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【連載】独裁者の統治する海辺の町にて

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過疎の漁師町がある政治結社組織に統治された。否応なく組織に組み込まれた中橋康雄は少女凛子と組んで親友の神学者登坂士郎を殺害する。組織の統治支配の恐怖のなかで康雄と凛子はどうなるの…
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独裁者の統治する海辺の町にて(24)

独裁者の統治する海辺の町にて(24)

暑がりの平良主席に合わせて、党本部2階の執務室は冷房が効きすぎていた。テーブルの皿には彼女が食った後の鶏のもも肉の骨が2本のっている。平良はマホガニーのアンティークデスクに太ったケツを乗せ、足組をして、ワインを片手にサンドイッチを食っていた。このひと月で、体重はあきらかに5キロは増えているだろう。昼食は?彼女はおれが部屋に入るときいた。済ませてきましたと答えると、年代物のワインをグラスに注いでさし

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独裁者の統治する海辺の町にて(23)

独裁者の統治する海辺の町にて(23)

え、もう一冊の手帳?ああ、安倉雅子が永川に託したやつね、まあ、それについて述べるのは後にしよう。おっと、昨晩空けたビール缶が床に落っこちた。また揺れやがった。窓が痙攣でもするように小刻みに振動している。6月は7回、そして7月は・・・12回だった。明らかに地震の頻度は高くなっていった。そして、不規則だが中に変な横揺れが混じるやつがある。漁師町だから誰もがこの異変に気づいているはずだ。なのに誰も口にし

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独裁者の統治する海辺の町にて(22)

独裁者の統治する海辺の町にて(22)

話は戻るが、5月に凛子とおれが殺った記者の永川謙二は手帳を持っていた。そこには主に中央電力と党との密約について記されていた。彼が独自に調べたこともあったが、有益な情報は彼の血のつながりのない姉(実際は恋仲)の安倉雅子から入手したものだった。安倉雅子は党の工作員として秘密裏に中央電力の幹部と交渉していたので、色仕掛けや買収も含めて密約の内容が具に記され、その上、原発建設のタイムスケジュールまで載って

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