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珍味⑪ 臭い?臭くない?山羊汁(ひーじゃー汁)

肉食に思われることが多いのですが、実際は肉をそれほど食べることがなく、日常的には魚や野菜を多めに食べています。魚に味が近い鶏肉がもっとも好きで、鶏肉→牛肉→豚肉の順に好きです。

 ところが例外があり、羊肉だと俄然順位があがり、鶏肉に並びます。

 しかも、ラムよりもクセのあるマトンが好みです。

 インド料理店では、なにをおいてもマトンカレーが食べたいし、マトンビリヤニも大好物です。

何が好きって、あの獣臭。池袋にある中国東北料理の店で、たっぷり唐辛子とクミンをまぶして食べたマトンが美味しく、マトンには、なぜ、こんなにもスパイスが合うんだろうと、うっとりとしたほどです。ラムはさておき、マトンは、スーパー等で、ほとんど売っていないのが残念な限りです。

 こんなにも羊が好きなのだから、山羊もきっと美味しいに違いない。ずっと食べてみたいと思っていました。

 ただし、どんな本を読んでも「山羊は臭い」と書かれているのが、気にかかります。

 東海林さだおさんの丸かじりシリーズにも、臭過ぎて鼻が曲がったと表現されています。

 好奇心と恐怖心がねじり飴のように、ぐるぐると巻き付きます。

 不安と期待がせめぎあう中、永田さんと石垣島を訪れた時に、取材先のもだま工房さんに、島で一番山羊汁がおいしいと評判の「一休食堂」に案内していただきました。

 「一休食堂」、とてもシンプルな店名です。店名からは、あまり山羊のことが想像できません。

「山羊料理専門 ○○」なんて、店名が予想されるのですが、あえて「一休食堂」なのは、お店の人の美意識なのでしょうか。そもそも、沖縄は、「○○食堂」という店名が多いように思います。

「一休食堂」の外観は、個人宅のようで、中に入るとテーブル席と奥に座敷がありました。

ここで、山羊汁定食と山羊そばを皆で頼みました。

 山羊汁定食、山羊汁にごはんがついてくる定食です。

 山羊汁定食が到着して、さあ初対面。目と鼻の先に、山羊汁があります。

 テーブルに乗っている分には、強烈な臭気は立ちのぼってきません。食べた時が勝負なのか、と、戦々恐々としながら、山羊汁から肉をつまみあげて、齧りつきました。

ところが、臭くないのです。

 確かに、マトンや豚骨に感じる獣臭はするものの、鼻が曲がるほどではありません。

「よく処理されているのでしょう」と永田さん。

 仄かな獣臭と脂身がおいしく、汁を啜ると、体の内側が熱くなります。もちろん熱い汁だからということもありますが、山羊肉もイラブー汁同様に、体を温める効果があり、強壮作用があるといいます。箸を放り出す程の臭さだったら、どうしようと思ったのですが、とても美味しく食べられました。また、なんといっても、一緒に入っているフーチバー(琉球ヨモギ)の香りが高く、甘く爽やかな味がして、山羊肉との相性がよいのです。本州に生えているヨモギよりも香りが高いように思います。

 山羊そばも少しいただき、美味しく平らげたところで、すっかり山羊肉がマトンと同じくらい好きになっていました。

 石垣島から戻ってきた後でも、山羊肉が恋しく、禁断症状よろしくレトルトの山羊汁に手を出しました。あのクセになる味よ、もう一度です。

 山羊汁のレトルト食品は、パウチの中に入っていて、温めて食べる寸法になっていました。いそいそと袋のまま熱湯であたためて、器に出したところ、以前には嗅いだことのない臭気を発しているのに気づきました。食べることを躊躇うほどの。

 臭い、すごく、臭い。これは鼻が曲がる。いや、曲がった。

 喩えていえば、猫のおしっこを濃縮して、獣臭と混ぜ合わせたような匂いです。

 臭さに耐えつつも食べながら、ああ、ここに一片でも、フーチバーがあれば、もっと食べやすいのにと思いました。あいにく、近くにヨモギも生えていません。

「一休食堂」の臭み抜きの上手さに思いを馳せるとともに、山羊は臭いといわれる匂いはこれだったのかと、ようやく腑に落ちたのです。

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