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Random Walk

287
執筆したショートストーリーをまとめています。
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2023年10月の記事一覧

くそうず

くそうず

腐っていた。
生きながら、腐っていた。

里美の、あの透けるような白い肌。何度も何度も飽きもせずに愛撫した、陶磁器のように滑らかな肌は見る影も無くなっていた。

落ち窪んだ眼窩、痩せこけた頬。
爛れたように変色した肌の所々からどす黒く濁った膿が滲みだしている。どこからやってきたのか、1ミリほどの小さな羽虫がその膿に音もなく群がっていて、何度払っても執拗に集まってくる。
ぷん、と鼻をつく臭いが漂って

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悪魔治療士《デモン・ヒーラー》デミアンの治療簿

悪魔治療士《デモン・ヒーラー》デミアンの治療簿

 その日、ワラキア領内のトゥルゴヴィシュテの城は混乱に満ちていた。混乱の中心には一人の男。黒革の鎧を纏い、奇怪な武器を携えて単身乗り込んできたその男に、城の警備兵は圧倒されていた。
「うわぁぁぁっ!」
 兵士の一人が槍を突き出し男へと迫る。しかし男は槍の穂先をするりと躱し、柄を掴んで兵士を引き寄せる。体勢を崩した兵士の首を鷲掴みにすると、恐怖に歪んだその顔をじろりと睨みつける。兵士は血の涙を流して

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【ショートショート】忍者ラブレター

【ショートショート】忍者ラブレター

アヤメは優秀なくノ一だ。幼い頃より指導を行い、当代一の忍びに育ってくれた。
だというのに。
私の背後から殺気を漲らせて忍び寄って来ているのは当のアヤメだ。熟練の忍びである私には容易にその気配を察する事ができる。
アヤメらしくもないが、一体どうしたことか。
そう思った次の瞬間、捨て身の体で抱きつかれ唇を吸われてしまう。
私は慌ててアヤメを引き剥がす。しまった、私としたことが油断した。
毒でも含まれて

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【ショートショート】数学ダージリン

【ショートショート】数学ダージリン

「数学ダージリン? なにそれ」
久しぶりに訪れたお茶屋で勧められた茶葉の名前を聞いて、思わず僕はそう言っていた。僕にそれを勧めてきたお茶屋の娘、若葉ちゃんが心なしか呆れたように告げてくる。
「知らないんですか? お兄さんの勤めている大学とのコラボ商品なのに」
「そうなの? 数学科だと学部が違うからなぁ。あんまり関わりないんだよね。一体どんな商品なの?」
「数学者にちなんだ茶葉を選んでるんです。イン

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【ショートショート】スベり高等学校

【ショートショート】スベり高等学校

「お前はどこの高校受けるんだ?」
中3向け進路相談の後、カズに聞かれて俺はビックリした。こないだまで泥だらけで遊んでたカズが受験の話を始めたからだ。考えてない、とも言えず慌てて学区の高校リストからここだよ、と適当に指さす。ちょっと不審そうな顔でカズが俺の指した先を見つめる。
「なになに……スベり高等学校? お前こんなとこ受けるのかよ」
俺もそう思うけど、ゴマかした以上はそんな様子を見せられず、必死

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【詩】はじまりのうた

【詩】はじまりのうた

ストレリチアの花にも似たオレンヂ色の朝日
世界はここから作られていく
光の粒を身に纏い
はじまりのヒトが旅立つ
ぶつかり
はじけ
あつまり
実を結ぶ
揺らめく蜃気楼の先には何があるのか
極楽鳥の羽ばたきが聞こえる

【ショートショート】秋の空時計

【ショートショート】秋の空時計

 付き合って三年もたつと周りからお互いに相手に飽きたりしないの、なんて聞かれたりするけど、愁子と付き合ってそんなことを思った試しがない。いつだって彼女は新しい色を僕に見せてくれる。
 いつものオープンカフェで彼女が差し出してきたのは僕の誕生日プレゼントだった。一見シンプルな腕時計。でも盤面を覆うカバーガラスには複雑な加工が施されていて、見る角度を変えると反射が変わって複雑な色に変わって見える。

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