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Margot Benacerraf『Araya』アラヤ半島、塩との生活

カンヌ映画祭コンペ部門に選出された数少ないベネズエラ映画の一つで、同じくコンペに並んだアラン・レネ『ヒロシマ・モナムール(二十四時間の情事)』と共に国際批評家連盟賞を受賞した。舞台はベネズエラ北部に位置する不毛の地アラヤ半島。ここでは何も育たない反面、海から得られる塩だけは豊富に存在し、それが金と同等の価値を誇っていた時代に大変重宝された。当時スペイン帝国によって築かれた堅牢な要塞は450年経って放置されたまま、残骸を陽光に晒している。人々は貴重な塩に見向きもしなくなったが、ここでは発見当時からの製法を守りながら塩を作って細々と生活している人々が残っている。海から海水を上げ、干上がった塩を岸辺に運んで乾かし、白いピラミッドのように積み上がった塩を更に運んで、それを袋に詰め売りに出す。この作業を家族総出で行っているのだ。黙々と白い塩の山を築き上げていく姿はまるで本物のピラミッドでも作っているかのようだが、あくまで肉体=現在ではなく風景=歴史の一部として捉えているのが特徴と言えるだろう。それは塩の生成以外の生活風景にも共通している。

本作品には視点人物となる三家族が存在していて、具体的な仕事内容に触れる際は彼らの目を通して語ることになる。が、ナレーションで語られるそれらの情報は特段必要なものでもないと感じられるほど、映像には力がある。特筆すべきは、映像になんら告発や搾取めいた主張が含まれないことだろう。徹底的に彼らの目線に寄り添っていて、映像から彼らの生活、そして彼らが守ってきた時間に対する深い敬意を感じるのだ。ドキュメンタリーが苦手な大きな要因の一つがその貧困告発的な姿勢にあるんだが、本作品には全く感じられないので非常に嬉しかった。

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・作品データ

原題:Araya
上映時間:90分
監督:Margot Benacerraf
製作:1959年(ベネズエラ)

・評価:70点

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