「好き」がある街
飼い猫の鳴き声で、目が覚めた。
随分と目覚めが悪かったが、もう11時である。
寝癖だらけの髪の毛を直し、いつものジャケットを羽織ってバス停までのんびりと歩き出した。
大橋駅も特急が停まるようになってから、人も街も、たいそう雰囲気が変わったものである。
イタリアンなどのお洒落な店から、人気のラーメン店まで。
電車を急ぐ人、役所に急ぐ人、笑顔で待ってる愛する人のもとへ急ぐ人…
僕が好きな人に会う為に、バレンタインを渡しに来ていた大橋駅は、すっかり別の街になっていた。
そんな思い出いっぱいの街で、旧友と盃を交わした。
相変わらず、第一声はパートナーへの愚痴であった。
まぁまぁ…と抑えつつ、どうして好きな人にそこまでの遺恨が出てくるのかと思いながら、彼の話をずっと聞き入っていた。
恋愛離れだの、蛙化現象だのいろいろ言ってるが、利害の一致があってこそ好きは成立しないと思う。
相手の目につく部分を、どう自分の生活の「当たり前」にできるか。
それができないと、好きな人の好きな人には、一生かかってもなれないだろう。
いい感じに酔ったまま帰宅すると、猫が尻尾を立てて待っていた。
元いた部屋へ行ってみると、ベッドシーツの上に、お花を摘みに行かれてたようである。
まったく〜ひめさんったら…
深夜12時。
ジャケットを脱ぐ事も忘れて、僕はシーツを洗濯し始めた。
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