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掌編小説【冬眠】♯毎週ショートショートnote

お題「穴の中の」「君に贈る」

「冬眠」(410文字)

「今から冬眠しますから」
初雪が降った日、一日の家事を終えた妻が僕に言った。
「とうみんって、ゲームのタイトルか?」
僕は老眼鏡越しに上目遣いで妻を見た。
「何言ってるの。熊が穴に入ってする冬眠ですよ。春まであなたの面倒はみられないの」
そう言うと、妻は自室に入りドアを閉めた。
僕はドアを見ながら、さっき妻が淹れてくれたほうじ茶をすする。冷めかけている。
冬眠か。それもいいだろう。食後のほうじ茶などなくても生きていける。
妻は何日経っても自室から出てこなかった。死んでいるのではないかとドアの前で耳をそばだてたが、すぅすぅと寝息が聞こえてくる。

クリスマスになっても妻は出てこなかった。
僕は考えた。妻がなぜ冬眠してしまったのか。おそらく、定年後の僕の世話をするのが嫌になったのだろう。
僕はクリスマスカードを書いてドアの下に差し込む。
『穴の中の君に贈る…味噌汁くらいは作れるようになるよ』
プライドなんかより豆腐を賽の目に切る方が大切だ。

おわり (2022/12/5 作)

上記の『たらはかに』様の12/4~12/10のイベントに参加させていただきました☆
冬に『穴』ときたら『冬眠』しか思いつけませんでした。
だって寒いんですもの。私も冬眠したいんですもの。
すでに指にはしもやけなんですもの。
かゆい…(;・∀・)


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