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Vol.5 石川将也さんインタビュー「キヅキランドは動画と視聴者との新しい距離感が生まれる場所」

2021年の夏休み、キヅキランドを一足先に体験してもらうための、キヅキランド体験ワークショップを開催しました。ワークショップには「キヅキセンパイ」という科学やアートの世界で活躍する大人が毎回参加し、こどもたちが動画に書きこんだ発見や疑問=キヅキを実況する、という仕組みです。

ワークショップに登場したキヅキセンパイのトップバッターは、映像作家・グラフィックデザイナー・視覚表現研究者の石川将也さん。実はキヅキランドのプロジェクトメンバーでもあります。今回は、そんな石川さんとのおしゃべり——WEBサイトとしてキヅキランドがどんな体験をこどもたちに届けようとしているのか——をお送りします。

石川将也さん
映像作家、グラフィックデザイナー、視覚表現研究者
慶應義塾大学佐藤雅彦研究室を経て、2006年より2019年までクリエイティブグループ「ユーフラテス」に所属。科学映像「NIMS 未来の科学者たちへ」シリーズやNHK Eテレ「ピタゴラスイッチ」「2355/0655」の制作に携わる。2020年独立。新しい視覚表現の研究開発と、その知見を用いた映像・デザインを提案するデザインスタジオcog設立。


オンラインが得意な視聴体験を拡張することによって、他の体験を補助することができる

——石川さんとは「こども科学博*1がコロナ禍の影響で開催できなくなる中で、リアルなイベントの代わりになるような、こどもたちが不思議を見つける体験をWEBサイトでどう実現できるだろうか」ということを考え始めたプロジェクトの最初の段階から、ご一緒してきました。2020年はこども科学博だけでなく、さまざまなリアルイベントが中止となりコミュニケーションが変化しましたが、石川さんご自身も大学の授業がオンラインになるという大きな変化があったんですよね?

石川 そうですね。僕は武蔵野美術大学で映像の授業を担当しているのですが、それがオンラインになってしまって、試行錯誤しました。授業は、映像とは何かということや認知科学的な話などの講義だけでなく、スマホを使って実際の映像の作り方を教える演習があり、それまで手とり足とり教えていたのに、それが急にできなくなってしまった。それで編み出したのが、カメラを複数台使って画面をスイッチングしながら授業をすることでした。アプリの操作を見せたいときは俯瞰カメラにして手元を見せたり、教材のカメラを斜めから見せたり。そうやってオンライン授業の「多視点システム」を作ったんです。

これはつまり何かというと、「視聴」という体験を多視点カメラによって拡張したということなんです。オンライン授業で「触れる」とか「嗅ぐ」とか「味わう」という体験はどうしたってできない。だったらオンラインが得意な視聴体験を拡張することによって、他の体験を補助してあげる。

——「手取り足取り」を「多視点」で補ったわけですね。

石川 そう、そうです。特に映像の作り方の演習は、やっぱりあのシステムがなかったらできなかったですね。

——キヅキランドも同じように「実際の体験」をどのようにオンラインに置き換えて、発見や疑問を膨らませることができるかということが、プロジェクトの最大の課題でした。それでたどり着いたのが「メモれるムービー」でしたね。

石川 多視点のシステムを使うことで視聴体験を拡張することができることはわかったのですが、キヅキランドではこどもたちにより能動的に映像に関与してほしい。実際の展示の代わりにWEBサイトでどこまで「体験」してもらえるかが大事だからです。そこはプロジェクトの会議においても、ものすごい時間をかけて議論したポイントでしたね。

動画に書きこむということ自体は、ここ数年で映像の演出として増えてきています。例えばスポーツの中継で解説の人が球の飛んだ方向とかに手書きで矢印を書きこむようなものがありますよね。解説者、つまり他人が描いたものがスラスラと画面に表示されるだけでこんなに面白いんだから、それがWEBの動画を見ながら自分でできたらどうだろう? ということで試しに実装してみたら、すごく面白かったわけです。

ワークショップで使った「キヅキランド ベータ版」。動画に直接書きこみができます。

まずは映っているものをなぞるだけでもいい。書きこむことで動画と関わることから始めてほしい

——教科書の写真に落書きをする、みたいなちょっといたずら感覚もありますよね。

石川 そうなんです。こどもたちにとってはおなじみの「書く」という行為を、WEBサイトに掲載されているムービーの上でできちゃう。しかも、キヅキランドではそれをみんなで共有できるようにしようとしている*2ところが面白いと思います。自分や他人が描いたものをリプレイする機能のプロトタイプを試したとき、自分や他のプロジェクトメンバーが描いたものが実写映像の上にスラスラ生成される様*3を見るのが、本当に面白かった。

——石川さんはあるインタビューで「制限のあるメディアの中で、人間の能力やメディアの特性をうまく生かして補ったり拡張したりして、人間の認知を使って表現を拡張していくものが面白い」とおっしゃっていました。キヅキランドも、まさにそういうオンラインであることを活かして拡張し、より豊かな視聴覚体験をこどもたちに届けるために、大人たちは四苦八苦してきました。

石川 そうですね。多視点システムで画面Aに映っている事象と画面Bに映っている事象をつなぐのは想像力です。そういった映像を見ることには、ただ見るのではなく「人間としての能力を使っていることの喜び」を感じられる楽しさがあると思います。さらにそこに書きこめるということは、より能動的に動画に関与するわけで、動画と視聴者との新しい距離感が生まれると思います。

……とにかく「動画に書きこむ」「それを見返す」っていうのが、すごく気持ちがいいんですよ! だからまずは映っているものをなぞるだけでもいいので書きこんで、動画と関わることから始めてほしいですね。

——今回のワークショップでは4つの動画を用意しました。ちょっとした科学的なエピソードのあるものもあれば、淡々と事象を捉えただけのものもあって……。

石川 1つだけテレビ番組のように伝えたいことに沿ってストーリーを作り編集した動画も入れましたが、基本的にはキヅキランドの動画って、「回答がない動画」なんだと思うんです。解釈を受け手に委ねる、余白がいっぱいある動画です。それらを、何も誘導せずにただ「どうぞ」と投げ出したら、こどもたちがどういうふうに反応するのかな、というのが楽しみです。

——今、デジタルデバイスに触れることやオンラインでの体験って当たり前になっています。こどもたちにとってそこでの体験がどんなものになるといいな、と考えていますか?

石川 今、教育の場でもオンラインやデジタルデバイスがどんどん取り入れられていますが、デジタルが義務になってしまうというか、「方針だからやらなきゃいけない」というふうになってくると、ちょっと違うなと思います。やっぱり、デジタルだから面白い、オンラインだからこういうことができるっていう、リアルでの体験とは明らかに違う楽しさを感じてもらって、「楽しいからやる!」「面白いから触る!」というふうにしていかなくちゃならない。キヅキランドはまさにそういうことを大人たちが本気で考えて悩んでつくっているものなので、きっと面白い体験をしてもらえると思います!
(インタビュー収録:2021年7月6日)


石川さんのおはなし、いかがでしたか? 次回の「キヅキランド通信」では、石川さんがキヅキセンパイとして登場したワークショップの様子をお届けします(2月16日公開予定)。よかったらぜひこのnoteをフォローしてください。
それではまた!


*1:こども科学博:稲盛財団が2019年に京都市の「みやこめっせ」で、こどもたちの発見(!)や疑問(?)のきっかけをつくろうと開催した大規模イベント。参考>「稲盛財団とこども科学博のこと」

*2:ワークショップで使うベータ版にはまだ実装されていませんでしたが、書きこみを共有できるよう開発をすすめています

*3:この表現もベータ版では未実装でしたが、実装できるよう開発中です

Illustration: Haruka Aramaki


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