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別人と留めておくには

尋ねてみればいい。
「朝の色は何色?」と。

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私の朝は金色。
太陽がめいっぱい輝くから。
彼の朝は黒。
憂鬱だから。

私の夜は銀色。
月の光。
彼の夜は白。
何にもなくなるから。

私の昼下がりは薄桃色。
頬が紅潮する。
彼の昼下がりは青。
気怠い。

私の心は家。
色んな感情の私が住んでいる。
彼の心は錘体。
時間が経てば増えていくから。

私の海は緑。
そんな色をよく目にする。
彼の海は紫。
海はよく分からない。

私の空は紺色。
夜の天頂と昔お母さんが乗っていた車の色が似てたから。
彼の空はレンガ色。
空は難しい。

私の月は三日月。
懐メロのタイトル。
彼の月は。
なんだったかな、答えを忘れた。

私の星は円。
小学校にあった『貝の火』の絵を思い出すから。
彼の星は線。
「流れ星が浮かんだの?」って聞いたら、「なんとなく」だって。

私の今はほんのりグレー。
心が落ち着いてきて段々晴れてきた。
彼の今は銀。
これ以上何もいらないから。

私の明日は水色。
早起きするんだ、日が地平線(あるいは水平線)から顔を出す前に。
彼の明日はオレンジ。
慌ただしい。

―――――――――――――――――――――――――――――――――

彼は私とは全くの別人だ。

「朝は何色?」と聞いたほかに、
「1は何色?」「2は何色?」「3は?」「4は?」……
「春は何色?」「夏は?」「秋は?」「冬は?」……

たくさん問い掛けて、何一つ答えが重なるものはなかった。

彼は私とは全くの別人だ。

彼がそう答えたのには、彼だけのなにかがあったから。
私がそう思ったのは、私だけのなにかがあったから。

大丈夫。大丈夫。
ひとつずつ簡単な事から確かめていけば、相手に対して「分かってほしい」や「伝わってほしい」を求めることをしなくなる。
だって相手と私は別人だから。

一緒にいると誤解してしまうことって多い。
自分の心の隅々を、理解してくれるんじゃないかって。

隅々は無理でも、ルンバの可動域くらいは分かってくれる。
ルンバの可動域がだめなら、玄関くらいの大きさなら。
玄関の大きさもだめなら、せめて玄関の靴がきれいに揃えられてあることぐらい気づいてよ。

でも聞いてみたら心の形が違っていた。
私の心は家だけど、彼の心は錘体だった。
錘体じゃ、私の感じ方は彼には通じないし、私も彼の心の仕組みは完全に把握できない。

心に留めておかなければならない。
私以外の人間は別人であるということを。

きっと明日が来て、明後日になって、一週間が過ぎて、来年になって。
時間が経てばまた、それを忘れてしまうだろう。
彼が私と重なって、また、「分かってほしい」とか「伝わってほしい」とか、求めてしまうだろう。

過去の私から、noteを通して、どうか忘れないで。
別人だと心に留めておいてね。

私の朝は金色で、彼の朝は黒。
私の心は家で、彼の心は錘体。

私の明日は水色で、彼の明日はオレンジ。




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