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テレザ・ヌヴォトヴァ『ナイトサイレン 呪縛』スロヴァキア、"魔女"と呼ばれた女たち

テレザ・ヌヴォトヴァ長編二作目。8歳のときに家を飛び出したシャロータが崖の上から妹タマラを吹っ飛ばしてしまう冒頭、音もなく落下して視界から消え去る感じ、めちゃくちゃアンドレア・シュタカ『Cure: The Life of Another』に似てた。ただ、その後の展開は全く違う。大人になったシャロータは、一番故郷に帰っちゃいけないタイミングとコンディションで故郷に帰ることになり、あの頃と変わらぬ森の中で、今では焼け跡を残すのみとなったかつての実家や廃墟となった隣家を発見する。するとそこに、全裸月光浴をしているミラという同年代の若い女が登場し仲良くなる。そして、趣味が全裸月光浴で薬草集めと売春で金を稼ぐという作中一番の魔女ムーヴをしているミラを差し置いて、村人たちはシャロータを魔女なんじゃないか…と疑い始める云々。自分が居なくなった後に何が起こったのか?自分が知らないところで何が起こっていたのか?という疑問を調査する過程で"魔女"の捉え方が変化していくのが興味深い。シャロータが看護師、ミラが"薬師"というのからも分かる通り、二人は男性社会でも物言える立場であり、男に従いたくないときは従わないというのが正しく"魔女"、と。一方で暴力夫に好んでついて行く女性と、レズビアンであることを隠している女性も登場する。前者はこの空間で迫害されずに生きる一番単純な道という意味で、ミラと対比されている。また後者に関しては、サバトをクィアコミュニティと捉える斬新な発想で、後者を"そこに飛び込めない"人物と描いていた。この村で暮らしていくのに私は"魔女"になる勇気はないよ…という、まさにジェーン・シェーンブルン『I Saw the TV Glow』そのもので驚く。

"魔女"とされた二人を助けるのが、めちゃくちゃ影の薄い羊飼いの青年(村の人間ではない)というのが実に皮肉っぽい。そもそも"魔女"という概念がキリスト教から生まれたのに、それを厳格に守って魔女狩りしてるように見せて、実は外れたことをしているという強烈な指摘だ。ちなみにこの羊飼い、羊たちを山中連れ回しているようなのだが、これがまさしくEduard Grečner『Dragon's Return』の情景と重なる(スロヴァキア映画史に残る怪物的傑作なのです)。これも村から追放されていた男が数十年ぶりに戻ってくるところから始まり、深度の浅い背景とかまで見事に一緒。

追記
父親ユライ・ンヴォタはドゥシャン・ハナーク作品の常連俳優で自身も監督作をたくさん作っており、母親アンナ・シシュコヴァもヤン・フジェベイク作品など多くの作品に出演する女優だった。

・作品データ

原題:Svetlonoc / Nightsiren
上映時間:110分
監督:Tereza Nvotová
製作:2022年(スロヴァキア)

・評価:80点

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