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マックス・ミンゲラ『ティーンスピリット』エル・ファニングってだけで満足すんなよな!

今年はエル・ファニング作品が二作(『孤独なふりした世界で』『ガルヴェストン』)も公開されたのに、そのどちらにも見送ったのは人生最大級の愚行だと信じている。ってことでそんなささくれた心を癒やすべく、彼女の主演最新作を覗くことに。イギリスの田舎に暮らすポーランド系少女の話なのだが、そんなことよりエルちゃんの母親役でアグニェシュカ・グロホフスカが出ていくことに心臓が止まる(そこかよ)。彼女がお母さんとか、それだけで泣けてくる。ヴラドがエルちゃんに"お前の母ちゃんキレイやな"と声をかけるシーンがあるが、ホンマそれって感じだった。その言葉にマジ照れするエルちゃんも超かわいいんだけども。

物語としては、田舎に暮らす歌好きのエルちゃんが、"Teen Spirit"というオーディション番組を通して成長しつつスターダムを駆け上るという何のひねりもないシンデレラストーリーである。なんかこういうフランス映画あるよねって感じ(ひでえ偏見)。というか実際あった気がする。題名忘れたけど。彼女は田舎に暮らしてるんだけど、別に田舎暮らしに飽きているって感じもなく、別にそこまで絶望的に飽きているというか"普通の生活に刺激が足らない"って感じ。つまり、別に田舎にしなくても良い。マックス・ミンゲラ、絶対ボンボンだし田舎の生活なんか分からんやろって怒っちゃうくらい適当。

そんな彼女はオーディション番組を通して変わろうとする。パブで歌っていた時、唯一聴いてくれたヴラドという元オペラ歌手がマネージャーになってくれて、短い練習描写の後、二次選考に突入して、なんだかんだ最終選考に残る。この過程で母親との軋轢がサラッと片付けられてしまうのはなんだか勿体無い。エルちゃんの中の衝撃的な記憶として、母親が見知らぬ男とキスしているとこを見てしまったというシーンが登場するのに、それに言及されることはなく、母親も素直にヴラドを信じてしまうため、親子の軋轢が何かを生むことはない。或いは、母親は唐突にエルちゃんが大事にしていた馬を売るが、これを契機に関係が破綻するわけでも見直されるわけでもなく、宙ぶらりんのまま流されていく。歯痒い。翻ってヴラドとの関係は、師弟関係というか共犯関係というかという感じで結構丁寧に描いている。父親を幼くして失ったエルちゃんと疑似的な父子関係を育むという感動的な話のようだ。

勿論エルちゃんが歌うシーンが一種の区切れとしていくつか配置されているんだが、普通に歌は上手いと思った。でも、そんなに評価高くないとこをみると、私の耳が壊れてんのかもしれない。彼女が歌ってるシーンの変遷も面白い。当初はそれまでの人生や日常の退屈さをぶつけるように歌っていたので、歌をバックに 回想シーンを繋げていたが、後半になると歌うことそのものに集中するようになったのか、歌うエルちゃんだけを映すようになる。ただ、最後のライブシーンは力強い描写が続くんだけど、そこまで"こ、これは!"と思わせる何かが決定的に足りず爆発力に欠ける。エピソードの積み重ねが足りない分、成功のカタルシスも少なめなんだろうか。

いつだったか、誰かが"現在のハリウッドでレベッカ・ホールの使い方を心得ている人間は一人もいない"という文言を読んだことがある。今回、彼女は本番前に歌手を青田買いする大手レーベルの担当者を演じているんだが、その独特な目による存在感はあれど、別に彼女じゃなくてもいい役だった。加えて、その契約を巡ってヴラドとエルちゃんが喧嘩になるという二次的副産物がメインとなり、契約自体は映画的にどうでもいい立場になっているのだ。ということで、レベッカ・ホールも食い下がること無く即退場。勿体無いな。

ってな感じで、田舎暮らし、一本道のシンデレラストーリー、十代の悩みや生活、本番で歌うまでの道のり、母との確執、レーベルとの怪しい契約、他選手による妨害、などなど、どれをとっても中途半端。エルちゃんってだけで満足すんなよな!私は満足しちゃったけども!

・作品データ

原題:Teen Spirit
上映時間:93分
監督:Max Minghella
公開:2019年4月19日(アメリカ)

・評価:66点

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