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案外 書かれない金継ぎの話(28)破損の修理1~固定テープ・接着順の決定~

接着用漆の解説が終わりましたので、破損修理の実践編に入ります。破損の接着は破片を付ければ終わりではなく、ヒビや欠けの修理技術も併せて必要になってきますので、技術の集大成と言っても良いでしょう。今回は、固定テープの説明、接着順の確認についてです。実践は全4回を予定しています。

固定テープ

破損の修理では、接着後に破片がズレたり取れたりしないよう固定が必要になります。昔は縄などを巻いて固定したようですが巻き方や力加減など経験が要ります。今は粘着テープで簡単に固定出来ますので、専らそれを利用します。
テープを選ぶ際のポイントは、糊残りのりのこり(テープに使用されている粘着剤が器に残ってしまう状態)しづらいものを選ぶ事です。セロハンテープのように剥がす事を想定していないものを使ってしまうと、糊残りした箇所に削りカスが付いてしまったり、金蒔きでは金粉が付着して無駄にしてしまいます。綺麗に剥がせたように見えても糊は残りやすいので、出来るだけ『糊残りなし』と表記されているテープ(実際は微量に残る)で固定するのをお勧めします。

お薦めテープは、ドラフティングテープマスキングテープです。
ドラフティングテープは紙などを仮止めする時に使う低粘着テープです。紙へのダメージを抑えた低粘着剤が使われているので、ほとんど糊が残りませんし、基材(支持体)の上質クレープ紙が厚めでしっかりしているので破片の固定には最適です。無釉(ガラスコーティングしていない)陶器のようなザラついた面には付きにくいことと、入手しにくく値段も高めなのがネックになります。
マスキングテープは、塗装面を汚さないよう保護するためのテープです。塗装が剥げないよう低粘度の粘着剤を使用しており、軽量物の仮止めとしても使われます。基材には和紙が多く使われており薄く丈夫です。幅や用途別にいくつかの種類があります。陶磁器の場合はガラス用がお薦めですが取り扱いが少なく値段も高めです。購入しやすいのは建築塗装用です。マスキングテープは経年や熱で粘着剤が劣化してベタベタしてくるので、長期保管したものを使ったり、貼りっぱなしにはしないようにして下さい。

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左から ドラフティングテープ、マスキングテープガラス用(青)、
 建築塗装用(白)、自動車塗装用(黄)

器の確認

破損修理のサンプルは自作の小鉢(直径11㎝×高さ5㎝)で、益子の土で作った施釉陶器です。小破片2つ、大破片2つの計4片になり破片紛失で大きな欠け(4㎝×1㎝)が1箇所、微細な欠けも合わせ目に複数個所に見られます。
修理はまず破片を接着し、その後、欠けの成形を行います。

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修理サンプル

接着する順番を決める

破損の接着は、作業前に必ず接着順を決めます。接着順を間違えると接着誤差が必要以上に大きくなったり、破片が合わずに作業が頓挫してしまうので、順番の見極めはとても大切です。

接着順は破片を観察することで見えてきます。
サンプルの小破片を合わせると段がある事が分かったので、ここから器の破損がどのように起こったかの時系列を推測します。

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破片のズレ箇所に注目

破片が大小合わせて4つある場合、破損ケースは2種類考えられます。
ケースAは、器の周辺の一箇所が衝撃を受けて2等分(acとbd)し、更にそれぞれの破片に衝撃(または圧力)が加わり分割して4片になったと考えられます。
ケースBの場合は、器の中央付近に衝撃が加わり小破片(ab)と大破片(cd)になり、更にそれぞれの破片に衝撃が広がって4片になったと考えられます。ケースBの場合、器の内外で破損の見た目がかなり変わることが多いのが特徴です。

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破損ケースAとB

このように、破片形状から分割の時系列を推測したら、接着は逆再生動画のように、破損の時系列を逆にたどる順番で行えば、齟齬そごを生じず接着出来ます。
今回のサンプルは、破損ケース<A>になるので、接着はacとbdの2片にしてから、その後に器の形状にするという接着手順になります。

この考え方は破片数が増えるほど大切になります。複雑な破損は小さな破片から接着すれば良いと説明している金継ぎ記事をたまに見ますが、必ずしも小さな物からにはならない事は知っておいたほうが良いと思います。

接着順が決まりましたので、次回は接着作業に入ります。

(つづく) - ご質問は気軽にコメント欄へ -

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