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【写真エッセイ】この色彩のなかで

メキシコで暮らしていると、ときおりはっとするほど美しい色彩に出会う。

そしてそのたびに思うのだ。3歳の娘の小さな瞳に今この景色はどんなふうに映っているのだろう、と。

旅が得意なわけじゃない。とりわけ「街歩き」がメインの旅は、ベビーカーに不向きながたがたの石畳に、子どもが食べづらい伝統料理のレストランばかりで、正直言って楽しさよりもまず疲れを感じてしまう。

それでも、ホテルのプールで遊ぶ旅ばかりではなく、たまには街を歩こうと重い腰を上げるのは、そこに「娘に今見てほしい」と思う色彩が広がっているからだ。

グアナファトで見つけた路上の土産物屋で

鮮やかで強い色を組み合わせているのに、互いに喧嘩し合うわけでもなく、譲り合ってしまうわけでもない。メキシコで出会う色彩は、不思議だ。

色の専門家が見ればなにか明確な答えがあるのかもしれないけれど、個人的には、この国のからりと乾いた空気やサバサバとした太陽光が、ひとつひとつの色を「駆け引きのないまっすぐな色」に見せているのではないか、と感じる。

ケレタロのチーズ工房の入口に咲いたブーゲンビリア

3歳の娘に、ガイドブックに載っているような小難しい豆知識はまだ要らない。その場所に立って、空気を吸って、景色を眺めて、自由に感じてほしい。

サン・クリストバル・デ・ラス・カサスのレストランで

日常に戻ってからも、ふと娘との会話のなかに「旅の断片」を見つけることがある。あそこに行ったとき、こんな色の模様があったよね。こんな色の壁のお店でチョコラテ飲んだよね。何気なく描いてくれた絵の色合いにも、この国が育ててくれた感性を垣間見る。

ピピラの丘から見下ろしたグアナファトの街並み

そんなとき、楽しみに思わずはいられないのだ。

この国の美しい色彩は、この先娘のなかにどんなふうに残り、育っていくのだろうか、と。

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