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【コラム】 SNS“BeReal”熊大生にも流行中? 新たな学生コミュニケーションツールになるか

 去る10月某日、とある教養教育の授業中、突如として教室に小さなざわめきが走った。一斉に鳴る通知音と、スマートフォンで写真を撮るシャッター音。教員は「このスライドで撮影?」とスクリーンを二度見する。自分もなにごとかと隣に座る友人に聞くと、“BeReal”なるSNSの通知だというのだ――。
 ——というのが、現場に居合わせた学生が見た一部始終である。80人ほどの学生がいる中で少なくない人数が撮影していたといい、熊本大学にも思った以上に多くの利用者がいることに驚いたという。この“BeReal”とはいかなるアプリケーションなのだろうか。
 “BeReal(ビリール・ビーリアル)”は、2020年にフランスで公開され、現在日本を含めた世界中で流行をみせているSNSアプリケーションである。特徴は「突然やってくる投稿タイミング」と、「写真の加工ができない」こと。アプリが毎日不特定の時間に1度だけ、そのタイムゾーンにいる利用者全員に通知を送ると、その日の投稿欄が解放される。利用者は、通知から2分間、スマートフォンで写真を撮影することによって投稿することができ、数秒の間隔で外内のカメラが撮影される。遅れて投稿することもできるが、写真には何時間遅れて投稿したかが付記され、投稿するまでは他の利用者の投稿も見ることができない。投稿は、基本的にはInstagramのように利用者とフレンドである人々のものが表示される。また、SNSで定番の「盛れる」フィルターは存在しない。通知が来た瞬間の「生の」自分を見せるのが粋な使い方ということになるだろう。
 BeReal公式も「本物の友情を築」けること、「真の自分を見せることができる」こと、「ごまかしがきかない」こと(App Storeより引用)をセールスポイントとしている。しかし、実際に売り文句通りかと言われると、必ずしもそうではないだろう。例えば、投稿時間を特定し、そこからの遅れを明示する仕組みは、投稿時間から遅れて投稿することを「本物」の自分を見せていないと非難することにつながる可能性がある(トロント大学の学生Sarah J Synderの調査)。また、いつ投稿タイミングが来るかわからない特徴は、人によっては常に見られることを意識しなければならない重荷になるだろう。
 加えて、今回の一件について述べるなら、授業のスクリーンは著作物であることを忘れてはいけない。いつの間にか投稿型のSNSに資料を公開される教員は決してうれしくないはずで、著作権や肖像権の問題も常に付きまとう。
 とはいえ、日々のひとコマを赤裸々に写し取ることもできるBeRealは、加工や匂わせが氾濫する既存のSNSから一歩離れたところにあり、これまでにない面白さを我々に提供してくれている。一瞬の撮影時間の中で、いかに面白い1枚を撮るか思案する。友達のいつもは見せない表情に思わず吹き出す。アドリブから見えてくる人柄もあるだろう。
 写真の削除や撮り直しを含めても、1人が1日2回しか更新できないために投稿の総数も自然と少なく、利用の拘束時間は短い。「見せること」「見られること」のしがらみから完全に自由ではないかもしれないが、使い方によっては、SNS疲れした大学生の憩いの場となるかもしれない。

左から①自撮りとしての使い方。②大勢での撮影も可能。 ③撮影タイミングの差を使った楽しみ方も。(熊本大学新聞社社員提供)

【記者後記】
 記者は恥ずかしながらBeRealについて、情報の提供を受けるまでまったく知らなかった。余談ではあるが、この一件から、私的なものと公的なものの境界の変化について考えてみたい。一昔前であれば、公的な時間・空間である授業中に、私事であるSNS写真の撮影をするだけで、(実際には快不快で単位の可否が決まることはないとしても)単位に関わるくらいのタブーだった気がする。
 授業は「公のもの」なのか、SNSで人とつながりを持つことは「私のもの」なのか。「授業中にSNSなどけしからん!」と一蹴する前に、境界の移り変わりとして理解すると、学生というものについて見えてくるものがあるのかもしれない。
(2023年3月3日)

【デジタル版編集部備考】記事は2023年11月20日に執筆されたものを加筆したものです。

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※2024年3月6日、ご指摘を受け一部表現を修正しました。(デジタル版編集部)

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