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随筆

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随筆かエッセーかどっちでも良いだろ! という気持ちで、筆に任せて。
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記事一覧

【随筆】港のクラゲ

【随筆】港のクラゲ

 ある日、小雨の降る神戸。約束まで微妙な空き時間ができて港へ出た。
 海は生物を抱きながら姿を常に変えていく他界だ。その他界と真向かう時間というのは、本当の無を感じられて良い。だから少しでも時間があれば、近景も遠景も問わずに海を眺めるのが習慣になっている。それがいつからのものであったか、産まれた直後からだったような気もするし、火の玉みたいな詩人の眼窩にチラリと海の色が嵌め込まれていたのを間近に見た

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【随筆】寄り道日誌#1「寄り道だけが人生だ」

【随筆】寄り道日誌#1「寄り道だけが人生だ」

 今回より寄り道日誌と題して随筆を書いていきます。その時々で文体が変わるかもしれませんが、基本はこのように語り口調と申しますか、独白をそのまま載せたような形になると思います。また、一つのテーマでエピソードが沢山、などということもあるかもしれません。出来の悪い文章もゆっくりと矯正していきたいですね。

 さて、第一回はやはりこの『寄り道日誌』の由来からだらだら書いていこうと思います。
 最近おこなっ

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【随筆】真に未経験とは何か

【随筆】真に未経験とは何か

 夢の中では未経験の現象に遭遇することはないとされている。特によく言われるのは死だ。我々は死んだことがないので、夢の中では死なず、死にかけると絶命の寸前で目を覚ます。
 夢と無意識には密接な関係があるとされる。無意識とは即ち、常に感覚、記憶を溜め込む領域なので、夢は記憶の再現・再構築であり、記憶にないことが再現されようもないので、夢には未経験の現象が起こらないというわけだ。但し、「常に」感覚、記憶

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【随筆】幻視直前

【随筆】幻視直前

 スカスカの部屋の隅にポツンと布団を敷き、電気を消して音楽を聴きながら寝る。毎日繰り返している就寝の手順だ。枕元には最大二冊まで本を置いて良いという自分ルールもある。大抵、遅くまで眠れないのだが寝る前の行動をルーチン化しておくことで余計なことを考えないようにしようとしている。
 不眠に悩む人間の多くが横になって目を閉じてから、今日のことや明日のことを考えてしまい不安が増幅して眠れなくなるそうだ。私

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【随筆】グータッチ

【随筆】グータッチ

 七月七日、小暑。参議院選挙の終盤。さんきたアモーレ広場にて。
 夕方、兵庫選挙区で立候補していた末松信介文部科学大臣の応援に安倍晋三元内閣総理大臣が来神した。広場に犇く群衆は前回の参院選と違って、いい雰囲気だった。前回は選挙妨害じみた叫び声をあげる者が現れたりして、なんだか落ち着きがなかった。今回は下校中の高校生も多く、あの元総理を一目見ようと皆が立ち止まり、今か今かと待っていた。
 安倍元総理

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帛門臣昂はネット詩人ではない

帛門臣昂はネット詩人ではない

 昨年末ごろになるか。あるDMが送られてきた。文面をそのまま公開することは控えるが、ここに抜粋したい。

 これは相互フォローでもなければ、私をフォローすらしていない方から届いた同人誌参加のお誘いだ。先ずもって、その参加費の高さから(相場からすれば妥当かもしれないが私の財政状況では痛い)お断りしようと思いつつ読み進めていた。しかし、最後の最後にとんでもない一行が書かれていて、もう金とか関係なく、こ

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【随筆】恋の変質

【随筆】恋の変質

 小学校の六年間で五人の子に恋した。一人目は一年生。二人目は二年生。三人目は三年生。四人目は飛んで六年生。クラス替えのたびに私は恋に落ちた。
 二人目に恋した時、一人目のことを忘れてはいなかった。それは次もまた次も続いて、結局、片思いの四股状態になった。この四人に優劣は無かった。等しく恋心を抱いていた。その状態が心底嫌だった。誰か一人に本気で恋する、ということが美徳だとなんとなく思っていたからだ。

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【随筆】Tableau Triste

【随筆】Tableau Triste

 さて、中原中也について語るには、私が詩を書き、詩と出会うまでのことを書かねばならないのだが、今回は割愛しようと思う。なによりそれ抜きにしても、中也について語らねばならないことは多すぎる。
 詩、というものを小学校で幾篇か、或はその数行を読んだことがあった。谷川俊太郎、工藤直子などはもちろん、私のぼんやりとした記憶では北村太郎、辻征夫の詩の一部分も読んだことがあるはずだ。当時、キタムラともツジとも

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【随筆】美神

【随筆】美神

 三島由紀夫、という名を私は小学校低学年の時分から知っていた。きっとテレビか何かで特集が組まれていたのを観て知ったのだろう。但し、当時の私が知っていることといえば、名前、彼に対する漠然とした評価、そして彼の最期についてだけだった。たったこれだけしか知らないにもかかわらず、私は三島由紀夫という作家を非常に恐れていた節がある。
 割腹自殺という耳にしただけでも腹がジュクジュクとしてきそうな最期に恐怖を

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