ん・・・・あ、れ ?
口が・・・・動かない、開かない、喋れない。
あ・・・・わかった。これは、ユメ、ね。
だったら、いまのわたし、は、時間に縛られず、じゆう、ね。
・・・何をしよう。思いつかない。考えられない。
・・・・・手紙?
・・・よめない。
なんだか どこかで見たことのある文字――だけどこれ、どうやって発音、するんだっけ?
も、いい。
今は「ユメ」なんだから、そんなこといいわ。
早く、なにか、なにかしよう。・・・なにしよう。
そもそも、どぉして、ユメ?なんだっけ・・・
だって。
体がふわふわ。そわそわ。ぼうっと足がどこにもついてないみたいな、感覚。
頭がうごかなくて、さむい。からだ、みんな。うで、せなか、とくにいたくて。
血液を流すポンプ運動のかんかくが、やけに鮮明。なんか、覚えがあるよ。これ。
こういうの・・・なにか、名前があったような・・・なんだっけ。
――読めない手紙、みたら、わかるかな。
『ああ!もう!じれったいったらありゃしない!!何でそんなに思考がゆっくりなのよ!!どうしてこんなときに熱まで出してるのよ!!!』
ってリジェならとっくに言ってそうな程、ネグの頭の回転は鈍い。鈍すぎる。
ネグがおかれてる空間では、熱を出すことなんてありえないから、どうせまたオカミが勝手にいじったんだろう。
ああ!もう!!
せっかくワタシがリジェの体を乗っ取ってる、限りのある時間を利用して、わざわざネグをだそうとしてるのに!!
それを知ってかしらずか、あのおっさんはあああ!!
まあ、熱があるからって、ネグの息遣いが荒くなっているわけでもないし、肌の色も、普段が白すぎるから、むしろいつもより赤みが差して健康そうに見える。
うん、今日も可愛い。
さわってみるとかみは、熱い。さわれないほど、じゃない。
じんわり、じっとり、僅かに、熱い。
「ん・・・読める・・・?」
でもなんていうんだっけ・・・これ、この字。カクカクしてて・・・スキじゃない。
それになんか、バカに・・・けなす・・・違う。えらそう・・・・な、感じがする。
あ・・ちょっと読める・・・
『まズはじめに、いっておキたいコとがアるの。聞いテ?
あナたハ「ネグ」。そシてワタシは「リジェ」。これガ、わたシたちのなマえ。
ケれど、リジェというノは、ワタシがかりテいるかラだのナまえ。本名ではナいわ。
私はそウネえ、ノノカ、デいイわ。
持チ主のリジェガ、あまリにも、かワいそうニなるクらい、貴女のコとを気にかけているから、体を借りてイるワタシが、仕方なク、手を貸してやっているだけよ
・・マア、半分噓。もう半分は構いたカったダけ。』
何でカタカナ混じりかって?
仕方ないでしょ。
オカミサマの影響で、上手く届いていないのよ。
『何故かッて?
貴女はワタシ好ミの、かぁイくてフわふワした従順な子だカら。
マあ、最もそンな好みの女の子が何故都合よくいルかといウと、ワタシが監禁したかラだけドね。
でモ、ソのおカげでこの体の持ち主であるリジェが拷問を受け続けテる。何度も死に掛ケ――最も、死ヌことナんてなイんダけど――デもずっト貴女ヲ助ケる方法を模索シ続けテいる。
それッてとテもいけナいこトなのよ?ワかるかシら?
そうスることで、リジェを管理しテいる「オカミサマ」が、リジェを拷問シて、ソのリジェの拷問の傷は私にも影響が出て、痛いのヨ。
セっかクこの体を乗っ取って一日オきに遊んでたのにつまラないったらアりゃしなイわ。
だカらアナタにハそこからとっとトどいてもらッて、ワタシは元の生活を手にスるわ。
手順はこウよ。
条件Ⅰ。その世界で他の生き物と接触すること。
条件Ⅱ。その生き物に乗り移ること。
条件Ⅲ。その生き物に乗り移った状態で、家から脱出すること。
これだけよ。
ま、そもそも一つ目が出来ない状態だったんだから、出れるわけないって話よ。これについてはもう、手はうってあるわ。
条件Ⅱはいつもみたいに、時間切れになって意識が朦朧としている時に、乗り移りたい、と願えばいいわ。
Ⅲの説明は・・・いらないわよね。
以上。また連絡するわ。』
どうやら、最後は持ち直してたようね。良かった良かった。
――でも、手紙を読んだネグが動かない。
足元には蛙が一匹。
赤黒い色をしたソレを見て、ネグは顔を落とし、しゃがみこんだ。
そして無言で手を伸ばし、蛙を鷲掴みにすると、口元へとゆっくりと運んでいく。
「・・・まだ早かったか」
ワタシが諦めの溜息をついた次の瞬間、勢いよく顔を上げた。ネグとは思えない速さだ。
「・・・・・・気づいた」
ワタシの声じゃない。ネグだ。
彼女の目線は完全にこちらを見ている。水晶玉越しに彼女と目が合う。
「そ・・・っか。思い、出した」
ふらふらと立ち上がり、手の中で握り締めている蛙に気づき、そっと床に手をそえて下ろすと、彼女はカメラ目線ならぬ水晶目線で歩き出した。
「帰ろう」
先ほどまでのおぼつかない足取りとは打って変わって、確かに一歩一歩踏みしめるように彼女は玄関の扉の前に立った。
そしてグッと力を入れようと体制をとると、くるっとふり返った。
「貴女も行こう?リジェ。一緒に」
こちらを見るネグの目は、見たこともないほど、はっきりと見開かれていた。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?