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Aristotelis Maragkos『The Timekeepers of Eternity』層構造の画面から現れる怪異

大傑作。スティーヴン・キング『ランゴリアーズ』を映画化したトム・ホランドによる同名ミニシリーズを再構築した一作。物語はメアリー・セレスト号みたいな、ほとんどの乗客が消えた飛行機に残された数名の乗客が辿る顛末を描いている。元々はカラーで3時間あるらしいのだが、それを紙を破るような演出によって徹底的に時短していく。紙を破る演出も、物を押したり叩いたりするとその空間がクシャッとなって音や歪みを表現したり、怒ってまくし立てる口や盲目の少女の目線を強調するために口や目を中心に紙を波打たせたりという味付け程度の演出から、人物を人物の形に切り出して別の背景に貼ったり、頭を破って回想をねじ込んだり、一つの画面に切り返しを混ぜ込んだ漫画的コマ割りを実践したりという時短かつ画面が文字通り層構造になっていることを気付かせ、乗客たちが別の世界に迷い込んでしまった現状を視覚化する。つまり、彼らの行動や思考によって、世界そのものが歪んでいくのだ。この手の作品によくある、異世界の地でイキり散らかす男が"心を落ち着かせるために紙を破る"という癖を持っており、彼の悪夢そのものを紙として可視化したかのような不気味さもある。終盤で現れる"ランゴリアーズ"は紙の花のような立体的な存在として画面の層構造を突き破って全てを破壊するわけだが、紙の建物や滑走路が食い破られていくのは下手な特殊効果よりも恐怖を煽る。いやこれ凄いっすわ。この映画が異世界から出現したと言われても驚かない。この飛行機x異物という組み合わせ、エルヴェ・ル・テリエ『異常 (アノマリー)』を思い出すが、同作の乗客たちもこんな経験をした上で、それを忘れているのかもしれない。

・作品データ

原題:The Timekeepers of Eternity
上映時間:63分
監督:Aristotelis Maragkos
製作:2021年(ギリシャ)

・評価:90点

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