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カマラ・カマロヴァ『Road Under the Skies』ウズベキスタン、ある少女の恋とその後

人生ベスト。カマラ・カマロヴァ(Kamara Kamalova)長編六作目。中心にあるのは、恋に落ちた少年アジズと少女ムハバトの物語である。しかし、恋も束の間、アジズは妊娠したムハバトを放り出して軍に行くと言い出し、ムハバトは村で白眼視されることになる、という中々ハードな展開に進んでいく。それをフォークロア的に語っているわけなんだが、あまりにも語り口が突飛なので心が動かされる。台詞のほとんどは詩歌からの引用らしき言葉であり、二人の関係性は鮮烈なイメージのみで語られるのだ。真っ白な砂漠に放置された真っ赤な客車、中庭の木に吊るされた色とりどりの糸、愛の告白のように流れる大きな葉とネックレスの黒いビーズ、目が覚めるように鮮やかなムハバトの衣装等々、まさに言葉にした瞬間から損なわれていくようななイメージの美学がそこにある。時間も空間も自在に飛び越えるという、まさにフォークロアである。安易に使いたくはないが、セルゲイ・パラジャーノフ的な文化と映像の融合への挑戦といった感じか。あれだけ色彩豊かな伝統的衣装を着ていたムハバトが、突然ジャージ着て学校の校庭でドッジボールやってたのには驚かされた。あれは単純にドッジボールしているというより、ボールを誹りに見立てた視覚化なんだが、いきなりジャージ着てる方に目が行ってしまう。関連して、ムハバトの姉(?)がアジズ家に抗議しに行った際に持っていった人形が受肉して追いかけてくるのも、誹りと白眼視の具現といった感じで恐ろしかった。後に二人の物語が数世紀前のものであることを示唆する歌があるため、女性への扱いがその頃から変わっていないことを提示しているのかもしれない。アリ・ハムラーエフ『Man Follows Birds』でも登場した、寝ている人の周りにリンゴ的果実を並べるシーンが本作品にも登場しているが、どういう意味があるんだろうか?

★以下、ネタバレを含む

備忘録的に記しておきたいのは、ラストで冒頭にも登場した赤い客車をムハバトと結婚したおじさんが押していたということは、冒頭の老婆はムハバトの未来の姿であり、だから冒頭でおじさん(現在の姿)と再会した際に抱き合っていたのではないか、ということ。このおじさんは序盤20分くらいは主人公なんか?というくらい登場していて誰かと思っていたら、ムハバトの妊娠を唯一謗らなかった人物として後に結婚することになるのだ。ムハバトは全然納得してなさそうだったが、その後に彼女を古い因習から解き放ってくれたかのような描写もある。結婚後は白いドレスだったのが、ラストで真っ赤のドレスに戻るのとか。いや、示唆的な描写なので違うのかもしれないが。

・作品データ

原題:Yo'l bo'lsin / Дорога под небесами
上映時間:77分
監督:Kamara Kamalova / Камара Камалова
製作:2006年(ウズベキスタン)

・評価:100点

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