリーだって負けていない。いつだって泣くときは他人を想うとき、そして自分がやられたら100倍にして返すのだ。

そして、物語はチェリーを巡る三角関係へと発展する。すると、物語は"新進気鋭の青年写真家=人間関係に汚いよね"とか"金持ち=性格悪くてなんでも金で処理するし出来ないなら力づくでも手に入れようとするよね"といった固定観念をぶっ壊すかのように、暗い過去を背負った一途な青年写真家と、優しい純情な実業家の素顔が見えてくる…なんてことはない。やべーやつはずっとやべーやつなのである。双方明らかに胡散臭い感じがするんだが、恐らくチェリーの主観が画面に感染しているのでおおらかな空気で"実は本当にいい人なのかも?"と思わせてくるというドンデン返しが意外性に満ち溢れていて面白い。

今回のチェリー・チェンも『Love Massacre』のブリジット・リンと同じく全身同色コーデで精神状態をお知らせしてくれる。二人に出会う冒頭部分ではずっと丈の短いジャージを着ていたが、アルファに出会ってからは全身真っ白、後に黒が一瞬だけ混ざって、ブチギレ逆襲状態のときは真っ黒の服を着ていた。『Love Massacre』ほどの不気味さはないものの、黒ドレスのチェリー着たチェリーは顔も引き締まっているように見えて可愛い。

ルーシーに同情するチェリー、同情しすぎだと指摘する写真家の後ろでケロッと泣き止んで背伸びをするルーシー→三人が一階に降りた後、画面を三分割して人がカメラから違う距離で並ぶシーン。病院での医者と甥っ子の追いかけっこで十字路の真ん中で一周パンして二人が隠れ合うシーン。等々、構図が上手すぎるシーンも散見された。流石です。

画像1

・作品データ

原題:Cherie / 雪兒
上映時間:92分
監督:Patrick Tam
製作:1984年(香港)

・評価:80点

・パトリック・タムその他の作品

パトリック・タム『The Sword』不幸を呼ぶ名剣=妖刀を巡る旅
パトリック・タム『Love Massacre』愛と殺、相反する要素が共存する魔法
★ パトリック・タム『Cherie』写真家と実業家に恋されて…
パトリック・タム『風にバラは散った』我が心は永遠の薔薇のように

よろしければサポートお願いします!新しく海外版DVDを買う資金にさせていただきます!