TKC模試の結果の分析と対策・本試験までの姿勢


1.はじめに

 私は、令和5年の司法試験に合格し、現在は77期司法修習生として、弁護修習を受けている段階の者です。
 先日、Ⅹ(旧Twitter)で、ある司法試験受験生が、上位数%というかなりの好成績を取ったTKC模試の結果を画像付きで投稿しているのを拝見しました。「もうそんな時期か~。早いな~。」と、時間の流れの早さを感じるのと同時に、私自身、令和4年のTKC模試では合格推定圏に入れなかったので、直前期を死ぬ気で勉強した覚えがあります。
 そこで、去年の私と同じように、TKC模試の結果などで気持ちが沈んでいたり不安や焦りを感じている受験生に対して、少しでも励みになったり、直前の追い込みの役に立つような記事を書ければと思い、本記事を執筆しようと考えました。
 もっとも、多くの受験生の中での自分の立ち位置が把握できるという、貴重なTKC模試の結果が出てから本試験まではあまり時間がありません。ここからの1日1日は本当に貴重な時間であることから、本記事は、できるだけ短い時間で読んでもらえて、かつ、上記目的が伝わるように意識して執筆しています。
 では、さっそく中身の方に入っていきます!

2.私のTKC模試の結果とその感想

 憲法、行政法は下位30%、民事訴訟法は下位3%、刑事訴訟法は下位25%と、直前期で焦りを助長してしまうような結果をとってしまい、さらに、民法、会社法は、上位30%、刑法は上位50%と、良いとはいっても中々自信を持ち切るのが難しい成績をとってしまい、直前期で非常に焦りや不安を感じた覚えがあります(労働法は模試直前に必死に勉強していたこともあり、第1問と第2問をあわせて上位12%程度でした)。
 そして、この結果から分かるように、案の定、TKC模試では合格推定圏に入ることができず(短答の成績が良かったため、総合では上位58%でした)、、、
 なんとか、TKC模試で合格推定圏に入り、安心感を得てリラックスしながら本試験を受験したいと考えていた私にとって、このような結果は非常に受け入れがたく強いショックを覚えるものでした。
 ともあれ、このような結果を受け、本試験まで残された時間が1か月半程度しかない以上、「なんとかこの1ヶ月半程度の勉強で本試験の合格を勝ち取るぞ。死ぬ気でやろう。」と強く決意するしかなかったのですが、今から振り返ってみて、このような決意を貫けた過去の自分自身に対しては、本当に尊敬と感謝しかありません。

3.結果の分析とそれを踏まえた具体的な対策

1.結果の分析方法

 まず、前提として、TKC模試において、上位40%に入っている論文式科目は、司法試験では「A」とされます。つまり、TKC模試で上位40%の成績を残すことができた科目は、もう十分に合格答案作成の力がついているのです。たしかに、当日の問題との相性などによって多少点数が左右されることもありますので、たまたま点数が良かったと考える余地も否定できません。しかし、それを言い出すと、結果分析の対象となる客観的指標としての点数というものに対する信頼が失われ、主観的な得意不得意・出来不出来で試験との距離を測ることになってしまうため、一定程度、TKC模試と司法試験との成績には相関があると信じ、上位40%の成績を残せた科目については、このまま力を維持できれば本試験に受かると自信を持ちましょう。実際、そのようなデータも公開されていますし、これを信じることができなければ、各科目の対策の濃淡が決定できず、真にやるべき対策がおろそかになってしまう可能性があります。
 本題の結果の分析はシンプルです。あてはめの内容で差がついているといったような、採点者によって多少採点にブレが出るような部分は基本的には無視していました。それよりも、答案全体の構成や、指摘すべき論点をしっかりと拾い適切な論証を展開するなどといった、各採点者によっても採点にブレが生まれないようなところでミスをしていないか、そういった視点で分析をすることにしました。
 あてはめについても、もちろん、その内容を錬磨させていくことは可能なのでしょうが、1か月半程度といった短時間で、全科目について「一応の水準」にもっていくためには、あてはめの内容を錬磨させる点にフォーカスするよりも、答案全体の構成を整えることや、基本論点を的確に抽出し、それに一定の論証を展開するといった、問題文の具体的事情や採点者によって点数が左右されないところをいかに効率よく稼ぐかといった点に注力することにしました。
 特に、現在の司法試験では(ひと昔前の司法試験もそうであったかは分かりませんが)、基本論点を漏れなく抽出し、これに正確な論証を展開し、一応のあてはめさえできていれば(ここにいう「一応のあてはめ」とは、事実を適示することのみを指します。当時の私は、事実に対する評価は加点事由にすぎないとの学説を信じていましたので笑)、十分合格することができると私は考えていましたので、この点を徹底することにしました。実際、私は、司法試験を上位500以内ぐらいの成績で合格することができたのですが、本試験での答案の出来具合といった実感からしても、上記学説は正しいように感じています。
 そこで、本試験までの短い時間の間に、各科目ごとの基本とされる、本当に超基本的なところを徹底して磨き上げることを目標とし、その観点から、模試の結果を振り返ることにしました。
 具体的な分析内容とその対策は以下のとおりです。

2.具体的な分析内容とそれを踏まえた対策

 ①憲法
  政教分離でたな~。とりま規範は書けたし、めっちゃ事情拾って評価し
  まくったはずやのに、なんで下位30%やったんやろ。解説読んでもだ
  いたい書けとること一緒のはずやのにな~。まぁ、しゃーないか。正直
  よく分からんし、やっぱり憲法は本試験でも事故る可能性もあること分
  かったから、あんまあてにせんと、まとめノート読み込んで徹底しよ
  う。民訴と刑訴特にやばいから、憲法は週1の起案だけで起案の感覚維
  持しつつひたすらまとめノート暗記やー。
 ②行政法
  ほんまによー分からん論点出てきたしな~。ガチで死んだおもてたら意
  外に(?)下位30%程度やったし、公法系はホンマに水物やな~。で
  も、ゆーて、本試験で勝負がつくのは三大頻出論点の論述の正確さやろ
  ーし、あんまマイナーな論点に惑わされんよーにしつつも拾いつつ。と
  りま、三大頻出論点の論述の流れ徹底して、マイナーな論点はまとめノ
  ートで網羅するしかない!
 ③民法
  昔から得意やったし、上位30%入ってれば、大丈夫やろ(上述した、
  司法試験ではA理論も踏まえて)。特にこれマジで分からんみたいな請
  求とか論点無かったし。民法はひたすら四段階思考と、定義・論証の暗
  記でいけるな。その中でも割と覚えとる方やし、なんやかんや定義とか
  論証出てくるから比重は少なめで行こ。
 ④会社法
  ミスった~おもてたのになんやかんや上位30%ってことは、やっぱ民
  事実体系の科目は得意なんやろな~。でも、さすがに模試当日手ごたえ
  なさすぎてからのこの成績は、本試験でどうなるかわからんから、一周  
  は事例演習会社法回しとこ。でも、ゆーて成績自体は良かったから、ス
  ピードもって回して、問題文と論点の関係(こういった問題文の時にこ
  の論点出てくる)を整理して、あとは著名な条文の条文操作と要件もら
  さんように、まとめノート周回やな。
 ⑤民事訴訟法
  やばい。これはあかん。分からなさすぎるにしてもこれはやりすぎ。こ
  こまで悪いと、もはや開き直って、もう一回、インプット終わった段階
  の初学者の気持ちに立ち返って、重問回そ。でも、他の科目の対策で時
  間もないから、丁寧に1周回すことにして、そん時に論証と定義を暗記
  していく形で、2週間は民訴にとろう。2週間で重問1周と論証・定義
  の暗記やな。
 ⑥刑法
  まぁまぁ。上位50%やし、司法試験やったらAではないけど、ええ方
  のBやから十分合格圏内。刑法は、いかに論述の流れを正確に徹底でき
  るかと、定義・論証の正確さと処理スピードが求められるから、まとめ
  ノートで、処理手順と定義と論証を周回するだけ。論述の流れもシンプ
  ルやから起案の感覚もそんな落ちひんやろーし、起案は時間もかかるか
  ら、もう起案はやらん!
 ⑦刑事訴訟法
  これも相当やばいな。民訴に次ぐやばさ。違法収集証拠とかの基本的な
  論述の流れとか論証も抑えきれてなかった、、ってことで初学者の段階
  に立ち返って、重問1周か? いや、刑訴は過去問の焼きまわしってよ
  く聞くし、ホンマに時間ない中、やること絞るってなると、過去問の焼
  きまわし多い刑訴に限っていえば、重問で論点の網羅性あげるよりも、
  過去問を全年度答案構成して、その都度論証正確にすることかな。そっ
  ちのんが重要な気がするから、まだやってへん過去問14年分を1日に
  2通答案構成して、その1週間で演習しながら論証まとめて、もう1週
  間でその暗記徹底しよ。要するにまとめノートの再充実と、その反復や
  な。
 ⑧労働法
  やっぱり加藤ゼミナールのん最強やな。直前1か月で百問集1周と論証
  暗記すれば全然いけたわ。民法と同じで、論証さえ暗記してればしょう
  み後はなんとかなるやろ。んで、司法試験1日目の最初の科目やから、
  司法試験2日前から論証暗記して、短期記憶で頭にぶち込めばなんとか
  なる。他の科目の対策で時間ないからこれしかない。

 まずは、具体的といえるか分かりませんが、こんな感じで、各科目の成績の分析を行いました。これらの分析と対策から分かるように、要するに、多少の方向修正はあれども、演習を繰り返し、それをまとめノートにまとめ、そのノートを繰り返し読んで暗記するという、自身の今までの学習方針(具体的な勉強法やまとめノートについては別記事で詳述しています)を変えずに、勉強することを徹底するようにしました。その中で、演習すべき対象が重問なのか過去問なのか、その暗記に割く時間の比重はどうなのかといったところは当然変動しますが、2年前からやってきている自身の勉強法を貫き通すことで、本試験合格を勝ち取ることができると再度確信するに至りました(本当はそのような確信を得ることで、このまま勉強していけば合格できるという安心を得たかっただけなのかもしれませんが)。
 上述のとおり、分析内容と対策のところでは、口語かつ簡潔に書いているので、本当にササっと分析したようなイメージに映るかもしれませんが、公法系に関しては、もっと起案を重ね、論述を磨き上げるといった勉強や、民訴についても、可能であればもう少し過去問を遡って勉強したかったですし、刑訴に関しても、論点の網羅性を捨てて過去問を信じるという、かなりの苦渋の決断を迫られました。本当に時間のない中で、確実かつ最短で点数を最大化するといった観点から分析すれば、自分のやりたい勉強という主観的願望と、真にやるべき勉強という客観的課題は、かなり大きく異なることが分かります。真にやるべき勉強をこなしていく中で、自分のやりたい勉強ができていないことから強い不安が襲ってくることもありますが、自身の分析を信じてやり抜きましょう。やはり、最後まで自身の勉強法を貫いた受験生が多く合格していると、実感として感じています。

4.TKC模試から本試験までの姿勢(気持ち)

1.当時を振り返って

 模試の結果が返ってきた時は本当にショックでした。周りの友人は優秀な人が多く、悠々と合格推定圏に入っている人も多かったです。そんな中、
 「今年はホンマにあかんかもしれん。短答の成績が良かったからかろうじて総合上位58%って半分ぐらいになっとるけど、論文だけでゆーたら上位68%やし、まじで時間ないし、ホンマにあかんかも。でも、今年あかんかったら、みんな先修習行ってもて、一人取り残されるかもしれん。それにここまで勉強してきたんは、苦しい環境でも不自由なく勉強させてくれた親への恩返しがしたいって気持ちやったし、ホンマに苦しい時にいかに頑張れるかが俺自身の真価が問われて、バリバリ成長できるええチャンスやから。人生のターニングポイントやおもて、あと1ヶ月半、腐らずに死ぬ気でやってみよ。1か月半どんだけ追い込んでも人間死なんし。それであかんかっても、もう後悔ないぐらいにやろう。」
 と、覚悟という言葉の意味をひしひしと感じる決意を下しました。

2.受験生のみなさんにお伝えしたいこと

 私は、そのような決意の下、結果として合格することができましたが、「あの時あんだけ努力できたんやから今後も絶対大丈夫。頑張れる」と、この時の頑張りが、今でも自身の中の確固たる自信となっていますし、本当に良い経験になったと思っています。
 もちろん、その結果、不合格だった世界線は経験していませんので、不合格になっていたとしても、その結果や過程を前向きに捉え続けることができていたか、それをもって再度司法試験に前向きにチャレンジすることができていたかは、正直分かりません。不合格となり、自暴自棄となって、病んでしまい、何もやる気力が生まれなかったかもしれません。
 ただ、この経験を通して、確実に言えることが2つあります。
 1つめに、この1か月半の頑張りがなければ、ほぼ確実に合格できなかったということです。
 別記事で詳述していますが、司法試験では、直前1か月半に猛勉強した範囲についてよく出題され(勉強の範囲の絞り方が上手かったと自負しています笑)、しっかりとした論述を進められました。特に、民訴では、マイナーとされていた民事訴訟における違法収集証拠の論点や難問とされた参加的効力の論点などが出題されましたが、しっかりと重問でカバーすることができましたし、刑訴では、領置と実況見分調書の証拠能力という、ほとんど過去問通りやないか!とツッコミたくなるような、本当に過去問そのままのような問題が出題され、直前に過去問をやっている私からすれば、脳死で論述を進められるような問題でした。仮に、模試を踏まえた分析を行ったうえで対策を練り直さなかったり、直前1か月半の頑張りがなければ、両科目について、模試と同様に爆死していたと思います。結果として、民訴、刑訴ともにAをとることができましたが、直前1か月半の頑張りのおかげで書けたな、と思えるような箇所が他にも多くありましたので、この頑張りがなければ、ほぼ確実に不合格になっていたと思います。
 2つめに、直前1か月半の頑張りが、司法試験当日の良いメンタルを作り、当日の苦しい中にあっても、自分に自信や気力を与え、支え続けてくれるということです。
 これも別記事で詳述していますが、司法試験1日目の憲法では、まさかの生存権が出題され、愕然としました。当然(?)対策が手薄になっていた人権です。どの科目もあまり答案構成せずに論述するスタイルでしたので、およそ試験開始から20分ほどすれば答案を書き始めるのですが、司法試験の憲法では、開始1時間10分後、つまり残り50分になってはじめて、答案の1頁目の1行目を書き始めました。生存権が出たことでパニックになってしまい、構成も思いつかず、本当に泣きそうになりながら時間の経過をただただ感じるだけのような状況に陥ってしまっていました。そのような中、「今年の司法試験はあかんかもな~。」と諦めてしまいそうになったのですが、「まだ他の科目があるし、せっかくこの日まで頑張ってきたんやから、5日目の短答が終わる時まで、椅子に座ることまでは絶対に達成しよう」と再度意気込むことができました。普段は6頁以上書く憲法答案を3頁しか書けず、もはや三段階審査も構成も何もなってないような答案を提出する結果となりましたが、やはり、1か月半前に決意した気持ちを最後まで貫こう・最後まで頑張ろうと思えたのは、直前期の頑張りがあったからだと思います。

5.さいごに

 最後の最後、自分自身を救うのは、それまで積み上げてきた自身の努力とそれによる自信です。
 模試では、あと1か月半じゃ間に合わないようと思うような、悲惨な成績をとった科目が数科目ありましたが、他方で、それと同時に、もう大丈夫だと思えるような、自分なりに出来たと思える箇所が何箇所もありました。皆さんにも、少なくとも、出来たところ出来なったところは明確に存在するはずです。出来なかったことを嘆きたくなる気持ちは分かりますが、時間は限られています。出来た出来なかったを明確に区別し、真にやるべき勉強を一生懸命取り組むようにしましょう。
 たしかに、一生懸命取り組んで合格できるかどうかは分かりませんが、やらないと、合格する可能性は確実に失われてしまいます。
 私は、今となっては、直前の模試で合格圏内に入っていなくて良かったなと思っています。仮に、合格圏内に入り、少し安心していれば、司法試験当日、直前期に死ぬ気で勉強して学び直せたあの論点やこの論点に気づけなかった可能性があったからです。皆さんには、出来なかったことを多く示してくれた悪い結果に感謝しつつ、課題を分析し、対策を練って、死ぬ気で勉強し、あの時やっておけば、と後悔することがないようにしてほしいなと思います。
 別記事では、勉強法等について書いた記事もあります。そちらの記事もあわせて参考になればと思います。
 苦しかったり、不安だったり、焦りを感じていたり、本当に大変な時期だとは思いますが、最後まで頑張りましょう。
 心から応援しています。

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