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これはユメ
けれどもカコ
つまりは カコの回想

とおい昔 幼いころ 眠り姫を よんだ
あのころは ねむったおひめさまがかぁいいな おひめさまとおようふくがすてき くらいにしか思っていなかった 話をよく知るには あまりにも幼かったから


当時 から いま現在
その眠り姫になって、はじめて。
『ああ、お姫様のユメは長いなあ』なんておもう。


死ぬ前 しんだ後 若くして亡くなった時
あちこちなくなった身体を元に戻してくれて ついでにニキビも消してくれて それから肥満気味のからだも 綺麗にしてくれた


その女の人は てんしでもあくまでもなく ただの一般のひと
ほんの少し ほんのちょびっと 数センチ・・・
頭の狂った 神様の一般人だった。

わたしは蘇り、洋館にゆうへいされて、眠り姫ごっこをしている。

綺麗で質のたかそうなドレスを身にまとい、良く眠り飢餓感もなく、排泄もなく、からだを小奇麗にする必要もなく、永遠にここにいる――


浅。麻。
めが覚めて からだをゆっくり起こしてぼうっとする。
うご  かなきゃ  動かないと、また、眠ってしまう。
からだを動かし、私が四人は入るような巨大なベットから起き上がり、ふらふらと豪華な部屋を出る

木製のらせん階段をふらふらとおり、洋館の玄関へと近づく。
力の入らない手で、扉を押し、開かないことをさとった。まだ、だめなのね。
そうわかると、ふらふらあてもなく家中をさまよう。

今回は、お洋服を着替えよう。

もくてきが決まれば、行動は早くしなくちゃ。
住みなれて歩きなれてきた廊下を歩き、部屋に、部屋に入り、クローゼットを開ける。
それぞれがそれぞれに負けず劣らず、豪華なドレスたちが視界いっぱいに広がる。

いまの私には、どれもが似合う

びじんになって細くなって。かみもよく伸びて。これじゃあ眠り姫じゃなく、ラプンチェル・・・ラプンツェル
 からだも、好きにできるし――おっぱい、おおきくして、この背中がおおきく開いた、セクシィなのがいいなあ
あ――だめ。むだ話・・よくない。
そう思った矢先、めのまえがくらくなっていきて、てにとったどれすがゆかに――



わたしの時間はみじかい
とけいのないこの洋館で 何もせずに 脈で時間を計ってみると五つ。大体、五分
五分するとねむくなってきて 眠る

場所をどんなに変えても めざめるときは必ずベッドの上
それまでにしようとしていたことは全てできあがっている

工作をしようとおもえば 目が覚めると出来上がっていたり
掃除をしようとおもえば 目が覚めるとあたり一面がお皿のように綺麗だったり
あんなふうに着替えをしようとおもえば――目が覚めればきっと 胸の大きいわたしが あのセクシィな黒のドレスを身にまとっておきているんだろう

あんなこと 望まなくちゃよかった。

おっぱいは肩が重くて。

目が覚めたとき ちょっとだけだるい。


からだが、重い
肩がとくに。
ああ、おっぱい・・・ついてる。
からだをおこして見やると、おっぱいがある。服も、あのセクシィなヤツ
きがえよう。今度は淡くて黄色いかぁいいヤツ
もそもそ動き出して服をはいで、はだかになって着替えた。

まだ、時間はある動ける。じゃあ・・・なにをしよう
そうだ、まだ時間がある。今ベッドに入ってみよう
ねむくない睡魔がおそってこないしかいが暗転しない

も、いいや。時間まで、何か考えよう。寝てる間は考えられないこと
死因?こうなった原因?そもそも、わたしはいくつ
え・・・・っと、死んだのは・・・・・火。炎。火事。こうなったのは・・・神様が、私に、言ってきて。うなずいた。ら、こうなった。
わたし死んだのは・・・お酒。タバコ。ない。まだ、未成年

えっと・・・・他にも何か・・・考えなくちゃ。

ここから出るのは、無理。からだも貧弱で、ムキムキになりたいって思って、おきてムキムキになってても、ダメ。無理不可能扉は開かない
部屋の何処も窓は閉まって・・・て、こわせな――ああきた


もう こんな自堕落な生活ばかり。
でようって気もなくなってきた・・・も いいかな




またあの娘、出ようとしていたのね。

全く。オカミサマと契約したんだから無理だってのに。でもあのコ、かぁいいわねえ。あら、うつっちゃった。
でも。見てて飽きない。
ま、ワタシ好みにしたんだから、かわいくて当然か

でも、前は五分の時間を必死に涙ぐましく生きてたのに、最近はふわんとして、どうでもよくなってきてるわ
ますます好み
出会った時は全身真っ黒で、治してあげたら凄い顔してたけど・・・ああいう自分に自信のない子、スキ。操りやすくって、優しい言葉に溺れやすくって。

ああやってあの子がどんどんワタシ好みになっていったら、その内、かわいくてだしちゃうかもね
そしたら、どんな反応するかしら。
閉じ込められているのは自分だけじゃない』って事実に、絶望したりして。うふふふふ・・・・。

・・・あーあ、そろそろ時間ね。また、眠ってしまうわ。
ワタシは五分じゃなくて一日だけど・・・ふわぁ・・・おやすみなさい。


 はーあ。

 『カミサマ』になるなんて、ホント。ハズレクジ以外の何者でもないわね。
そりゃあ始めは
『まさかカミサマになれるなんて・・・ああ、生きてきて一番の幸福だわ・・・好き勝手できる・・・あ。もうわたしって、死んでいるんだったわね』
なんて思ったわよ。

 でも現実はそうじゃなかった。こんなの詐欺よ!

 カミサマになったからって、イチバンになれるわけでも、好き勝手できるわけでもなく、まして下僕とか特別な力とか・・何にも授からなかったわ!!
 挙句の果てには監禁されて、主導権握られた上好き勝手にもてあそばれてるってどういうことよ!!
 こんなの、生きてきた中で一番の不幸よ!!

 もう死んでるけどね!!

 そう思いながら背もたれのある椅子にドカッと勢いよく座り込んだ。
「・・・・・だからってアタシ、何の罪もない純真無垢な子に八つ当たりなんかして・・・どうするのよ・・・こんな、こんな不幸、これ以上増やさなくて結構よ・・・」
 顔を覆い、溜息をつきながら背もたれに寄りかかり天井を見上げた。
 どうやらアタシはこの頃、覚えのない行動の連続によって、年の変わらない女の子を洋館に監禁したらしい。
 水晶玉にはその結果が映し出されている。
「・・・どうも最近、前にも増しておカミサマの強制が、厳しくなってる、のよね?これ、アタシが勝手にして、記憶から消してるわけじゃ・・・ない、わよね?
 ここに閉じ込めたカミサマの上のナニカ――アタシは『おカミサマ』って呼んでるけど――アレの所為でアタシの毎日は滅茶苦茶よ!
時々記憶なくなるし。

多分その時に強制されて、あれこれさせられているんだろう。
おまけにサソリかなにかの尻尾?みたいなのまでついて。

何の趣味なのよ!

もちろんコスプレみたいに、この尻尾の感覚がないわけじゃない。
神経でも入っているようで、触ると触った場所がよく分かるし、針金も入っていないのに自在に動かせる。
 ホント、見た目だけなら立派なサソリのカミサマね。

 おカミサマはアタシをセクシー路線にしたいらしい。
 露出の激しい悪役の姫みたいな格好させて、髪もポニーテール。
 ちなみに髪はほどけない。何故なら縛っているゴムがないから。
 どうやらおカミサマパワーで髪型を好き勝手に固定できるらしい
 たまにお団子にされたり、赤髪に色のキツいメッシュが入ったり、ショートにされてたりする。

 アタシは人形じゃないっての!不愉快!!

「でもどうしよ。この子出してあげたほうがいいわよね・・・?」
 小さな机の上に置かれた水晶球に映る彼女を見て、気の毒になった。
 確かにアタシは、今ここで監禁されてるわ。でもだからといって、知らない子を勝手に閉じ込めていい訳が・・・・ない。ない、ないの!いいわけがないのよ!

 なんだろう、今なにか頭を掠めたような。

 でも。
 やられた分を本人にやり返すならともかく、八つ当たりはいけない、ハズ・・・よね

 なんだか解らなくなってきたわ。

 でも、野蛮ね。こんな行動
この子にした行動が、おカミサマと同列だと思うと、とたんにやる気が湧き上がってくるわね
 アタシ、これでも女の子だし。なんか女らしく無くなっちゃったけど。
 でも・・・ああ、もう!四の五の言ってないでとにかく出してあげなくちゃ!アイツと同列はイヤ!!

「まずは・・・情報収集ね!」

 頬を叩いて覚悟を決めると、扉の前に立って、スゥゥっと深く息を吸い込み、大声を出した。
おカミサマ!何でも言うコト・・・一つ聞きます!だから、アタシを資料室に連れて行ってください!
 五分のあの娘が羨ましい。あの娘はまだ幸せね。
 お洋服も髪型も、部屋の出入りさえ、自由
 ちょっとだけ、貴女が妬ましいわ


 そう思いながら、おカミサマの回答を待った。



あー・・・全身ボロボロね。こりゃ。
 全く。また『お願い事』のために自己犠牲、か。
ここの所、そんなことばっか。
 リジェの起きてる時の事情はワタシだって解っているわ。
だって、ワタシの方がリジェよりも何倍も位が上ですもの。
 そう思いながら、体を起こしてうーん、と伸びをした。
 軋んで痛い体を動かして服をまくってやると、体中が鞭打ちの痣まみれだった。
わーわーひっどーい・・・いい気味。んーでも日常生活に支障出るわね。治るかな?
 他人事のように呟いて、まったりと服を着なおして、大きなベッドにドカッと腰掛けた。
 リジェ、というのは愛称
 ワタシが眠ってるときに活動している、温度のあるこの体の持ち主のこと。

 簡単に言うと、前回動揺しながら五分のコを出そうとしてたコ。

 何?このワタシがこの光景を見られていることに、気づいていないとでも思った?
 あ、ちなみに、あの五分のコにも愛称があってね、ネグっていうの
 二人でネグリジェ。睡魔におそわれっぱなしの二人にお似合いでしょ?
 前々回の終わりに「かぁいい」がうつってたのはワタシ
あ、私の名前?う~ん・・・じゃ、一切関係ないノノカで。
 リジェの体が眠るようになったのは、ワタシがリジェの体にもぐりこんで、一日眠りについたら、丸一日起きないように体を作り変えたから。
 同じ原理でネグには、オカミサマが住み着いてる。
ワタシがネグに交渉して、ワタシの力でネグを監禁したのに、いつの間にかあれやこれやの主導権奪いやがって・・・。
 そんでもって、リジェの時は強制的にポニーテールにくくりつけられてた髪は、ワタシになると、解かれて今はリジェご自慢のサラサラストレートがワタシの意のままってワケ
 それからオカミサマ 笑よりも偉い私だから、当然、許可なしに外にも出られるわ。

 リジェと違ってね!!

 ・・・ま、こんなにワタシになった時に支障が出てるんだから、いい加減自由に部屋の行き来くらいさせてもいいと思うんだけど。
 オカミが毎度毎度飽きもせずに『部屋を出入りした代償』として、リジェに拷問するから、自分がされると軟弱なリジェは拷問途中で意識が途切れ、そんで仕方なく、オカミの阿呆が部屋に戻すじゃん。
 で、ワタシに切り替わったときに痛みが走って、しんどいのなんの。


 はー・・・・正直、リジェには体共有してるのもあって恨みしかないし、全然タイプじゃない。けどまあ、少しくらい手を緩めてやってもいいと思うのよ。自分じゃ動く気ないけど。

 そりゃあ、ワタシが動いたら一発よ!
なにせ、リジェよりもオカミサマよりも偉いからね!


あータイクツ!
 ネグを見てるときは幸せで、時間が経つのを忘れちゃうけど、今はネグはおっさん・・あーオカミサマが入ってるし、動き可愛くないし、せめて乗り移らずにネグが寝てたら、一日寝てるネグを見ているだけで楽しいのに。

 まあ、今はおっさんが次起きたネグが困るように部屋の配置変えて遊んでるし、起きたネグがどう動くか予想するのはそこそこ暇つぶしになりそうだけど、想像しつつコイツ見てる一日はさぞつまんないだろうなあ。

 うん、しゃーない。

今日は早めにリジェに体を返してあげよ。あの子、最近がんばってるし」
 なにやら、ここの所ほぼ毎日オカミサマに拷問されるのを覚悟した上で、書斎に入り浸ってるし
まあ、書斎まで届かない日もあるけど。
 書斎で意識が途絶えると、強制的にオカミサマが部屋に戻すから、翌日書斎に行くにはまた拷問を受けなくちゃならない――全く、おっさんは絶対、それを口実にいじめたいだけだわな

リジェが不憫。ほんの少しばかりね。数センチ!
 タイプじゃないし、好きになれないけど、長い間、一緒の体を使ってるし流石に愛着もわいてくる。
 正直、ど真ん中ストレートでタイプのネグは、可愛すぎてあの子の体を乗っ取るキニもならない。
反応見たいし。
ま、おっさんが使ってるのは気に食わないけど。
 まー・・この理屈が通るんなら、オカミはリジェがタイプなのか。だからいじめたい、と。趣味悪!

 あ゛ー・・・・好みってメンドクサイ

 リジェ、自分自身が感じる違和感と、羨ましさの狭間で、出してあげようって必死こいてる
 タイプじゃない・・・恨みもある・・・けど・・・うふふふ、そういうムジュンしてるトコ、好きよ
 おかしいわね。こんな気持ちになるなんて。
 でも、もうこの体も飽きたわね。リジェも思い出しそうだし。

そろそろかしら

 じゃあ、しゃーないわね。前言撤回して、手伝ってやることにしましょ。


 さて。
 ワタシを見てるアナタ?
 ワタシはもう寝るから、リジェによろしく言っといて・・・ん?無理かしら?

 じゃ、いいわあ・・・ふわぁ・・・おやすみなさーい。


 ん・・・・あ、れ ?
 口が・・・・動かない開かない喋れない

 あ・・・・わかった。これは、ユメ、ね。

 だったら、いまのわたし、は、時間に縛られず、じゆう、ね。
 ・・・何をしよう。思いつかない考えられない

 ・・・・・手紙


 ・・・よめない
なんだか どこかで見たことのある文字――だけどこれ、どうやって発音、するんだっけ?

 も、いい。

 今は「ユメ」なんだから、そんなこといいわ。
早く、なにか、なにかしよう。・・・なにしよう

 そもそも、どぉして、ユメ?なんだっけ・・・

 だって

 体がふわふわそわそわ。ぼうっと足がどこにもついてないみたいな感覚

 頭がうごかなくて、さむい。からだ、みんな。うでせなか、とくにいたくて。

血液を流すポンプ運動のかんかくが、やけに鮮明。なんか、覚えがあるよ。これ

 こういうの・・・なにか、名前があったような・・・なんだっけ。

 ――読めない手紙、みたら、わかるかな。

『ああ!もう!じれったいったらありゃしない!!何でそんなに思考がゆっくりなのよ!!どうしてこんなときに熱まで出してるのよ!!!』

ってリジェならとっくに言ってそうな程、ネグの頭の回転は鈍い鈍すぎる

 ネグがおかれてる空間では、熱を出すことなんてありえないから、どうせまたオカミが勝手にいじったんだろう

 ああ!もう!!

 せっかくワタシがリジェの体を乗っ取ってる、限りのある時間を利用して、わざわざネグをだそうとしてるのに!!

それを知ってかしらずか、あのおっさんはあああ!!

 まあ、熱があるからって、ネグの息遣いが荒くなっているわけでもないし、肌の色も、普段が白すぎるから、むしろいつもより赤みが差して健康そうに見える
 うん、今日も可愛い。
 
 

 
 さわってみるとかみは、熱い。さわれないほど、じゃない。
 じんわりじっとり僅かに、熱い。

「ん・・・読める・・・?」

 でもなんていうんだっけ・・・これ、この字。カクカクしてて・・・スキじゃない

 それになんか、バカに・・・けなす・・・違う。えらそう・・・・な、感じがする。
 あ・・ちょっと読める・・・
 
 

まズはじめに、いっておキたいコとがアるの。聞いテ?あナたハ「ネグ」。そシてワタシは「リジェ」。これガ、わたシたちのなマえ。

ケれど、リジェというノは、ワタシがかりテいるかラだのナまえ。本名ではナいわ。

私はそウネえ、ノノカ、デいイわ。

持チ主のリジェガ、あまリにも、かワいそうニなるクらい、貴女のコとを気にかけているから、体を借りてイるワタシが、仕方なク、手を貸してやっているだけよ
・・マア、半分噓。もう半分は構いたカったダけ。

 
 
何でカタカナ混じりかって?
仕方ないでしょ。
オカミサマの影響で、上手く届いていないのよ。
 
 
何故かッて?

貴女はワタシ好ミの、かぁイくてフわふワした従順な子だカら。

マあ、最もそンな好みの女の子が何故都合よくいルかといウと、ワタシが監禁したかラだけドね。

 でモ、ソのおカげでこの体の持ち主であるリジェが拷問を受け続けテる。何度も死に掛ケ――最も、死ヌことナんてなイんダけど――デもずっト貴女ヲ助ケる方法を模索シ続けテいる。

 それッてとテもいけナいこトなのよ?ワかるかシら?

そうスることで、リジェを管理しテいる「オカミサマ」が、リジェを拷問シて、ソのリジェの拷問の傷は私にも影響が出て、痛いのヨ。
 セっかクこの体を乗っ取って一日オきに遊んでたのにつまラないったらアりゃしなイわ。

 だカらアナタにハそこからとっとトどいてもらッて、ワタシは元の生活を手にスるわ。

手順はこウよ。
条件Ⅰ。その世界で他の生き物と接触すること。
条件Ⅱ。その生き物に乗り移ること。
条件Ⅲ。その生き物に乗り移った状態で、家から脱出すること。
これだけよ。
 ま、そもそも一つ目が出来ない状態だったんだから、出れるわけないって話よ。これについてはもう、手はうってあるわ。
条件Ⅱはいつもみたいに、時間切れになって意識が朦朧としている時に、乗り移りたい、と願えばいいわ。
 Ⅲの説明は・・・いらないわよね。
以上。また連絡するわ。


 
 どうやら、最後は持ち直してたようね。良かった良かった。
 ――でも、手紙を読んだネグが動かない。
 足元には蛙が一匹
 赤黒い色をしたソレを見て、ネグは顔を落とし、しゃがみこんだ
 そして無言で手を伸ばし、蛙を鷲掴みにすると、口元へとゆっくりと運んでいく

「・・・まだ早かったか」

 ワタシが諦めの溜息をついた次の瞬間、勢いよく顔を上げた。ネグとは思えない速さだ。
「・・・・・・気づいた
 ワタシの声じゃない。ネグだ。

彼女の目線は完全にこちらを見ている。水晶玉越しに彼女と目が合う。

そ・・・っか。思い、出した

 ふらふらと立ち上がり、手の中で握り締めている蛙に気づき、そっと床に手をそえて下ろすと、彼女はカメラ目線ならぬ水晶目線で歩き出した。

帰ろう

 先ほどまでのおぼつかない足取りとは打って変わって、確かに一歩一歩踏みしめるように彼女は玄関の扉の前に立った
 そしてグッと力を入れようと体制をとると、くるっとふり返った。

貴女も行こう?リジェ。一緒に

 こちらを見るネグの目は、見たこともないほど、はっきりと見開かれていた。



誰だ!・・・・ああ、なんだ、ネグか。てっきり俺は復讐に来たヤツかと・・・」
 だれかがそんなことをいっている。
 ハネの多い黒髪。裏地が緑の黒いパーカー名前に負けず、中性的な顔立ち。ああ、リロだ。

ニシグレ アイリカロバヤシ オト。 オトは、

 お互いからもってきて、リロと、ネグ

 リロは昔、ご近所づきあいで、ちょっとだけ遊んだあと、次にあったときに、すごく深い、切っても切り離せない仲になった
「リロ。わたし、どれくらい居なかったの?」 扉を開けて、まぶしい光に包まれて、気がついたらここ

 みなれた街のみなれた路地裏にポツンとある、みなれた、汚れの目立つテント

「どれくらいも何も・・・五分、とかだと思うぞ?なんか、匂いが違ったからわかんなかったけどさ。何?香水でもつけたの?何その甘ったるいヤツ」
 鼻をつまんでイヤイヤと首を振りながら、リロが指を指す。
「何か・・・匂うの?」
「ああ、臭うとも。それも、結構濃いのが。ソレ、一般人でも余裕でわかるぞ」
 。とリロは少しずつ距離をとりながら声を上げる。
「何でお前、そんなに顔違うの俺の中の五分って、お前とドンだけ違うわけ?
 まあ、俺はどんなに誤魔化されても、かすかにするお前の体臭でわかるけどさ。なんていっている。

 彼は鼻が効く異常なほどに。
効きすぎて生活がままならないながらも、事情が事情だけにこんな場所に巣を作っている。「・・・ま。色々気になるけども。とりあえず香水を取ろう。普通の距離で話がしたい」

 わかった、と呟いてその場を後にした。


 どれくらいぶりかも解らないほど久々の水の感触が愛おしい
 何も考えず飛び込んで、全身に池の水を浴びると、本当に戻ってきたんだな、と実感がわいてくる。
 でも、も、見た目も何もかも、あの洋館のまま。何でだろう。


 きっと今から一年前
 「ここの所、殺人鬼が度々出現しているというニュース」が、世間知らずの私にも耳に入っていた頃。

 殺人鬼に、会ってしまった

 殺人鬼は、『臭い臭い』と泣きながら、肉をむさぼっていた。殺人鬼は、どこかあの頃の面影がある、リロ
 殺人鬼は、殺した相手を食べていた
 その光景を目撃したそのとき、言い表せないような高揚感があった。顔が紅潮し、息遣いが荒くなり、ドクドクと血液を流すためのポンプ運動が感じられるほど興奮しながら、ふらふらとリロに近づいた。

 意識がハッキリしたときには、私はリロの肩に手を置いていた

 ――どうしてあの時、気づけなかったんだろう。

 肉を食らうその姿に魅せられて、私は、ニシグレ アイリ という、女の子のような名前の青年に、加担してしまった。いわゆる、共犯者になってしまった
 ぼうっとしがちで、天然だとか言われる性格をも受け入れて、迎え入れてくれた職場も、リロと出会うきっかけをくれた優しい家族も、今までの人生さえも、その瞬間にどこか遠くへといってしまった

 何故って?

 それは私がカロバヤシ オト が同類だったから
私も、彼と同じ、食人鬼だったから。

 ――私は、あの日、赤髪のポニーテールの拷問さんを、食べようとした。
私は、あの日、彼女に抵抗されて、火を放たれた

 私は――それによって焼死した。


リサ!』
 耳元で、あの子の声がした
 振り返れば誰もいなくて、アタシは作業に戻った。
なぁに、単純な作業よ。
散らばった四肢を回収して袋に詰めるだけの簡単なお仕事
 リサ、なんて久しぶりに呼ばれた。ああ、いや、呼ばれたんじゃなくて幻聴だった。
 でも本当に久しぶり。
 好き勝手に移動できるし、眠くもならないし、拷問もされないし、快適ね!

 リサ、と私を呼んだのは、かつての仕事仲間。
 死んでしまったわ。何故知っているのかって?

 だって、私が殺したんだもの。あの子が裏切ったから。

―――あの時は快感だったわねえ。内臓をこねくり回すの。
口角が上がる。

 ハァ――それにしても

「あーあ、ホント、酷い話。どうしてアタシがあんっなにっ、自己犠牲して助けようとしてた相手が、アタシを殺しかけた女なのよ!もうわかんないわ」

 アタシはあそこで寝て起きてを繰り返している間、ずっと、ありとあやゆる拷問、尋問、それによって起きた殺しの記憶を、封印されていたみたいね
 段々戻ってきたと思ったら、いつの間にか完全に元に戻ってるし。

人を殺すのはいけないこと。

 そんなルール、誰が決めたの?ルールを決めるなら、一人残らずルールを守れる状態になってから決めなさいよ
 アタシは守れない。だって、痛めつけるのって、楽しいし気持ちイイ。
 それを繰り返すうち、いつの間にやらお金が溜まり、次の娯楽の用意が出来てて、やりたいことをやり続けてるうち、どんどん豊かになっていく。

 なんて最高なの!?やっぱり天職よ!!

 ああ!考えてたらまたやりたくなってきた!!

ああああぁぁぁぁぁぁ・・・・殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したいいいいぃぃぃいぃ・・・・・
でも大丈夫!この次はっ!・・・・アイツだから

 アタシの記憶が正しければ、時間は巻き戻ってる。あの日の、一日前に。
 あのオカミサマのテクニック、散々やられて覚えたし、実践したいし!打ってつけね! 
ふと思い立って、服をまくる。アイツに噛まれたあちこちの傷も、落とされかけた腕も、今はピンピンしてる。

 だから、やっぱり時間が巻き戻ってる

 あの日には、まだ一日足りない。あの時間には、まだならない
あああああああああああああああ・・・・・・早く、時間が進んだら良いのに

 顔をくしゃくしゃにして、アタシは時間が経つのを待った。

ネグ!」
 そうリロに呼び止められて、立ち止まって、振り返ると、体中の力が一気にぬけた。
 やっぱり、本調子じゃないみたい
 しゃがみこんだ私をリロがおぶってくれた。「なあ、どうしたんだ?だれか殺しちゃったのか?
「ううん・・・そんなことは、ない、けど」 多分多分。だって、リロはあの日、怪我をしたの。朝食のときに、頬に。

 それがないなら、きっとそう

「じゃあ、整形した顔が気に入らなかったのか?」
「ううん・・・この顔、私がずっと欲しかった顔。あんなの・・・じゃなくて」
 本当、それだけは感謝だ。
「自分をブス呼ばわりか。よくねぇぞ?・・・・ひょっとしたら俺だけかもしんねぇけどさ、俺には見た目なんてどうでもよくて、匂いが大事なんだよ。」
高らかに宣言するようにリロは言い放った。「匂いは素晴らしい。どんなに隠そうとしても、優先順位は一番じゃない。誰も彼も、最後は顔とか見た目だとか、内面を気にする。そんなの、匂いに全部でるのに、だ
 リロがそういいながら、少し声のボリュームを落とす。
人間、肉になっちまえば、皆似たような濃いにおいを出すだけなのにな
 ニッと笑ってリロが続ける。
「だから俺は、今、お前が行動にまで移した見た目について、何の相談にも乗ってやれん!だがまあ、正直さっきの香水は、ネグがいつものネグじゃないみたいで、気持ち悪かった
 本当、変な食人鬼
「そうだね、もっと早く落としてよかったかもしれない。」
 柔らかくそういったとき。リロが突然立ち止まった。

明日さ・・・あの子にしない?
 リロが指差した少女。彼女は――霧がかったようにシルエットが見えない

 ああ、そうだよね。

 わたしは全てを悟った


一日が経過した。
 同じ日付、同じ時間。間違いなく同じ年――の、同じ廃村
 けれど、食人鬼は現れない
「あああああああ!何で!?何でよお!?」 なんでか知んないけど携帯つながらないし、繋がらないから拷問の電話できないし、事務所なんて知らないし、そういうの公に出来ない仕事だから!!
「あぁ・・・・なんでよぉ・・・」
へなへなとその場に座り込んだ。

「・・・・ごめんね。待った?」

 見覚えのある黄色いドレスの少女が、そこにはいた
「待ったわよ。何で同じ時間に来なかったわけ?」
 こっちはもう始めたくってウズウズしてるってのに!
「・・・・考えたの。色々な可能性を」
 アイツはあの日のように血走った目で、獣のような声を上げたりせず、ただただ俯いて、五分の姫ーーー『五分姫』、の頃みたいな喋り方で続けた。「私の飢餓感は何処から来るのか。あなたを殺さないにはどうしたらいいのか。皆平和に、なるにはどうしたらいいのか」
「腰抜けね。アタシはもうアンタを痛めつけたくてしょうがないの!!ねぇ・・・ちょっとでも罪の意識があるんなら、アンタの体好きにしてもいいわよねぇ?」
 昨日一晩で集めた器具たちが火を噴いちゃうわ!

「ダメ。解ったの」


 私は手を前に出して、ポツリポツリ呟いていく。
これは違う。戻ってるんじゃないの。制限がなくなっただけ
 私がはっきりと覚えている人たちは皆、はっきりとうつる。
 リロは、服の繊維まで細かに見える程に。 でも朝食に指名された彼女は、何も見えなかった
 そして今目の前に居る拷問さんは、ハッキリとしている。あの日と違う服装なのに
「私達は、一度死にあってる。もうそれは、変えられない
 そんな都合よく、私達を操っていた人たちはしてくれない。
「だから今は、再現されているだけ。きっと、正しい道を見つけることが、脱出へと繋がるの」
 この喋り方、安心する。あの眠り姫のときみたいに、ぼうっと何にも襲われず、彼女を見られたらいいのに
 わたしの中には、ぐちゃぐちゃとした感情たちと、飢餓感と、今にも向かっていきたい衝動が押し寄せてきている

 でも、我慢だ。

「何か、あの時と変えなくちゃ行けない。わたしも、あなたも。だ、からっ、わたしはあなたを襲わないっ・・・」
 時折、波のように衝動が襲ってくる。目に涙が浮かんでくる。でも、でも、駄目だ。
ここでおれてはいけない


 無理しちゃって。白けちゃったわ
 そう思いながら、善人ぶる彼女の演説を思いだした。
「・・・・まあ、一理、あるけどさあ・・・アタシは襲いたいんだよね。ずーーーーっと、アンタと違って我慢させられてきたんだからっ
 そう煽り、近づいてやる。手には短刀
いつでも殺せる。ネグの肩は小刻みに震えている。アタシが近づいていくたびに、その震えは増していく。

ねえっアンタはどうなのさ!
 顔を鷲掴みにして持ち上げると、彼女の目はあの時と同じ、血走った目をしていた
唇をかみ切りそうなほど噛み、眉間にしわを寄せるその姿は、五分姫の面影もなかった。

「はぁん・・・これは使えるわね」
 これは拷問になる。確信した。
 音を上げさせたところを、今度こそ仕留めてやるわ。
 アタシは自分の口角が上がって、気持ちよくなっていくのを感じた。



 あのとき、彼女を見つけて飛び掛り、ことが終わるまで、五分ほど
 今は、あの瞬間の飢餓感が、一日続いていた

 彼女はうれしそうにわたしに近づいては遠ざかり、我慢の限界を迎えたわたしがあちこち自分の体を噛むと、うれしそうにからだをすりよらせてくる

 駄目、なのね。彼女は変わってはくれない

 でもどうしても、分かり合えないものだとは思わない。歩み寄ってくれれば、理解しあえたのかな――ううん、逃げ腰じゃ、駄目
必ずわたしもあなたも、違う選択を取ってこの空間から出してもらう

 わたしの目には幸せそうに頬を赤らめる彼女の姿があった。
「何か・・・替えは、効か、ないの・・・?」
じゃあアンタは替えが効くの?
 この飢餓感はどこからくるんだろう。どうしてこんな風になってしまったんだろう。

 わからない・・・わからない。

「治らないんだよ。どうしようもないの。そういうもんでしょ?」
 やっぱり彼女はうれしそうだ。

あーあーもーうんっざりっ!
 突然割って入った声があった。彼女はその声に聞き覚えが合ったようで、目を見開いてそっちをみた。

野々華・・・・・?
 彼女は思わずわたしから離れてそっちへと駆け出した。
何で・・・!?おかしいじゃない!!確かにあの時・・・
「そう。アナタにワタシは殺された。それで、神様に転職したのよ
 腕組みをして首を傾げるようにし、目を細めて眉をつり上げた。
「ネグ。よくがんばったわね。もう十分よ。これで安心して生まれ変わらせられる」
 なんてわたしに優しく言った後、彼女へと向き直り、彼女そっくりのいやらしい笑みを浮かべて見せた。
「ねえ・・・・ネグのいってたこと、聞いてたわよねぇ?それでもその差し伸べられた手をも、拷問の餌食にしちゃうんだから相当よね。アナタって
「じゃあ・・・何?我慢してれば、出して、もらえたの?」
「そゆこと♪ま、ワタシはアナタに恨みしかないし、ここ一人取り残されて生きていくサマを一緒生み続けるのも悪くないわよねえ
 ニヤニヤしながら彼女そっくりに笑う少女。
「ま・・・待って。彼女が出ないのなら、私も待つ。だって・・・私が、殺したんだろうし・・・相手役も、必要、でしょ?」
 このままこの二人だけ残しておくのはいけない、と直感がいった。
もう、お人よしねえ。かぁいい奴め
 その一言で、彼女が誰なのか、よく分かった。
「じゃあ飢餓感を外した上で、そこの木の柱に括りつけるわね。辛かったらいうのよ・・?で、リジェ。ああ違う、リサ!」
 突然名を呼ばれ、バッと顔を上げて今にも泣きそうになる彼女。
ああ、この人がリジェ。リジェなのね。
「せいぜいがんばって、ワタシ好みの努力家になることね」

 そういい残し、ノノカは姿をくらました。



ああ・・・・どうすんのよ、これ。
 
アタシはまた始まった我慢の時間に二分と立たず嫌気が指していた
目の前にはいたぶりがいのあった、そしてアタシとは違い、合格したネグ
本当、人参ぶら下げられた馬よね。今の状態。
「・・・・私が、一日だった
 突然ネグが言い出した。
「・・・から、あなたもそうじゃない?」
 要は、一日耐えてがんばれ、と言いたいのだろう。冗談じゃない。
 アタシはネグと違って我慢できるほど、お人よしでも努力家でもない
 アタシのは、周りの誘惑の数とレベルが違う
 目の前にはイライラの原因の一つ。そして、かつて殺されかけた相手
さっきまでいたぶっていた相手
もう一度見たいという気持ちがムラムラとわきあがってくる。
 そんなアタシの背後にはどんなにセクシーでなまめかしいポーズより誘惑してくる拷問器具達
 そして何をしても大丈夫そうにみえるいつものカミサマ空間で、かつ暇をつぶせるものが他にない。
 
 解ってる!それをしたらまた振り出しに戻るだけ。やっとおカミサマの呪縛から逃れられて、後一歩だってのは解ってる!!
 ――でもしんどいよ、こんなの。
しりとり、しましょ。じゃあ・・・リトウ
 アタシの苦悩を知ってか知らずか、馬鹿みたいな提案をしてきた。
しかも単語が完全にアタシをおちょくってる良く切れる刀のことよね?それ。
「はあ・・・・移り変わり
「・・・利己的
「・・・・・義理
「・・・・・・・リチウム
「・・・・ムリ!!無理無理!!なんでアンタなんかと!?」
 やっぱり馬鹿らしい
アタシはむしろイライラが増して、よりコイツを刺してやりたくなってきた
「・・・相手を知れば、情が沸くかなあ・・・って
「だからってなんでしりとりなのよ!??」
 アタシの心底解らない、といった裏返った声を聞いて、ネグが無表情で首をかしげた。
言葉選び。戦略。語彙の広さ。知識、から見える経験・・・良く分かるじゃない、どうして駄目なの?
 それでいて、余分なものがないから知識を吸収することに気が向いて、集中できそう。とネグは続けた。
「ええっと・・・罹病・・・・私達って、眠ってばかりだし、お互い病気よね。きっと。それぞれ、取り憑かれたものもあるようだし
 何かおまけの解説が始まった。余分なものを自ら入れてどうするんだ。
「・・・うっとり。拷問のこと考えると、よくうっとりしてるわね」
 でも乗ってやろう、と、なんだか少し楽しくなってきている自分が悔しかった。
理屈。衝動は、理屈じゃ説明しにくいわ」
釣り。まんまとエサに捕まって、釣られたわね、アタシもアンタも」
 アタシは『カミサマになれる。』コイツは『綺麗になれる。』
 案外似たもの同士かもしれない。
力作。この衣装は誰が用意しているんでしょうね。デザイナーさんに会ってみたい」
繰り。操られてたんだから、会いになんかいけるわけがない。そんな都合よく、あいつらがいうことを聞いてくれるわけがない」
「・・・・・・粒子。大丈夫。砂粒一つでも可能性にかけてみせる。私がそうして叶ったように
 なんだか、本当に会話をしている気分になってきた。
確かに、集中できるし、知れていい。こんな馬鹿みたいで切れたこと考えてたのか。五分姫は。
「・・・・・・・じんわり・・・・・・信用出来てきた気がする。アンタ・・・のこと」
 どうしちゃったんだ、アタシは。
 ああ、きっとあれだ目の前の少女がネグの格好で、ジッとこっちを見て、喋ってるから、段々麻痺してきたんだ。
少し前の日常が、今を侵食してきたんだ。別にほだされてなんかいない。
「・・・なら、やっぱり粒子にかけて正解ね。じゃあ・・・輪廻。あると思う?」
眠り。・・・眠り姫はどう思うのよ。答えてから、答えてやるわ」
「・・・・リハーサル。今までの物柄は皆・・・輪廻のためのそれだと、思ったわ。今」
流罪、だったりはないの?」
 納得しかかっていたけど、お互い、罪人だということを思い出していってみる
なんて返ってくるのか、夢見がちでおとぼけで、愚直な返事に、期待が募る
一緒。そしたら一緒に、刑を受けているわね。私達」
 読めない。夢見がちどころか、諦めたような返事だ。でも表情は明るい。
「よ・・・よく、一緒にするわね。同じ日同じような時間に死んでるってだけでまとめてるのかしら。そしたら」
 そういえば、一応加害者と被害者(お互い、逆の要素もあるが)なんだった
・・ふふ・・・・くふふ・・・・じゃあ大丈夫かしら」
 へんな笑い方。でもそういえば、笑い方も知らなかった
「食らう・・・ことに、もう執着はないの?」
 ふときいてしまった。言ってから慌てて「不利」といっておいた。
「不思議とね。大丈夫。もう沸いてはこないわ、あなたも・・・「リジェ」も、あと少しよ」
 そういって、優しげでおっとりとしたネグの表情を見て、ほんの少し先の未来で、こうなれていることを祈った。



偉いわ~!抑えたのね!!いい子いい子してあげるわ!よしよ~し!
 なんだか悪意を感じる言い方で、彼女はリジェの頭をなでた。
「やめろ!」
 あれから体感で一ヶ月近くの時間を経て、リジェは克服した扱いとなった。
 そうしたらまた――ノノカさんが現れた。
「・・・よく、頑張りました。これで晴れてあなた達は、生き返れるわね。
 そのノノカの指示の元、豪華な客間に通された。リジェが、おカミサマの部屋だ――とつぶやいた。
せっかくだから二人の見た目も似た感じにしといてあげる。上手くいったら、生前会ってた人に気づいてもらえるかもね
 なんて笑いながら山のようにある、手続きの書類か何かにサインをして判子を押していく。押された紙たちは鳥の形に折られ、どこかへ飛んで消えていく。
ン?あれ!?ボクのフェアリーちゃんたち、みーんな巣立ってっちゃうの!?
 ビクッとリジェのからだが固まったもしや、と思いながら振り返ると、そこには無精ひげを生やした、人間が百人くらい乗れそうな大柄な男が、うるうると目を潤ませながら、両手で鞭を握り締めていた
「・・・きたよ、おっさん
 ノノカの柄がすっと悪くなった。どうやらスキじゃないらしい。
やだなあ、さみじいよお゛~・・・でもま、新しく連れてくればいっか!
「・・・ノノカ。前々から思ってたけどさ、なんでコイツがよくてアタシがダメなの?
 ノノカは足を組んで葉巻に火をつけてぼやいた。
「『コイツが全ての法でルールだから。』・・・・なんてのはウソで、コイツ、神様でもなんでもないから
「は!?」
「え・・・?」
 ノノカは手元を見もせずにサインと判の作業に戻ると、そのままこちらを見たまま続ける。
「アイツ、この施設の一人目の更生させようとした奴なんだけどさ、結局治んなくて、治す気も、リサみたいに差し伸べてくれる手もなく、ずーっとこのまま。だからこいつの管理してる神様が手を焼いて、アレコレ諦めてやらせてんの
 それをきいたリジェがほんの少し目を輝かせた。
その人生も悪くなかったかもしれない・・・
リジェ、悪い、その人生
 しりとりのおかげか、リジェに即座に軽口が叩けるようになった。
・・・うん、悪いな。やっぱりこっちがいい。管理されるのもスキじゃないし
 そんな会話の中、ノノカの机から、紙がなくなった。
はい。おしまい。次はもう、ストレートで審査通ってね!
 なんだか晴れやかな表情で、ノノカがいった。
ありがとう・・・・ごめんなさい
 リジェがノノカさんに頭を下げた。
「・・・ま、その言葉が自分から出て来るっていう、成長が見れてワタシはうれしいけどね。努力家のリジェさん?」
悪戯っぽく目を細めて、ノノカさんは笑った。
 横のリジェは安心しきったように笑うと、ふと思い出したように私の服を引いた。
そういえば、聞かなくていいのか?その服のこと
「・・・あ」
すっかり忘れてた。
「・・・ノノカさん。」
ん~?なぁに?ネグゥ~
 おかしいな。さっきまでいい感じだったのに、急にあのオカミサマみたいな感じがしてきた。
「この服って・・・誰が?」
「ああ。アタシの友人。ちなみにリジェのも二人の生き様に感化されてつくったんだって
 よかったわね、知らぬ間にファンが出来てて。と彼女はにんまりとした。
 そしてチラッと別の方向を向いて、またにんまりとした後、手を振った。誰かいるらしい
「と、いうわけで!二人ともひたってないでさっさと行ってきなさい!」
 と、席をたって私とリジェの背中を押して進むノノカさんと
ええぇ!まだ行かないでぇ~
という声に押し出されるようにして、私達は進んだ。
 白い、真っ白な、雲が敷き詰められたような部屋。その奥に、大きな両開きの扉が、二つある。
ここで別れちゃうんだね。ごめんね、言っていいことじゃないけれど、楽しかった
 そう微笑んで見せると、リジェはなんだかうれしそうだった。
こちらこそ。アタシっこそ、ここまで連れて来てくれたネグに、散々酷いことしたし、言えた義理じゃないけど――充実してた
 そういって扉に手をかけた。
じゃあ、また・・・次の世界で
「くふふ・・・・なぁんだ、リジェも、粒子の可能性を信じるのね
 そんな風に笑ってみると、そりゃあ、ネグに散々見せつけられたからね。なんていうリジェ。
じゃあ、また、後でね。きっと会いましょう
 私は楽しみが増えた、と扉を開けて中へと、消えていった。
 
 さあ、新しい私はどんなのだろう?



ー引用元ー


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