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住宅ローンの金利が極端に低い理由

昨今、住宅ローンの金利が異常に安くなっています。

古くからあるメガバンクや地銀に加えて、新興系銀行(イオン銀行、ソニー銀行など)も魅力的な条件を提示しており、まさに異種格闘技戦の様相を呈しています。

住宅ローンは、保証料や団信保険料や繰上げ弁済時手数料など多くの手数料が組み込まれているため、単純に金利が低ければよいという話ではないところが、また話をややこしくしています。

とはいえ、ここまで金利が低ければ、どの金融機関を選んでも、さほど差はないと思われます。

では、そもそも、なぜここまで低金利が実現できるのでしょうか。本稿では、住宅ローンの低金利の理由を分析してみたいと思います。

①不良債権化しない。

90年代のバブル崩壊以後、銀行は不良債権問題で苦境に立たされました。

しかし、不良債権の内訳をみると、法人向け融資が不良債権化したのに比べ、個人向けの住宅ローンはさほど不良債権化しませんでした

日本人は律儀なため、自分の借り入れは給料が下がったりリストラされたりしても、頑張って返済します。加えて、銀行は、住宅ローンの資金使途である不動産を担保に取得するので、返済が滞れば、担保権を実行して回収できます

法人向け融資が不良債権化するのは、その融資の資金使途である工場や店舗や在庫を担保にとっても、その事業が低迷している環境では、その工場や店舗も価値が下がっているため、仮に担保権を実行したとしても回収しきれないからです。

一方、住宅の場合は流動性が高いので、担保価値が下がりにくいです。もちろん、不動産価値の影響は受けますが、法人のように、その手掛ける事業価値の変動の影響を受けません。また、(一般的には)一定程度の頭金を取るので、その分は不動産価値が減少しても、不良債権化しません。

銀行の金利に対する考え方は、リスクの高い融資には高金利、リスクの低い融資には低金利を適用するというものです。これは非常に合理的です。サラ金は高金利なのはリスクが高いからです。

住宅ローンは不良債権化する可能性が低いため、金利が低くなるのです

②送金手数料等が収受できる。

借り手は、住宅ローンを返済していく口座を当該銀行に持つことになります。返済のために、給与振り込み口座にするか、他の銀行から当該銀行に資金を送金することになります。

送金手数料は、同じ銀行間であれば無料ですが、別の銀行に送金するときに送金手数料が発生します。これは銀行界のカラクリなのですが、送金手数料は、送金するほうの銀行(仕向(しむけ)銀行)と送金を受けるほうの銀行(被仕向(ひしむけ)銀行)で折半します

つまり、どこかから当該銀行に送金する時点で、送金手数料が発生し、その半分は被仕向銀行である当該銀行に落ちるのです。

送金手数料は、不良債権のリスクとは関係ありません。常に不良債権のリスクを負っている銀行としては、無リスクの手数料収入ほどおいしいものはありません

それ以外にも、返済口座がメイン口座になることが多いです。学費や塾代、カーローン、クレジットカード引き落としなど、ありとあらゆる支払いの仕向銀行になる可能性が高いです。給与振り込みの口座に指定されることも多いです。

住宅ローンを貸すということは、こういった資金移動の起点となる口座をゲットすることと同義です。送金手数料が喉から手が出るほど欲しい銀行は、どんなに低金利であったとしても、ペイすると思っているのです

③資金運用できる。

上記の通り、借り手は住宅ローンの返済口座に資金を集めることになります。その普通預金口座の利息は、ほとんどゼロです。

その調達コストゼロで得た資金を、他の高金利商品で運用すれば、差額で稼ぐことができます。ほぼリスクのない国債で運用したとしても、一定の利ザヤが取れます。

もちろん、金融のプロである銀行が、低金利の国債だけで運用するわけがありません。金融工学の博士号を持っている年収1500万コースの天才集団が、リスクとリターンを分析しながら、できるだけ利ザヤがとれるような運用をしています。

ゼロ金利・マイナス金利が続いているので、この要素は減ってきていますが、調達と運用の差で利ザヤを稼ぐ銀行のそもそものビジネスモデルからすると、もっとも大きい要因であると言えます


ここまで述べてきた通り、①不良債権化しない、②送金手数料等が収受できる、③資金運用できる、というのが住宅ローンの低金利の要因です。

「住宅ローン、めっちゃおいしいやん!」ということに気づいた新興系の銀行がこの市場に低金利で殴り込みをかけました。既存の銀行も当然このおいしい市場を取られたくないため、低金利を提示します。

結果、魅力的な条件の異種格闘技戦という現在の環境が形成されました。借り手としてはありがたいことです。

借り手側は、「住宅ローンの金利、めっちゃ安いやん!」と喜んでしまうのですが、その背景にまで頭を巡らせることができると、金融のことまで踏み込んで勉強することができますね。




『人の生涯は、ときに小説に似ている。主題がある。』(竜馬がゆく) 私の人生の主題は、自分の能力を世に問い、評価してもらって社会に貢献することです。 本noteは自分の考えをより多くの人に知ってもらうために書いています。 少しでも皆様のご参考になれば幸いです。