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ピエール・エテックス『健康でさえあれば』エテックス節炸裂の楽しい短編集

エテックスの監督通算六作目で長編三作目。四本の短編にエテックス節をこれでもかと詰め込んだファン垂涎の作品。

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第一編『不眠症』では寝る前に『ドラキュラ』を読んでしまったせいで眠れなくなる男を描いている。ドラキュラが襲い来るアクションが隣で寝ている妻の些細な行為やランプハットの影の中に繰り返される。ドラキュラ城のロケは意外としっかり撮られていて、しかも追われている女優がめちゃ綺麗。

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第二編『映画』ではマナーの悪い客たちに"恵まれた"男を描いている。自由席の映画館は面白いほど治安が悪く、客同士喋るとか鼾かいて寝るなんてのは当たり前、落とし物を拾うために腰を浮かせたら別の人に席を取られ、前から席を跨いで別の席に移動するやつが出てくれば、端の席や二階席は柱や手摺のせいで何も見えないなんてことも。そんな映画館で"一滴垂らすだけで水を牛乳に変えるエキス"や"車から髪の毛からサラダまで何にでも使える油"など怪しげな誇大広告を観てから、それが友人たちの家でも繰り返される悪夢に続いていく。

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第三編『健康であれば』では街中が工事していて常に地面が震えているマンションに暮らす男を描いている。振動によって部屋中のものが崩れ落ち、砂塵と煙によって通り中が汚染されていく。前の編と併せて消費主義の批判であり、通りに溜まった車や爆走する人の塊といった都市生活の難しさも皮肉っている。キートン寄りのジャック・タチって感じ。

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第四編『もう森には入らない』ではあるキャンプ場付近で農夫、狩人、カップルがそれと知らずに互いを邪魔し合う様を描いている。狩人の銃声にカップルはパンクを確認し、カップルの物音に狩人は銃を向け、農夫の建てた柵はカップルと狩人の行く手を阻み続ける。1秒たりともボケない瞬間がないほどの手数の多さで、15分という短尺も手頃で良い。明らかに感電してるシーンだがラジオのポップミュージックに合わせて踊る農夫のコミカルさには笑ってしまう。

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・作品データ

原題:Tant qu'on a la santé
上映時間:68分
監督:Pierre Étaix
製作:1966年(フランス)

・評価:70点

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