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展覧会 #09 五感であじわう日本の美術@三井記念美術館

私が美術作品を観るときに大切にしていることは、五感を働かせて作品に向き合うことです。美術情報サイトで展覧会タイトルに「五感」という文字を見つけて興味を惹かれ、この展覧会を訪れてみました。

私が最も期待していた「五感であじわう」ことについては、私はあまり上手くいきませんでした。
それは何故か?については最後に述べることにします。
でも、それを抜きにしても充分楽しめる展示内容だったので、結果的には満足しています。

美術館について

三井記念美術館は三井家が収集した美術品約4000点を所蔵しており、国宝6点、重要文化財75点、重要美術品4点が含まれています。
所蔵品の中核は茶道具類で国宝、重要文化財などの名品も含まれています。
絵画は三井家が積極的に丸山応挙を庇護していた関係から円山派の作品が多く収蔵されています。
そのほか書跡、能面、刀剣類、切手コレクションなども所蔵しており、日本と東洋の古美術を中心としたコレクションを形成しています。

美術の遊びとこころⅧ 五感であじわう日本の美術
会期:2024年7月2日(火)~9月1日(日)
入館料:一般 1,200円 大学・高校生 700円 中学生以下無料

三井記念美術館
東京都中央区日本橋室町2-1-1 三井本館7階
交通アクセス:
東京メトロ銀座線・半蔵門線「三越前」駅 徒歩1分
東京メトロ銀座線・東西線、都営浅草線「日本橋」駅 徒歩4分
JR東京駅(日本橋口)徒歩7分


ここからは、印象に残った展示品と共に鑑賞を振り返ります。

繊細で優美、ときに遊び心を秘めた工芸品

《安南写福寿草植木鉢》永樂保全作 江戸時代・19世紀
陶で再現された福寿草が可愛い。
植物の色を再現していないところが味になっていて面白い。
《青磁二見香炉・銀製二見ヶ浦夫婦岩火舎》
香炉:明時代 火舎:中川浄益(九代)作 明治時代
中国明時代の香炉に載せられた銀製の火舎(ほや)は日本の明治時代に作られたもの。
岩にかけられた注連縄は金でできています。
中国と日本の時代を超えたコラボレーション。波の曲線が美しく優美な香炉。
《松竹梅瀧山水蒔絵広蓋》象彦(西村彦兵衛)製 明治〜昭和時代初期・19 〜20世紀
「広蓋」とは引出物などの贈り物を載せ、受け渡しに使用する道具。
山と水のある自然の風景が蒔絵で華やかに表現されています。
《染象牙果菜置物》安藤緑山作 大正〜昭和時代初期・20世紀
象牙で作られた野菜と果物は再現度が高く遊び心も感じます。
(象牙をこれだけ惜しげもなく使用できた時代があったことも改めて認識)
仏手柑(ぶっしゅかん)というあまり馴染みのない果物が気になります。
当時はポピュラーな果物だったのでしょうか?

自在置物とは昆虫や動物を模した形態で本物と同じように関節が自在に動かせる工芸品。
高瀬好山による自在置物は細部まで丁寧に作り込まているのが分かり、職人技を感じる作品です。

《伊勢海老自在置物》高瀬好山製 明治〜昭和時代初期・19 〜20世紀
触覚を前後に振ったり、脚の関節、腹部も曲げることができるようです。
《昆虫自在置物》高瀬好山製 明治〜昭和時代初期・19 〜20世紀
12種類の昆虫をセットにしたもので、写真は左からショウリョウバッタ、トノサマパッタ、キリギリス。

茶道具に見る「侘び・寂び」と「用の美」

質素なものに趣を感じ、時間の経過によって現れる美しさを見い出す日本独特の美意識「侘び・寂び」を体現する茶道具たち。質素な中に凛とした風格を感じます。

《雲龍釜》与次郎作 桃山時代・16世紀
千利休の釜師であった辻与次郎作の茶の湯釜。筒形は利休が好んだ茶道具の形。
表面がザラっとしていて古びた雰囲気の見た目ですが、茶道具として使われることでその美しさが引き出されている、まさに「用の美」といえる道具だと思いました。
《姥口霰釜》与次郎作 桃山時代・16世紀
こちらも辻与次郎作の茶の湯釜。
表面にびっしり並んだ小さな突起が生み出す文様が美しい。
《流釉輪花建水》野々村仁清作 江戸時代・17世紀
建水(けんすい)とは、茶席で茶碗を清めたり温めたりした湯や水を捨てるために使う道具。
ひらひらした縁が花びらみたいでとても可愛い。
《黒塗一文字椀》伝 盛阿弥作 桃山〜江戸時代・16 〜17世紀
茶の湯における懐石料理でご飯や汁物を入れる器。
千利休の塗師といわれる盛阿弥の作とされているもの。
シンプルでカッコいい。蓋も器みたいな、ちょっと珍しい形が面白いです。

雅な香道具

香道で使われる道具一式を初めて目にしました。
どのような作法で行われるものか全く知識がないので、ここにある道具の用途が全然わかりません。

《扇面蒔絵香具箱・十種香道具》江戸時代・17世紀
《扇面蒔絵香具箱・十種香道具》江戸時代・17世紀
《五十種香・香箱》 時代未詳
優雅な銘が付けられた50種類の香木を納めた香箱。
《十種香・錫合子》 時代未詳
こちらは料紙を開けて香木が見られるようになっています。
香木は香炉で炷かれてはじめて香りが出るそうです。

香道では香りを嗅ぐことを「聞く」と表現することは知っていましたが、実際に香道具を見たり解説を読んだりして、香を「聞く」という言葉の意味深さを感じました。

能面は全て重要文化財

展示されていた5点はどれもインパクトがあり、能面の表情に役の設定や性質、心情などが凝縮されているように思えて引き込まれるように眺めていました。

《能面 痩女》 伝 日氷作 室町時代・14 〜16世紀
女性の幽霊を表した能面で亡霊役に用いられるもの。
《能面 蛇》 室町時代・14 〜16世紀
嫉妬に狂い恨みを募らせて鬼となった女性の能面。


日本絵画に描かれた草花

この展示で植物を描いたいくつかの絵画を見た時、名のある花だけではなく名もなき雑草類まで、そして花の茎や葉も含めた植物の姿形そのものに美しさを見い出している感じがしました。
そこには日本で古来から受け継がれてきた自然観が現れていて、ふっと気持ちが落ち着きます。

《水辺白菊図》土佐光起筆 江戸時代・17世紀
《草花図額》川端玉章筆 明治時代・19 〜20世紀

植物メインではないけれど、小林古径の作品がとても可愛らしくて印象に残りました。

《木菟》小林古径筆 昭和時代・20世紀
《栗と虫》小林古径筆 昭和時代・20世紀

最後に、私が「五感であじわう」ことが上手くいかないと感じた理由について。
普段見ている西洋美術や日本の現代美術の展覧会では絵画も立体作品もむきだしで展示されていることがほとんどで、もちろん触ることはできませんが決められた距離をとって作品と接します。

むき出しの美術作品に接していると、作品が発する目に見えない様々な情報が空間を漂っていて、それを自分の心の五感で収集しているような感覚になります。

個人的には、そのダイレクトに作品と繋がっているような感覚を得るのが美術作品に接する醍醐味だと思っています。

この展覧会でいつもの感覚で作品と向き合ったところ、展示ケースの「ガラスの壁」が、自分でも意外なほど圧倒的な存在感で自分と作品の間を隔てていることに気づきました。
そして、いつもと同じような感覚で五感を澄ませても、受け取れるものが少ないと感じました。

日本美術の性質上、ケースの中に展示するのは当然なことで、それに関して批判や意見を言うつもりはありません。

ガラスの壁を越えて心の五感を働かせることに慣れていない私は、ガラスの壁に隔てられた「不自由さ」に圧倒されてしまいました。
これが、私が「五感であじわう」ことが上手くいかなかった理由です。

思い返すと、今までもガラス越しに展示品を見た時に何となく心にモヤモヤしたものを感じていました。
今回の「五感であじわう」というテーマによって、そのモヤモヤの核心を自分の中ではっきりと意識することになりました。

ただ、これは私個人の問題で、何度も言いますが展覧会の企画を批判するものではありません。

展示作品の楽しみ方は一通りではないこと、常に柔軟な心でその時々の美術展の展示に対応していく心構えが必要だと思いました。

最後まで読んで頂きありがとうございます。

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