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ロッジ・ケリガン『クリーン、シェーブン』お前にはパラノイアでも俺には現実なんだ

ロッジ・ケリガンのカルト的代表作を遂に拝むことが出来たことにまず感動している。このノイズ音(主に悲鳴と自分の呻き声)と環境音だけが鳴り響く空間に、鏡を異常に恐れる狂人を配置し、その異常行動を延々と展開する地獄のロードムービー。計画性のないサイコパスの地獄旅行といえば、『鮮血と絶叫のメロディ / 引き裂かれた夜』を思い出すが、映像が比較的穏やかなかつ丁寧な本作品のほうが異常さは際立っている。目線は忙しなく動き回り、聞き取れない単語をブツブツと呟き、コーヒーに入れられるだけの砂糖をぶち込み、車の窓ガラスを叩き割って新聞紙を貼り、鏡を見ずに髭を剃って顔中血塗れになり、図書館の本棚に頭突きし続ける。しかし、丁寧に紡がれた物語はカーゲルの偉大なる遺産の後追いかと思いきや明後日の方向へ飛んでいく。

主人公ピーターには目的があって、それは養子に出された娘ニコールを取り戻すことだ。ピーターの威圧的な母親はピーターに対してもニコールに対しても極端に冷たいし、彼女のその冷たさがピーターの統合失調症の原因の一つになっているであろうことは容易に想像がつく。そして、ピーターの病的な娘への執着は子供への執着に変換され、彼の幻想世界は子供の声や姿で溢れかえる。異常さに理由を与えるというある種陳腐な展開は、控えめな映像表現と呼応して、逆に一人の男に寄り添う構図へと変化していく。

そして、ピーターが泊まった宿で少女の遺体が見つかり、警察が出動する。刑事はねっとりとした捜査でピーターの後を追い始め、彼の人生を詳らかにしていく。物語をクリアに、構造変化をスムーズにしてくれるのは刑事の存在に依るところが大きいだろう。しかし、この刑事も中々変態的な捜査を展開する人で、ピーターが泊まっていた宿にそのまま宿泊して証拠を探り、ニコールの養母に言い寄り、印象的だが本筋とは関連のない謎の銀行強盗遭遇シーンまで付いてくる。

"頭には受信機、指に送信機を付けられた"と娘に語りかけてからのラストシーンは感動的で、冒頭からは想像もできないほど穏やかなだった。とはいえ、再現度の高さから短いくせに圧倒的な疲労度。

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・作品データ

原題:Clean, Shaven
上映時間:79分
監督:Lodge Kerrigan
公開:1995年4月21日(アメリカ)

・評価:80点

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