舞台『ハリーポッターと呪いの子』
田舎町から長時間の新幹線に揺られ、魔法を観に行った。今回は原作ファンの祖母も連れての観劇。薄い生地の黒い、秋らしい羽織を着た祖母はさながら魔法界の雰囲気。背中が曲がった前傾姿勢が魔女そのものだった。
ハリーポッターのキャストは主要な役で3人の日替わり。今回のハリーは向井理だった。以前観た向井理は、劇団新幹線の時代物。長い手足が殺陣にあまり活かされておらず、少し物足りない気持ちがしていた。ハリーにしてはスタイル抜群すぎるが、聞き取りやすいセリフ。不器用な父親の言い方や、会話の間が伝わってきた。最後に息子とぎこちないハグをする時は、映画のような作り込まれた場面に観えた。
自然な光と影
舞台の外枠はずっと同じで、柱や階段、本棚が動き回る。今回の舞台で光と影に何度も見惚れてしまった。夕方か朝の、傾いた柔らかい日差しが駅舎に差し込んだかと思えば、ホグワーツの長い柱の影を落とす。建物の影がここまで舞台をリアルにするのかと驚いた。ホグワーツがそこにあった。
魔法界の演出
1番楽しかったのはディメンターの登場シーン。上からふわふわと揺れながら不気味に魂を吸い取る。舞台上のディメンターに注目していたら、私の座っていた2階席前方に突然1体のディメンターが現れた。落下防止の柵ギリギリまで近づくそれに釘付けである。あまりにもリアルで、映像で出しているのかと思ったがちゃんとそこに居た。顔が客席をゆっくりと見渡した時はビクッとしてしまう。
他にも、映像ではCGで作られていた守護霊が青い炎で作られていたり。ケンタウロスが影を使っていい感じに足を表現したり(語彙力)。舞台ならではのアナログな表現方法も楽しめた。終始「これはそうくるかー」みたいな反応をしながら、次の魔法を待つ自分がいた。魔法に見せるための役者さんたちの動きも鮮やかで、気づいた時には魔法を使っている。すごい。
魔法使いたち
映画の印象が強すぎて、キャストが日本人なことに自分は慣れるのかとか考えていたが、余計な心配だった。ハリーの子供達が自分について考えたり、父親との関係に悩む話だが、子供たちがとても良かった。原作で頭の中では動いていたが、実際役者さんが演じると納得。ハリーの息子アルバスは、うじうじした陰気な感じと一直線な行動力。まさにハリーとジニーの子供たる様子。個人的には大きなリアクションにロンを感じてしまった(笑)
ドラコの息子スコーピウスは、優しくて常識人なところもあるベースが不思議ちゃん。臆病だけど、にじみ出る心根の優しさにドラコを重ねる。彼は場面場面でアルバスに「僕の幸せは君だ」的な大きな愛を伝える。自信なさげなところが可愛い。無鉄砲なアルバスに放つ正直な一言と、明るい性格が幾度も観客を笑わせた。
スネイプ先生やアンブリッジ、嘆きのマートル、セドリック、ダンブルドア、ヴォルデモートと次々出てくるお馴染みのキャラクターたち。声色が聴き馴染みのある声ばかりで、役者さんが意識していたかはわからないが感動してしまった。
ひとつのアトラクションを体験したようなエンタメ性と、魔法界への没入感。キャラクター同士の会話も多く、舞台らしくない自然でテンポのいいセリフが続いていた。リアルで濃厚なファンタジーを目の前で観ることが出来る、唯一の場所なのかもしれない。
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