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ミライバの授業レポート

金沢工業大学では、STEM教育にA(アート)を加えたSTEAM教育の導入を進めています。その一環として立ち上げられたリベラルアーツ系の新科目「金沢工大ミライバ(以下、ミライバ)」の授業が、この夏、1、2年生を対象に始まりました。教室となるのは、大学の講義室だけでなく、石川県内の美術館や博物館、資料館。今年度は34名の学生が履修しており、7か月にわたって開催される授業では、訪問施設での鑑賞やワークショップ、レクチャーなどを通じて、知識や体験を蓄積し、新しい学びへと転換していきます。五十嵐威暢アーカイブは、8月5日〜7日の3日間にわたって実施した導入回の企画を担当しました。本記事ではその内容を振り返ります。
 
8月5日(月)@五十嵐威暢アーカイブ
〜「見る」を始めてみよう-自分の言葉で作品を語る練習〜
初日は、ウォーミングアップを兼ねて、五十嵐威暢アーカイブで展示している作品を用いて自己紹介をしました。7つのグループに分かれた後、学生たちは、それぞれ事前に選んだ自分の性格や今の気分を説明するのにぴったりな作品について話をします。グループ内の雰囲気が少し和らいだところで次のワークショップが始まります。

「すっー すっー」「どーん」「ぐちゃ ぐにゃ」といった擬態語、擬音語を起点に様々な連想をして作品鑑賞につなげるというもの。まずは、ファシリテーター役の学生アシスタントが意見交換を促しながら、出てきたコメントをまとめてダイアグラムを作ります。

考えていることを可視化します。
気になった点などを共有しながら作品とダイアグラムを行き来します。

次にアーカイブで展示されている作品をそのダイアグラム上に位置づけていきます。机から離れ、実際に作品を鑑賞しながら話をすると新たな視点や気づきが得られます。模造紙を手に、展示を巡るグループも。初日は各グループの発表で幕を閉じました。

思考のプロセスを他者に伝えることも大切です。

目に見えていることを言葉にして、自分事にすると作品との距離がぐっと縮まり、その面白さに気づくことができます。翌日の美術館での鑑賞に向けて、見ることへ意識を向ける回となりました。

8月6日(火)@石川県立美術館
〜「見る」を展開してみよう〜
2日目は、場所を石川県立美術館に移し、館が提供する対話型鑑賞プログラムを体験しました。アートカードを用いたゲームの後、3つのグループに分かれて鑑賞したのは主に絵画や彫刻です。

大人数で一つの作品を鑑賞します。
正面からだけでなく、下からも作品を鑑賞してみると新たな気づきがあります。

学芸員の方からの問いかけに応答しながら、学生は作品への理解を深めます。はじめは緊張していたようでしたが、少しずつ言葉を発するうちに慣れてきた様子です。ほかの人の意見を聞いて、なるほどと頷く学生の姿も。複数の視点でひとつの作品を見ることで、ひとりでは気が付かなかった作品の面白さが分かってきました。

後半は、五十嵐アーカイブのスタッフによるワークショップです。テーマに掲げているとおり、鑑賞を広げてアウトプットをする演習を行いました。学生は改めて展示室へ行き、気になった作品3点(うち1点は立体)を選びました。まず取り組んだのは、選んだ作品の気になるポイントを言語化することです。同グループのメンバーに自分の見つけた作品の面白さを伝えながら模造紙にその内容をまとめていきます。午前中のプログラムで鑑賞のコツを得たこともあり、どんどんと筆を走らせています。
次に取り組んだのは、選んだ三点のなかから1点を選んでその作品を基に映画のあらすじを考えるワーク。先ほど書き出した面白いポイントを手掛かりにストーリーを考えていくうちに、あいまいだった作品への理解や感想が具体的になっていきます。考えがまとまったら所定の紙にまとめてグループ内で共有します。

グループのメンバーに自分の制作した抽象のイメージについて説明をします。

最後は、具象画を抽象的にするワークに取り組みました。作品を見た時の印象や感想を振り返りながら、改めて自身のイメージとして表現していきます。用いたのは、色紙です。紙をはさみで切ったり、手でやぶったり、紙を重ねてみたり、折ってみたり、思い思い手を動かして絵を完成させていきます。見る対象としてだけでなく、創造の起点として作品を用いることの面白さを味わう一日でした。
 

8月7日(水)@国立工芸館/金沢工業大学
〜「見る」を深めてみよう〜

3日目は、国立工芸館が実施する「タッチ&トーク」に参加しました。その名の通り、工芸作品に触れながら話をし、作品を見るというもの。視覚に加え、触覚を駆使した鑑賞を体験しました。

気になった作品を目の前に着目した点について説明します。

触れた作品のなかには、館内で展示中の作品を制作した作家のものも含まれており、展覧会への関心が喚起されます。さらに学芸員の方からの解説により、作家の思想や作品が完成するまでの工程などを知ることができました。

後半は、大学に戻り、各グループで工芸館でのプログラムの振り返りとその発表を行いました。鑑賞体験を詳細に分析したグループ、作品に用いられた技法を学ぶためのツールの提案をするグループ、美術館での鑑賞を半立体の物体に作り替えたグループなど、それぞれの視点で学びを咀嚼し、新しいかたちにアウトプットしており、とても興味深いものでした。
終盤には、ライブラリーセンター1F展示室にて開催中だった展示「芸術のなかの自然 - 絵画と工芸」に関連したレクチャーを実施しました。前半は、「転回点としての印象派」と題して、印象派の成立と近現代絵画への影響について、後半は工芸作品の鑑賞の鍵となる技法や素材についてでした。作品を見ることに慣れてくると、今度はそれが制作された時代背景や作家の考えが知りたくなるもの。3日目は、鑑賞から知識探求への道筋をたどることで、学びのベクトルが様々な方向に向けられました。
 
導入となった3日間は美術に特化した鑑賞でしたが、今後は、哲学や建築、考古学といった異なる分野に焦点があてられます。そして来年二月には、履修学生が実施する公開授業が予定されています。ミライバでの学びや体験をもとに、今度は学生たちが学びを生み出す立場として、一般の方を対象にした授業を担当します。イベントの詳細は、改めて告知します。
 
今後ミライバで訪問予定の施設:
西田幾多郎記念哲学館、大野からくり記念館、能美ふるさとミュージアム 等

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