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コルネリュ・ポルンボユ『Police, Adjective』ルーマニア、形容詞としての"警察"は…

コルネリュ・ポルンボユ長編二作目。刑事クリスティは逡巡している。マリファナ売人疑惑のある高校生ヴィクトルの張り込み捜査をしているが、彼は自分用に買っているだけで売人ではなさそうなのに、上層部はヴィクトルを逮捕したがっているのだ。2007年にEUに加盟したルーマニアは、他のEU諸国と足並みを揃えるべく、マリファナの合法化も進むはずだ。冤罪だし大した罪でもないので、ヴィクトルを逮捕したくない…とクリスティは悩み続ける。真犯人が出てきてくれたら全てが丸いんだが、という思いと共に張り込みを続ける様を延々と映し出していく。呆れるほどの長回しの中には、人を待つ空白の時間が多く含まれているが、これはポルンボユの警官の友人から聴いた話らしい。曰く、警察には待機時間とか監視時間といった"死の時間"がある、と。そこには、革命当時14歳で、ここから急速に社会が変わっていくだろう!と胸を膨らませていたポルンボユ少年の、遅々として変化の進まない社会への失望も込められている。

終盤になって、ヴィクトル逮捕に動かないクリスティを呼び出した上司は、彼に辞書を引かせる。良心、法律、道徳のそれぞれの意味を確認し、法律ではなく道徳律を信じるクリスティを諫める。ここで興味深いのは、この前のシーンで古い歌謡曲を聞く妻に対して、歌詞の比喩表現が分からないとしていることだ。"太陽のない海は海と呼べるの~♪"→"海は海だろ"という態度と、法律/道徳をごっちゃにする態度との明らかな矛盾は、ポルンボユの言う"可能性を無視して定義を回避したがる同世代"への眼差しなのかもしれない。反面、辞書による再定義を強要する上司(ポルンボユの言う"共産時代に言葉の誤用を恐れた人々"に相当するのか?)も"形容詞としての警察(Police, Adjective)"の項目で声を荒げるなど、世代間の対立を編み込みながら矛盾を指摘していく。ちなみに、"形容詞としての警察"の辞書的な意味を、この映画自体が皮肉っているのも面白いところ。

ちなみに、2015年に医療用目的の大麻は合法化されている。

追記
色々インタビューを読んでいると、2007年にクリスティアン・ムンジウが『4ヶ月、3週と2日』でパルムドールを受賞してルーマニア・ニューウェーブが一気に注目され、同時期にクリスティ・プイウが『Aurora』を発表していることもあってか、"ヴラド・イヴァノフの起用はムンジウの『4ヶ月、3週と2日』観たからですか?"とか"プイウの『Aurora』も警察署で終わりましたよね?"とか、適当に括られてるのを困惑気味に返しているのが印象的だった。

・作品データ

原題:Polițist, adjectiv
上映時間:115分
監督:Corneliu Porumboiu
製作:2009年(ルーマニア)

・評価:80点

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