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悲しいかなアンコンシャスバイアスのせいにしていれば済んだフェーズは既に終わってしまった

最近、立て続けに、外資系企業やグローバル企業からD&Iをテーマにしたワークショップを実施して欲しいという依頼を受けました。

要望を聞いていくと、

「D&Iをテーマにワークショップをやりたいのですが、昨年、基本的な内容については、もう実施しているので次はより現場にフィットした内容にしたいと考えています」

「ジェンダーギャップを埋めること、特に女性の管理職比率を高めることは1つの命題ではありますが、それだけにフォーカスするのも違うと思っています」

「ジェンダーギャップを埋めるにせよ、それ以外のD&Iを進めるにせよ、アンコンシャスバイアスについては昨年もう触れたので、今年は違った内容でお願いいたします」

とのこと。

雰囲気から察するに、アンコンシャスバイアスについては、耳タコの状態でいるように思われます。

この反応、ハラスメント研修の時にもよく見る反応だなと思いました。

「◯◯はハラスメントなのでやってはいけません」

禁止や注意喚起はたしかに重要なのは間違いありませんが。

気をつけている人たちからすると「またか」「もうわかったよ」という話になりますし。
一方で、いつまで経っても治らない一部の人たちというのもいて、それをどうしたものかというのに現場担当が頭を抱えていると言ったところでしょう。

結局、その担当者さんとはいろいろと話をした結果、D&I推進に向けて今回はこのような取り扱い方をすることになりました。

①アンコンシャスバイアスには、ポジティブ、ニュートラル、ネガティブと3つの働き方がある


アンコンシャスバイアスとは、我々が長年の経験から無意識レベルで身につけてきた偏りのことをいいます。

たとえば、「体育会系出身の人は上下関係に厳しい」と言ったように、これまでの経験から傾向を見出します。

そして、過去の体育会系出身の人とのコミュニケーションから、通常以上に気をつけておかないとトラブル化しかねないという学習を持つことで、次第にバイアスが生まれ、強化されていきます。

これにより1回1回、個人単位で冷静に判断しなくても、その人の属性から直感的に即座に判断をするなど、物事を効率的に進めることができるようになります。

もちろん、どんなものにも例外はあるため、すべての体育会系出身の人を一括りにして論じるのはあまりに乱暴ではありますが、ただ、実際、一部の体育会系のカルチャーの中では、非常に厳しい上下関係を持っている組織もあります。
このような傾向もあるわけですから、過去の学習から、対策を用意しておくことで、リスクを避けることができるようになります。

これはアンコンシャスバイアスのポジティブな側面と言えるでしょう。

ただ、体育会系の人=◯◯、だから◎◎さんはこうに違いないと全てを決めつけて行動すると、相手に対して失礼になるケースも考えられます。

たとえば「体育会系の人は、上から支持された命令に対しての実行力はある一方、自分の頭で考えて行動することは苦手である」と言った学習、アンコンシャスバイアスを持っていて、それが周囲に何らかの形で伝わっていくと、「あの人は偏見でものを見て判断する人である」という評価が生まれてしまうこともあるでしょう。これがネガティブなケースです。

アンコンシャスバイアスを全て悪者にするのは違うと思いますが、やはり取り扱いに気をつけていかなければいけないのは間違いありません。

このように、アンコンシャスバイアスは、ポジティブに働くケースもあれば、ネガティブに働くケースもあります。

また、特段、ポジティブにもネガティブにも働いていないニュートラルな状態のアンコンシャスバイアスを我々はたくさん持っています。

まだアンコンシャスバイアスというキーワードが広がっていなかった頃であれば、この旗印のもと、注意喚起をしていくことには価値があったのは間違いないのでしょうが。

一定以上浸透したタイミングとなった今となっては、それこそ鬼の首をとったように「アンコンシャスバイアスけしからん」と言い続けるのも難しくなってきているのを感じます。

アンコンシャスバイアスをなんでもかんでも悪者にするのではなく、アンコンシャスバイアスの中でも、特に物事を悪い方向に導いてしまうものに注意を払うということが重要になってきます。

②アンコンシャスバイアスもあれば、コンシャスバイアス(意識された偏り)もある


我々の中にアンコンシャスバイアス(無意識の偏見)があるのだから、当然、コンシャスバイアス(意識された偏り)もありうります。

たとえば、持って生まれた体が男性の場合と女性の場合とでは、統計的に、身長や筋肉量に差があります。

また、自然体で人が動いていった時に、一定の性別が集まってきやすい領域があります。(例:現在、保育士の96%が女性 など)

このように統計的に見て偏りが見て取れる点については、その事実を前提として考えていく必要があるように思います。

昨今、D&Iの推進から、ジェンダーギャップを解消していかなければいけないと多くの企業で取り組んでいるわけですが、なんでもかんでも「アンコンシャスバイアスが良くない」と言っているだけでは解決できない問題が現場にはあります。

もちろん、身長や筋肉量に差があるからと言って、持って生まれた体が女性の人にできない仕事と決めつけるのは良くないことですし、過去の人数比の偏りは完全に自然体で集まった結果であり、アンコンシャスバイアスは全く関係ないとか、自然体で偏るのだから仕方がない、というのも雑なまとめ方でしょう。

ただ、これまでの日本社会が積み上げてきた伝統的な価値観や社会的通念が多くの人の頭の中に強く存在している以上、いきなりの転換は難しいのだろうと思います。

今回、依頼してくれた担当者さんからも、「たしかに今現在、ギャップがあるのは事実だし、このままで良いと思っていたわけではないのだが、だからといって今すぐにアンコンシャスバイアスを取り払ってジェンダーギャップを解消するというのはあまりに難しいと感じていました。そんな中で、まずは自分たちで偏りに気づいていきながら、その解消の手立てを話し合い、進めていくことが大事だなと思いました」といった言葉をいただきました。

少しずつ自分たちが持っているアンコンシャスバイアス(無意識の偏見、偏り)に意識を向けながら、そこにある偏りに気づき、事実として受け止めた上で、次の対処法を考えていくという姿勢が重要になってくるのではないかと思います。

この問題、これまでの積み上げてきたものが大きく、重たいからこそ、ちょっとやそっとではどうにもならないものがたくさんあると思います。

ただ、日本の政治の現状を見れば明らかなように、例えば年齢が上の男性だけで物事を決めるなど、同一性が高い集団や、いわゆるマジョリティだけでの意思決定を続けていった先に良い結果が生まれるとは私には思えませんし、きっと多くの人がこのままではいけないと思っているかと思います。

今回の案件は、現場で必死にD&Iを進めようとしている担当者さんと話し合いながら、彼らの懸念を整理し、現場の状況を前に進める方法についてあれこれと一緒に考えていったことで、非常に良い内容の学習コンテンツが生まれたと感じました。

これも、教材を作る側のべき論、理想論だけでなく、現場の多様な意見にしっかりと耳を傾けていったからこそだなと思います。改めて、理想と現実の間を行き来しながら、実現可能な道を探ることの重要性を感じました。

本プロジェクト、動き出し段階の時はどうなることかと思いましたが、無事、良い形で進めることができ、私としても大変良い学びになりましたし、忘れ難い案件になったなと思います。

今後も、このような形で組織により良い意思決定が生まれてくるよう支援をしていけたらと思っております。

今日も素晴らしい学びの機会をどうもありがとうございました。


















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