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仲直りさせるなんてもったいない!子どもの共感力を伸ばす、ケンカ仲裁法

ケンカに仲直りは必要なのか?

子どものころ
別に仲良くなりたくもないのに「仲直り」させられたことはないだろうか?
やんちゃ坊主だったぼくは,そんなことがよくあった。

学校では,子ども同士のケンカが起きる。
そして多くの場合は,
大人が間に入って,仲裁をする。

ぼくも若いころから,子どもの間をとりもって,
どうにかこうにか…
あの手この手で…
全然うまくいかなくとも…
仲直り"させて"いた

しかし今では,
ケンカの仲裁で仲直りさせるのは,間違いだったと反省している。
今は,絶対に仲直りなんてさせない。
なぜなら,その方が子どもは成長するからだ。


仲直りは,その場をやり過ごしたい,大人にとって都合が良いだけだ。
出来ることなら,
若い先生やこれから子どもと関わる方には,
ぼくと同じような過ちを犯してほしくない。

どうしてケンカが起きるのか

けんかの仲裁法として,
お互いにごめんなさいして「仲直り」は定番といってもよい。
今でも,たまに目にする。

しかし,そもそも子どもは,
何のためにケンカをしているのか?
仲が悪いから,するのか?
それは,違う。
仲が悪いならば,そもそも関わらない。
仮に,関わらなくてはならない環境だったとしても,
その場をやり過ごす方法は,ケンカすること以外に山ほどある。

では,なぜケンカをするのか。
それは,自分の権利と,相手の権利がぶつかり,
対話では折り合いがつかなくなったから
だ。

例を挙げる。
Aくんがブランコで遊び始めたところに,Bくんが来た。
B「そのブランコ貸ーしーて。」
A「やーだーよ!」
(Aは,たった今遊び始めたばかりで自分が遊び足りないののだ。)
B「だめだよ。ちゃんと交換してよ!」
(Bは遊具は変わりばんこで遊ぼうねという先生から教えてもらったルールに則ったのだ)
A「いやだってば!」
B「いいから,早く!」
(ブランコを力づくで奪いにかかる。)
A先生に泣きつく。

この場合,AくんにはAくんなりの権利の主張が成り立ち,
BくんにはB君なりの権利の主張が成り立つ。

双方の思惑がぶつかって,
話し合いでは解決できずにケンカになる。
他にもいろいろなケースが考えられるが,
ケンカの原因はほとんどが,

〇自分のしてほしいことをしてくれなかった。
〇自分のされたくないことをされた。


のぶつかり合いで起きる。

失敗するケンカの仲裁方法

ここからケンカの仲裁が始まるが,避けたいことが2つある。

1つ目,ケンカしたことを両方しかって,喧嘩両成敗。
これは,ケンカしたことそのものを叱るということになる。
ケンカがいけないことだと認識すると,
「権利を主張してはいけないのだ」という誤学習を生みかねない。
そして,なぜ相手と自分の間でトラブルが起きたのか,今後どうすればトラブルを回避できるのかということも分からない。

2つ目,大人の基準で,裁判すること。
例:事情はなんであれ暴力はいけないから,Bくんが悪い。
  変わりばんこという先生との約束をやぶったから,Aくんが悪い。
これは,問題を処理することはできるが,
どちらか一方の主張を抑えつけることになる。
これは,大人のような権力さえ得られれば,
問題を解決せずにひねり潰すことができるのだ
という誤学習を生む。
また,大人に裁判できないように
裏で攻撃するという「いじめ」を生みかねない非常に危険な方法だ。

そして,両者とも,かなりの確率で保護者を巻き込んだトラブルの原因になる。

(えっ?放っておいて,子ども達だけで解決すれば良いんじゃない?)
とお思いの方もいるだろう。
確かに,それが一番子ども達の力にはなるかもしれない。

実際,私はほとんどのケンカの間に入らない。
しかし,これがうまく機能するには,
〇学級の中に,固定的な上下関係がないこと。
〇保護者や同僚から,一定の理解を得ていること。
などの条件がある。
そのため,若い先生には少し難しい部分があることをご理解願いたい。

子どもの共感力を伸ばすケンカの仲裁の方法

では,具体的にどのようにケンカを仲裁すれば,子どもの力が伸びるのか。
そのために,私は次のようなステップを踏んで仲裁している。

①提案者(仲裁を持ちかけてきた子)の話を聞いて,場を設ける。
②約束事の確認。
➂提案者の主張を聞いて,相手側の理解を促す。
④相手側からの主張を聞いて,提案者の理解を促す。
⑤提案者の要望を聞く。
⑥相手側の要望を聞く。
⑦適度な期待と励ましを伝える。



①提案者(仲裁を持ちかけてきた子)の話を聞いて,場を設ける。

初めにすることは,
仲裁を持ちかけてきた提案者の話を聞くことだ。
まずは,その子の困り感に共感を示す。
そして,どうしたいのか?
と言うその子の目的を聞く。
その上で,仲裁の助けが必要なのかを聞く。
(ここで必要なければ仲裁は終わり。)

この時,その子側に「あなたも何かしなかった?」と聞いたりはしない。
この時はもう怒りが一番に来ているので,
自分の非など話さないことが多い。
いずれ,その子の非が出てきたときに,
嘘をつかせてしまうことになる。

とにかくここでは,苦しんだや悲しんだという感情に耳を傾ける。

また,この時に第三者の子が「〇〇ちゃんがね…」とか
言いながら関わってこようとしても聞かない。
もし,その子も何か訴えたいことがある場合は、
その子が提案者としてまた話をしてくるように伝える。
相談した提案者の話を聞いたら,
相手の子に話を聞いていいかを確認する。
そして,相手の子に声をかけて、
静かに話ができる時間と場所を設ける。
大きなケガをしたなどの理由で,管理職に報告が必要な場合は緊急に。
それ以外は,休み時間等に行う

②約束事の確認

2人が準備ができたら,
まず初めにこの話し合いの約束事を確認する。
約束は、全部で2つある。
1つ目は,話は最後まで話しきると言うこと。
話し合いの後や家で,「本当は~」と言うのはしないということだ。
2つ目は,一人が話している間,もう1人は必ず静かに待つと言うこと。
必ず,どちらも順番に話を聞くという前提条件を確認することが大事だ。


➂提案者の主張を聞いて,相手側の理解を促す。

話し合いのスタートは,提案者側から。
「どんなことがあったのか,教えて?」と言って話してもらう。
状況が分かったら,
「そこで,あなたはどうして欲しかったの?」と聞く。
次に,「言い残した事はない?」と確認をする。
提案者の主張を聞いたら,相手側にそれが理解できたかだけを確認する
先のブランコの例で言えば,Bに対して

「Aくんは,理由を聞かないで無理やり取られたことが嫌だったと言っているよ。『理由も聞かないで無理やり取られたら嫌な気持ちになる』というのは分かる?」

と聞く。とにかく,ここでは理解できればいいのだ


④相手側からの主張を聞いて,提案者の理解を促す。

続いて相手側から話を聞く。
「どんなことがあったのか,教えて?」と始まり,
「言い残した事はない?」と確認をするのは,先ほどと全く同じだ。
(ここで,特に無いという場合は次に進む。)
相手側の主張を聞いたら,提案者にそれが理解できたかだけを確認する

先のブランコの例で言えば,Aに対して
「Bくんは,Aくんが遊んでいた時間が分からなくて,ゆずってくれなかったのが嫌だと言っているよ。『理由もわからずに断られたら嫌な気持ちになる』というのは分かる?」
と聞く。


⑤提案者の要望を聞く。

お互いの言い分を聞いたら,また提案者側に話を聞く。
「Aくんは,これからどうして欲しいの?」と,
今後の要望を聞く。
「今は,どうしてほしい?」と直近の要望を補足しても構わない。
この時に考えるのが難しければ,例として
「謝ってほしい?謝らなくていいから,今後気を付けてほしい?」
と言うように,候補を示すと選びやすくなる。

提案者の要望を聞いたら、相手側にどうするか聞く。
ここで、無理に提案者の要望に沿わせようとはしなくて構わない
相手側の子がどうしたいかを決断させ,行動を促す。
どうしても謝りたくないと言う時も,
「今はどうしても謝りたくないんだって。」
と事実をAに伝える。
(こうなるケースはかなり稀だ。そしてこれを繰り返すと,損をするのはBくんになる。多くの子は自分から友達が離れるのが分かるので,ほぼ謝る。ただ,謝ることが全くできない子も一定数いるので,それはまた別の支援が必要。)


⑥相手側の要望を聞く。

提案者側からの要望を聞いたら,同じ流れで相手側の要望を聞く。
「今回のことで,言い残したことは無い?」と念を押す。
これが,管理職への報告や,保護者への連絡をする上で大切になる。


⑦適度な期待と励ましを伝える。

最後に,お互いに対して大人から感謝をする。
「今日は、いろいろな話をしてくれてありがとう。この時間は、2人にとって相手を他の人の考えを知る,とても貴重な時間になったと思うよ。」
そして,”適度に”励ます。
でもきっと,ケンカはまた起きると思うから,その時にはまたお話ししようね。応援してるよ。」(この一言は,先輩の金大竜さんの実践を参考にしている)
そう言って解散する。
多くの場合,この頃には2人とも笑顔になっていて,
時にはそのまま一緒に遊びに行ったりする。笑

ケンカの仲裁の目的

さて,このような流れでケンカの仲裁を行うと、
あっという間に大人に対する仲裁要請は無くなっていく
そして,学級の人間関係も良くなっていく。
ただしそれは,なれ合いではなく,お互いに主張し合い,
聞き合う関係が出来上がっていくからだ。
そして,方法に慣れてくると,
子ども同士で仲裁し合う場面も見られるようになる。
「先生,CとDのケンカがうまくまとまらないんだけど,どうすればいいんだっけ?」
というような,質問も受けるようになる。
ケンカの仲裁の目的は、仲直りではない。
子供たちは、仲が悪くなった事に問題を感じているのではなく、
自分の思いが相手に伝わらなかった事に問題を感じているのだ。
なので仲裁の目的は,自分と他者との違いを理解し,
安全に生活していく能力を身に付けるためだとも言える。

ケンカは子どもが拾ってきた宝

ケンカは,自分と他者との違いが表面化する現象だ。
一つ一つのケンカから,自分と他者との違いを学ぶ。
ケンカを繰り返して,自分の特性や,他者との適切な接し方がわかってくる。
一つ一つを、貴重なケーススタディーにしていくしかない
ケンカを通して子どもは,多様な他者の姿,自分と他者との考え方の相違を,知覚する経験ができる。
この経験が,他者の気持ちに共感して考える力の土台になっていく。
こうして身に付いた,他者を思いやる力は、転じて自分自身の自由を守ることができる力にもなる。
人の権利を侵害せずに,自分の自由を確立できる力の育成につながっていくのだ。
その点で,私はけんかは子どもが自分で拾ってきた宝だと思っている。
それを,私たち大人が取り上げるなんてもったいない。
大人にも,たくさんのことを学ばせてくれる,子どものケンカをこれからも大切にしたいと思う。

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