Blüte/開花する樹海

故障かな、と思った。
あるいは愛。
死ぬために買ったロープが、自らを。

すべては流れる。流れである。流出する。流入する。流行する。先も後も無い。端は無い。ただ、一方向に流れ続ける。流れだけがある。

基準。ひたすら流れ続ける今に一本のピンを立てようとする。

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失敗し続ける男が、他人に成功の秘訣を説いていた。私から見れば失敗でも、彼からすれば成功しているのかもしれない。真実はそれぞれの中にある。

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おれは絶望していた。絶望の時代だったから? もちろんそうだ。おまえに、絶望し、いやおまえには絶望していない。おまえはおれを必要とするだろうか。おれにとってはおまえはおまえ以外の何者でもない、おまえそのもの、宇宙の空間座標のある一点に存在する温もり。肉塊、脳漿、その他の細胞組織の集まり。おまえはおまえであっておまえの家族やおまえに似ている芸能人、いや、おまえ以外のすべての他人、動物から、すべてからかけ離れた、誰にでも見える線で仕切られ透明な存在の幕で覆われた、おまえの中にいる。

おれは絶望していた。絶望したいから? そうかもしれない。希望が絶えたから。つまりおれは希望した。希望を持っていた。かつて。過去には。数日前には。数時間前までには。朝日と共に目覚め希望に満ちて桜の咲く、咲き乱れる、駅までの道を歩いていた。要するにおれのあたまは咲き乱れていた。おれの中のおれがおれに話しかける。君誰? 出てってくれないか。バッドなバイブスを持ち込むんじゃないよ。そうしてバッドなおれらは追い出され、グッドなおれらが残った。その状態のまま東武東上が登場しおれは搭乗し、ここまで来たはずだった。

しかしおれは気付いていた。気づいていた? そんなものは妄想に過ぎない。「気づき」それ自体が虚妄だ。この世の人間の「気づき」などすべて勘違いだ。ああ鬱陶しい。その黒目には何もうつっていない。その顔には何も書いていない。その小さな口からそんな言葉は発せられていない。態度? 雰囲気? そんなものは読めない。いや、むしろ「読む」という行為が可能だろうか? 「読む」ことは賭けることだ。ほとんど不可能だ。困難だ。幾筋にも拡がる誤読の道を掻き分け掻き分けたったひとりその自分の勘と知識のみを方位磁石と地図の代わりにして突き進む孤独な試みだ。正しい道にたどり着くことは滅多になく、ほとんどが誤りだ。知識は役に立つだろうか? そんなことは誰も知らない。むしろ知識は時には障害となるだろう。地図を読み間違える。おれは、読み間違えたのだ。しかし、信じていた。己の勘を。

「さっきの話に戻るんだけどさ」

基準値とはなんだろうか。基準とは何か。誰かが過去に引いた線だ。基準値をあげることは目を瞑ることだ。妥協することだ。見て見ぬ振りをすることだ。今を生きなくてはならない。(?)。だが、これからはどうだろうか。この先は。許されるだろうか。数字は嘘をつかないが、基準は恣意だろう。か。なら、何を信じられようか。
基準値を上げてはならない。未来の児等のためにも。ゆっくりと温度の上がるお湯の中で知らぬ間に煮られていく蛙。われわれ。

旅行の感覚で樹海へ向かう者、写真を撮り、樹海へ行きました投稿ポストアップロード。それらを嫌悪していた。しかし、彼らも彼らで戦っているのだ。彼らは自らの行為が何を意味するかを、天罰が下ることを、恐れない。冒涜。自己という虚無とどう向き合うか。脆弱な個に属性を付与しなくてはならない。樹海。それが私の属性だ。彼らは自己反省し得ない。自らが正しいと思い込んでやまない。憐れむべき人々だ。ろう。
私もまた彼らと同じことをするかもしれない。

おまえは樹海へ向かう。だろう。

おまえは過去になっていく。未来へ向かっていたはずが、実際は現在のおまえの身体が、脳が、記憶が、力が、おまえがこれから起こすであろう行動、力学的エネルギー、可能性、おまえのすべて、それは過去になっていくだけだ。おまえが壁に貼り付けたメモはすべて重力という理不尽な力が地面にはたき落とす。おまえはその力のもとでうずくまる。やがてこの世の果てから最悪な風が吹いてきてすべては腐り塵となりおれたちは散り散りになる。都会に吹き荒れる異臭混じる風なんてレベルではない。破壊的だ。すべては流れる。おれたちは一本の大きなクソでかいでかい河の中で水圧に押され押されどうしようもなくとどまることはできない。すべては過去になっていく。どうしようもなく。おれたちはそれを止めることはできない。

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