見出し画像

Aloizs Brenčs『When Rain and Wind Hit Against Your Window』ラトビア、戦後レジスタンスの疑心暗鬼と絶望

アロイス・ブレンチス(Aloizs Brenčs)長編二作目。1964年に発表されたArvīds Grigulisによる同名小説の映画化作品。二次大戦期、ソ連支配下にあったラトビアはナチスの侵攻によって支配権が移り、ナチスの敗退によって再びソ連の支配下へと戻された。そうした流れの中で自国を取り返す運動としてパルチザンが組織され、ナチス敗退後も活動を続けていた。特にラトビアは海に面していたことから、メンバーが海外から来訪することもあったようだ。本作品もそんな主人公アンシスが夜通し海を渡ってラトビアにやって来るところから始まる。彼は町外れにある大きな牧師館に上がり込み、老牧師に横柄な態度で接するが、ラトビアでの生活を続けたい牧師はレジスタンスを"無法者"と呼び、シベリアに行きたくないから巻き込まないでくれと言う。アンシスは終始"俺様が戦ってるのに軟弱者め"みたいな態度を崩さない。しかし、双方に事情がある。実際にソ連の仕打ちは恐ろしいものだ。アンシスが本当はレジスタンスではなくスパイだとすると、協力した瞬間に逮捕されてしまう。レジスタンスもレジスタンスで疑心暗鬼になり、アンシスをなかなか信じられない。それなのにアンシスを追い返した仲間をボコボコにしていることから、仲間すら信じきれていない事が分かる。一方のアンシスも、亡命先スウェーデンで厚遇されるわけもなく泥炭地送りにされ、一緒に逃げた同志がそこで燃え尽きていくのを横で見てきた。自分は大義のための戦士だ、と言い聞かせないと全てが揺らいでしまうからこその横柄な態度だったのではないかと思わせるほど、アンシスの背景は悲しみに包まれている。ただ、これに関しては市場で出会った好みの女性を自宅まで追い回すという犯罪レベルの奇行を見せているので、立場の弱い人間に対しては素でこういう態度なのかもしれない。

東欧映画スペースにて本作品の話題になった際、バルト三国のパルチザン映画は悲惨なものが多い、という話になった。確かに、エストニアのOlav Neuland『Nest of Winds』は主人公の経営する農場にソ連とパルチザンが代わる代わるやってきてカツアゲしていくという話で、リトアニアのシャルナス・バルタス『In the Dusk』も圧倒的な戦力差を前に死を覚悟しながら戦うパルチザン兵士たちを描いていた。共通するのは絶対に勝てないという絶望感である。原作は実際に失敗した任務をもとに描かれており、作者も"ソ連に負けたレジスタンス"というプロパガンダ的構図を意識的に使用したようだが、映画ではそれにも勝る絶望感を導入している。

・作品データ

原題:Kad lietus un vēji sitas logā
上映時間:95分
監督:Aloizs Brenčs
製作:1967年(ラトビア)

・評価:70点

この記事が参加している募集

映画感想文

よろしければサポートお願いします!新しく海外版DVDを買う資金にさせていただきます!