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彼女との終わり

彼女と会うのは3年ぶりだった。
彼女はいつも、突然連絡をよこし、ふらっと現れ、僕の心をかき乱して、
去っていく。
で、また数年後にふらっと現れる。

でも今回は、僕から連絡をした。

彼女に会いたくなったから。

彼女とはちゃんと「彼氏、彼女」として付き合っていたわけではなかった。
出会ったのはお互い大学生の頃。

僕の友達が、とあるバンドのファンで、
友達がひょんなことから、そのボーカルと仲良くなり、
僕は半ば無理やり友達に連れられて、バンドマンの家に遊びにいった。
深夜、2時頃だったと思うのだけど、
酔っ払ってバンドマンの家にふらっと現れたのが彼女だった。

雷が走った。
僕は彼女に一目惚れをした。
後にも先にも、一目惚れってこれだけだったな。

彼女は、バンドマンの元カノだった。
この時はもう別れていたのだけれど、なんかずるずる関係が続いてたんじゃないかな。
彼女はまだバンドマンが好きで、
バンドマンは身体の関係が保てるから受け入れる、
そんな感じだった気がする。

ともかく、僕は友達のファンであるバンドマンの、その元カノに恋をした。

それはそれで問題なのかもしれないけど、

もっとややこしいのは、彼女には同じ大学に彼氏がいた。
それはだいぶ後になってわかるのだけれど。

僕と彼女はどんどん仲良くなり、飲みにいくことになった。
酔いも回った頃、僕は冗談混じりに彼女に聞いた。
「俺のことどう思ってんの?」

彼女は、ビールを飲み干していった。
「んー寝たい!」
そのまま「おしっこ」っつってトイレに急いで消えた。

彼女はなかなかにクレイジーだった。よく言えば。
悪く言えば、ビッチか?
彼女が言うには、この夏は、お祭りだったんだそうだ。

たくさん仲良くなる男の子がいて、
その中の一人が僕だった。

僕と彼女はいろんな話をした。
僕は彼女の独特な感性が好きで、
彼女もまた僕の言葉選びやドラマの知識、感受性の豊かさを面白がった。
彼女との付き合いは、今思うと、
たった3ヶ月ほどだったのだけれど、
えらく濃密で、
その後の僕の人間形成に影響を及ぼした時間だったなぁと思う。

彼女が言うには、大学の彼氏とは、すごく精神的な付き合いで、
とっても上品な彼氏だったんだそうな。
彼女が今でも好きなのは、バンドマンで、
バンドマンには新しい女の影があって、
気が狂いそうで。
その気狂いを治めるために、
いろんな男と関係を持っている。

そのいろんな男と付き合っている、関係がある、ことを知っているのは僕だけで、彼女はそれぞれの男には話してなかった。
みんな、「一対一」だと思ってる。
そのバンドマンも、大学の彼氏も、その他の男も。
「一対多数」だと知っているのは、僕だけ。

なんでも受け入れる男、
僕だけが知っているちょっとした優越感。
うまく利用されているとも言える。

結局彼女とは、僕が限界を迎えて、全てをぶち壊しにかかり、
終わりを迎えるのだけれど。
その詳しい顛末は、今度書くとして。

彼女とお別れした後、僕が就職したりで、彼女とは数年会っていなかった。
さらに、僕がうつ病になったりで会社を退職し、
彼女が突然連絡をよこしたりして、
数年に一回たまに会ったりしていた。
そして話は冒頭に戻る。

その時僕は脚本家を志し、アルバイトもやめたところで、
無職だった。
肝心の執筆もうまくいかず、
心の拠り所がない、何もうまくいかない、人生どん詰まりだった。

彼女は雑貨屋の店長をしているという。
彼女の仕事場に行き、仕事が終わるのを待った。
変なもんばっかいっぱいあった。
僕は、「へぇ、面白いのあんね」なんて言って、
赤い変なイラストの書いてある缶のペンケースを買った。
別にいらないのに。
金もないのに。
見栄を張ったんだ、俺はまだこういうの面白がれる、
感性を持った人間なんだって。

飲みに行き、僕はひたすら昔話をした。
あの濃密だった三ヶ月の話を。
だってあの時間は、
僕にとってかけがえのない時間だったから。
めちゃくちゃ腹立ったし、傷ついたし傷つけたこともあったけど、
僕らは互いの感性を認め合い、
お互いをちゃんと面白がっていたから。

今だってそう、俺はあの頃に戻れるんだ。

話を続ける僕に彼女は言った。

「君は、昔の私に会いに来たんだね。
私は、今の君の話を聞きたいよ」

返す言葉がなかった。
とにかく、惨めだった。

帰りの公園で一人泣いた。
彼女とその昔、花火をした公園で。

彼女との終わりを悟った。
きっと、これでもう彼女と会うことはないんだろうな。





あなたのいらっしゃる方角に向かって、一回きちっと深ーいお辞儀をします。