T Kobayashi

●陶磁器専門の金継ぎ修理店「ほん陶」店主。 ●金継ぎを始めた方むけに金継ぎに関する基礎…

T Kobayashi

●陶磁器専門の金継ぎ修理店「ほん陶」店主。 ●金継ぎを始めた方むけに金継ぎに関する基礎知識を書いていこうと思います。 ●記事は1回2000字前後で読んで疲れない程度の長さになるようにしています。

最近の記事

案外 書かれない金継ぎの話 Spinoff 8 筆の持ち方について

金継ぎで直す器は高さのある立体物で、紙に文字を書いたり絵を描く時と違い作業の多くが曲面です。飯碗や丼のような比較的ゆるやかな曲面に線を引く作業はそうでもありませんが、湯飲みやマグカップのような筒状の内側になると、綺麗に線を引く難易度はかなり高くなります。実際、カップの内側は細い線を上手く引けないという話はよく聞きます。 この問題には、いろいろな解決アプローチがありますが、その中で意外に見落とされがちな筆の持ち方の工夫について解説しようと思います。 筆運びの基本漆で線を引く時

    • 案外 書かれない金継ぎの話 Spinoff 7 乾酪漆~カゼインを利用した接着剤

      漆芸の伝統技法には、漆に卵白、牛乳、豆腐などを加え装飾用に調整した「絞漆」というものがあります。津軽塗の代表的な技法「唐塗」には絞漆が使われており、目にした事がある方もいらっしゃるでしょう。これはタンパク質を添加して粘度を高めた漆を使った表現です。 私は、牛乳から作る生分解プラスチックやカゼインテンペラについて調べていて、カゼインのデメリットは漆の添加で調整出来るのではないかというアプローチから絞漆を知りました。 絞漆を調べていたところ「漆を主成分とする接着剤」という特許が

      • 案外 書かれない金継ぎの話 Spinoff 6 補強修理-布着せ-

        本編の第2回「金継ぎが不得意なこと-接着の基礎-」で、接着だけでは実用強度が十分に得られない時は補強の細工が必要になると書きましたが、細工の方法については説明していませんでした。先日、私がよく行く定食屋さんでお客さんが落として割ってしまったレンゲ(陶器スプーン)を店主に頼んで譲って頂いたので、今回は、そのレンゲを使った補強修理について解説したいと思います。 破損状態の確認と成形落とした時に小さい破片は紛失してしまったようで、破損個所を合わせても殆ど合致しません。レンゲの柄は

        • 案外 書かれない金継ぎの話 Spinoff 5 合成樹脂金継ぎの基礎知識(後編)

          市販の接着剤やパテは、説明書を読まず何となくの経験則で扱っても、それなりの結果を得る事が出来るようになっています。しかし日常的に動かしたり洗ったりといった負荷が掛かる実用品の修理に用いる際には、説明書の内容を厳守しないとメーカーが明示している強度や安全性は担保されません。特に、修理の要になる二液性のエポキシ樹脂は一様に橋架けした網目構造を形成している必要があり、説明書にはそのための細かい注意書きが記載されています。 後編では合成樹脂の接着剤やパテの注意書きを参照し、それが何を

        案外 書かれない金継ぎの話 Spinoff 8 筆の持ち方について

          案外 書かれない金継ぎの話 Spinoff 4 合成樹脂金継ぎの基礎知識(前編)

          2020年辺りから地球環境ビジネスやコロナ禍と結びつけて、合成樹脂・塗料を使用した即席な金継ぎが広まっているようです。 こうした金継ぎは恐らく私が知る限り、1979年から工芸月刊誌「目の眼」で連載されたものを書籍化した1999年出版の「やきもの修理法 里文出版」が元ネタで、”小さな破片から繋いでいく”や”エポキシ樹脂を使う”、"新うるしは安全"という話もこの本の記述から伝聞されているものではないかと思います。 (元ネタの情報認識が古いとしても)本を読んだ人が各自の判断で自分

          案外 書かれない金継ぎの話 Spinoff 4 合成樹脂金継ぎの基礎知識(前編)

          案外 書かれない金継ぎの話 Spinoff 3 ロックウール刻苧

          本編にも書きましたが、金継ぎは木胎に最適化された材料や技法を基礎にしており、陶磁器に最適かどうかは意外と思案されてきていません。理由は、金継ぎが木胎漆工の職人により行われてきた事、そもそも金継ぎの修理数が少なく、茶器がメインのため使用頻度も高くなかったからでしょう。しかし、現代の陶磁器の特性や使い方を考えると、もう少し陶磁器への最適化について検討や選択肢があっても良いのではないかと私は思っています。 刻苧綿の代替日常器の修理では耐久性が重要ポイントになります。それには漆を除

          案外 書かれない金継ぎの話 Spinoff 3 ロックウール刻苧

          案外 書かれない金継ぎの話 spinoff 2 焼継ぎという修理

          スピンオフ第2回は、焼継ぎについて。焼継ぎというのは、ざっくり説明すると壊れた器をガラスで接着する技術(または直した状態)です。ガラスで接着するのでガラス継ぎと言われることもあります。金継ぎで使う漆と違い分子レベルで結合するので、原理的に硬度も耐水・耐熱・耐薬品性も金継ぎの比ではありませんし、修理時間も恐らく焼成~冷却まで半日もあれば終了します。 しかし、現在では全く行われないだけでなく、ノウハウすら正確には伝わっていないロストテクノロジーになっています。ネットや書籍にも記さ

          案外 書かれない金継ぎの話 spinoff 2 焼継ぎという修理

          案外 書かれない金継ぎの話 spinoff 1 私にとっての金継ぎ

          私の周りを見る限り特に金継ぎが流行っているとは思いませんが、どうやらSDGsやサスティナブルの流行りに乗ってメディアが金継ぎを流行らせたいという傾向はあるようです。これまでも器特集のついでに金継ぎが紹介される事はありましたが、昨今は金継ぎだけが独立したトピックになる事が多くなったように思います。 気に入ったものを少しでも長く手元に置いて使いたいという気持ちから、金継ぎが認知されていく事は喜ばしいと思いますが、若干、金継ぎそのものが神格化されてきた感があるのは、個人的に残念で

          案外 書かれない金継ぎの話 spinoff 1 私にとっての金継ぎ

          案外 書かれない金継ぎの話(31)破損の修理4~下地作り・金蒔き~

          基本形状が出来上がったら、塗りの作業と金蒔きをやって完成になります。 長い工程でしたが、今回で一応最終回です。 錆固め錆を水研ぎしたので、念のため2日ほど乾かしてから錆固めを行います。接着用錆を使いましたので修理箇所すべてが錆固めの対象になります。 素黒目漆を揮発性油で薄め、筆で塗ります。細筆と丸筆を使用しました。筆については第17回を参照。 下地塗りと漆の充填錆固めの漆が乾いたら下地塗りの工程になりますが、この時、乾いた漆の状態を観察し、陥没箇所があるかを確認します。接

          案外 書かれない金継ぎの話(31)破損の修理4~下地作り・金蒔き~

          案外 書かれない金継ぎの話(30)破損の修理3~刻苧成形・錆付け~

          3週間養生し次の作業に支障がない強度になったので、欠けや隙間を埋める作業に入ります。作業手順は第21回・第22回と同じで、刻苧で大きな欠けを埋めてから、不足分や細かい欠け、隙間を錆で埋めて元の器の形に近付けます。 刻苧の計量と練り幅4㎝×高さ1㎝の大きめの欠けの成形をするため刻苧を作ります。配合は第21回で紹介した比率で、内訳は 粉体10(砥の粉7 木節粘土3)水5 素黒目漆5 刻苧綿0.5(重量比) になります。粉体は砥の粉7、愛知県産木節粘土3にしました。愛知県産木節粘

          案外 書かれない金継ぎの話(30)破損の修理3~刻苧成形・錆付け~

          案外 書かれない金継ぎの話(29)破損の修理2~接着~

          接着順が決まったので接着作業に入ります。糊漆や麦漆の接着手順はハウツー本やサイトでも紹介されていますので、今回は第27回で紹介した接着用錆を使用しますが、糊漆・麦漆(作り方は、第25回‗糊漆、第26回‗麦漆を参照)も接着の手順や注意点は同じです。 接着用錆の計量接着用錆の配合は『粘土10 水5 素黒目漆5(重量比)』になります。 第27回で砥の粉と混ぜる事も出来ると書いたので『木節粘土8 砥の粉2』でやってみたいと思います。 素黒目漆は0.01g多くなってしまいましたが誤差

          案外 書かれない金継ぎの話(29)破損の修理2~接着~

          案外 書かれない金継ぎの話(28)破損の修理1~固定テープ・接着順の決定~

          接着用漆の解説が終わりましたので、破損修理の実践編に入ります。破損の接着は破片を付ければ終わりではなく、ヒビや欠けの修理技術も併せて必要になってきますので、技術の集大成と言っても良いでしょう。今回は、固定テープの説明、接着順の確認についてです。実践は全4回を予定しています。 固定テープ破損の修理では、接着後に破片がズレたり取れたりしないよう固定が必要になります。昔は縄などを巻いて固定したようですが巻き方や力加減など経験が要ります。今は粘着テープで簡単に固定出来ますので、専ら

          案外 書かれない金継ぎの話(28)破損の修理1~固定テープ・接着順の決定~

          案外 書かれない金継ぎの話(27) 接着用錆~粘土を利用した接着剤~

          接着用漆紹介の最後は、陶磁器の破損修理専用の接着剤として私が考えている接着用錆を紹介したいと思います。漆単味の純粋構造が第一の接着剤、有機性の糊と混ぜたものが第二の接着剤だとしたら、接着用錆は第三の接着剤になるのではないかと考えています。 接着用錆とは接着用錆は、糊の代わりにドベ(粘土に水を加えて練った泥)を混ぜた接着剤です。第20回で錆や刻苧に粘土を用いる話を書きましたが、要するに粘土比率の多い錆が接着用錆になります。 糊漆や麦漆はデンプンやグルテンが含まれるため、使用頻

          案外 書かれない金継ぎの話(27) 接着用錆~粘土を利用した接着剤~

          案外 書かれない金継ぎの話(26) 麦漆〜グルテンを利用した接着剤〜

          麦漆は、穀物に含まれるタンパク質から生成したグルテンを漆に混ぜた接着剤です。 グルテン生成には穀物の中でも生産量の多い小麦が使われます。小麦粉から作った糊は、盤石糊と呼ばれます。 小麦粉の種類小麦粉には、タンパク質の含有量の違いで薄力粉、中力粉、強力粉、更にグルテン成分だけを抽出したグルテン粉がありますが、金継ぎでよく使われるのは薄力粉のようです。おそらく普段の調理の使用頻度から入手しやすいためと思いますが、どの粉でも糊を作る事が出来ます。(写真:左 薄力粉 ・右 グルテン

          案外 書かれない金継ぎの話(26) 麦漆〜グルテンを利用した接着剤〜

          案外 書かれない金継ぎの話(25)糊漆〜デンプンを利用した接着剤〜

          糊漆は、漆にデンプン糊を混ぜた接着剤です。日本では稲作が発達したため米から作るデンプン糊が広く使われてきました。金継ぎでよく登場するのは、続飯と姫糊です。 続飯と姫糊の違い現在はどちらも炊いた粳米を加工して作りますが、元は、蒸した米を練ったものが続飯。煮て作った粥を練ったものが姫糊です。調理法(加工法)が違うわけですが、成分は同じ米デンプンです。 今回は続飯と姫糊をまとめてデンプン糊と表記して話を進めます。 米デンプンが糊になる仕組み粳米に含まれる生デンプンは常温時、硬く

          案外 書かれない金継ぎの話(25)糊漆〜デンプンを利用した接着剤〜

          案外 書かれない金継ぎの話(24)漆に糊を入れる理由

          欠けの修理編が終わりましたので、最終編の破損の修理に入ります。 破損の修理では、接着の材料と手順がポイントになります。接着が上手く出来れば、後はヒビや欠けの修理と同じですから、極端に言えば接着の精度が破損の修理の良し悪しを決めると言っても良いでしょう。 まずは接着作業の要となる ”接着用の漆” について少し考察しておきたいと思います。 漆だけで接着剤になる金継ぎの接着では糊漆や麦漆(稀に膠漆)が使われます。塗料である漆は糊を混ぜないと接着剤にならないと思っている方が多いので

          案外 書かれない金継ぎの話(24)漆に糊を入れる理由