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ギナ・S・ヌール『ライク&シェア』ライクとシェアの表と裏

傑作。カミラ・アンディニ『ユニ』のタイトルロールを演じたアラウィンダ・キラナの新作がどうやら好評らしい、と昨年末に知るも、あまりにもローカル映画というのもあってほとんど諦めていたのだが、大阪アジアン映画祭に登場!とのことで大阪まで行ってきた(ちなみに、アラウィンダさんファン友達はインドネシアまで観に行ってました!そこまでは出来ん!)。主人公は親友二人、なぜかハメ撮り探しに熱中しているリサは再婚のためにイスラム教に改宗して教義を押し付けてくる母親との関係性に悩んでおり、両親を交通事故で亡くしたブルジョワっ子のサラは相談もなくシドニー行きを決めた兄とその恋人に怒っている。二人は"大きな夢"のためにASMR動画をアップロードし続けているYoutuberでもあり、他動画との差別化のために、若干エロ要素も追加している。ここに食の探究と性の探究が互換という形で提示される。リサはリベンジポルノの間接的加害者の役を負ってるわけだが、それ以前に彼女がハメ撮り映像にハマる理由はここにあるのだろう。上手いのは続く展開で、性の探究の果てに性暴力とリベンジポルノにまで晒されてしまうわけだが、それらは力強く否定した上で、性の探究そのものは否定せず、"自分らしくいられる場所"の一つとしてYoutube活動を残したことか。これはレイプカルチャーの否定にも繋がっていて、とても良いと思う。"欲望に忠実に生きる女たちを描き始めたインドネシア映画"というシンポジウムをやっていたようだが(平日なので参加出来ませんでした!行きたかった!)、正しくそれを描いている。

インドネシアにおいて、映画における女性表象の多様化はここ最近のことらしい。本作品も、監督曰く史上初インティマシーコーディネーターを採用した作品らしい。やはり男性優位の社会に訴えかける作品として、新聞記事やインタビュー、完成後も上映まで何度もディスカッションして不安要素を潰していったとか。そのせいか、リベンジポルノ野郎の描き方は凡庸で、手放しに褒めにくい。それでも、直接の被害者の最も近くにいる存在であるサラの兄やリタがどう感じ、どう動くかというのを描いていたのはとても良かったと思う。比較しちゃうのもあれだが、同じくインドネシア発のシスターフッド映画であるカミラ・アンディニ『ナナ』におけるシスターフッドのゆるゆるな感じに比べると、否定は否定、肯定は肯定、間違ったら謝罪して反省、間違ってないことは曲げない、というパワフルさを感じさせ、それをポップさで包み込んでいく。上手いなあ、と。

ちなみに(全然知らなかったのだが)、アラウィンダさんは既婚者と不倫していたのをSNSでバラされて集中砲火を浴び、それに対しては沈黙を貫いているらしい。その経験が反映されているのだろうか?

・作品データ

原題:Like & Share
上映時間:112分
監督:Gina S. Noer
製作:2022年(インドネシア)

・評価:80点

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