鬼のような上司は、実は優しい人だった
以前、会社に勤めていた時の話です。
『俺は酒なんて本っ当に嫌いで、できれば一滴も飲みたくないね』
それを言ったのは、接待やお酒の席で「右に出る者はいない」と言われる上司でした。
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僕が在職中、その上司が退職することになると聞きました。
普段は別部署で会わない方でしたが、たまたま会社で会えたので30分ほど話し込みました。
そこで出てきたのが、『酒なんて嫌いだよ』という言葉だったのです。
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◆人がやりたがらないことを引き受けるのは、思いやり
その上司は、飲みの席ではみんなから「鬼」と呼ばれるような方でした。
僕自身、その上司は「飲んで飲ませる怖い人」「お酒好き」という印象でした。
この際退職前に、踏み込んで、その上司自身のことを聞きました。
そして、仕事とお酒の話からこんなことを言ったのです。
『接待とか誰もやりたがらないんだよ。だから俺がやってるだけ。
お酒の席でまとまる話なんてゴマンとあって、それをみんなやりたがらない。
だから俺がやるしかないと思ってやってんの。
俺なんて、酒なんかほんと大っっ嫌いで一滴も飲みたくないね。
出来るならウーロン茶とかジュース飲みたいし、うちに帰って蕎麦でもすすっている方がいいんだよ、本当は』
『みんな、接待とかお酒の席って嫌がるんだよ。俺も嫌だよ。
でも、誰かやんないといけないからね。それを腹くくってやってるだけ。
だから今、こうしていられるわけ』
この方はプロだと思いました。
普段から揺るぎなく自信ある風情を醸し出している理由が、直感できました。
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◆プロ意識を学ぶ
人が嫌がることは、自分も嫌なこと。
自分が嫌なことは、人も嫌がること。
たいていのことは、これが当てはまる。
でも、それを言っていては、始まらない。
仕事なんて、人が「嫌がること•面倒なこと」がほとんど。
だから、あえて自分がやっていかないといけないこともある。
あらゆることを、仕事だと思って、やる。
上司の上司たる所以は、心意気とか覚悟にあることを学びました。
「尊敬」という言葉が、こんなにもしっくりくる人は初めて。
当時、そんな気持ちでした。
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◆覚悟と、思いやり
人がやりたがらないことを引き受ける。
これは、覚悟が必要です。
誰もが嫌がり、自分自身も嫌なことに、あえて向かっていくには「覚悟」というものが要る。
それからもう一つ要ること。
それは「思いやり」とか「優しさ」です。
ぼくは「鬼」だと思っていたその上司に、「思いやり」という心を見たのです。
普段、優しさとか温かさを表に見せることはないし、人当たりはキツめに感じる印象でした。
でも、実は、根っこから「思いやり」ある人だったのです。
表面的に「優しい」とか「思いやりがある」なんてものではない。
もっと大きく、もっと深く捉えた中での、人間の「思いやり」を知りました。
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「鬼」は、本当は鬼ではありません。
悪者ではなく、鬼という役割を演じているだけです。
表面的には見せない、深い「心優しさ」を秘めていて、
人には理解されない部分を持ち、
哀愁すら抱えた存在だったのです。
P.S.
数年経って、その上司はさらに活躍していました。
これからも、頑張ってください。
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