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案外 書かれない金継ぎの話(31)破損の修理4~下地作り・金蒔き~

基本形状が出来上がったら、塗りの作業と金蒔きをやって完成になります。
長い工程でしたが、今回で一応最終回です。

錆固めさびがため

錆を水研ぎしたので、念のため2日ほど乾かしてから錆固めを行います。接着用錆を使いましたので修理箇所すべてが錆固めの対象になります。
素黒目漆を揮発性油で薄め、筆で塗ります。細筆と丸筆ラウンドを使用しました。筆については第17回を参照。

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錆固め

下地塗りと漆の充填

錆固めの漆が乾いたら下地塗りの工程になりますが、この時、乾いた漆の状態を観察し、陥没箇所があるかを確認します。接着用錆に限らず糊漆や麦漆を使用した時でも漆の陥没が発生する可能性はあります。理由は、漆や補助剤が個体になるとき収縮により目減りするからです。

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漆の陥没

接着用漆の時間による変化を見るため、第25~27回で作った糊漆麦漆接着用錆ガラス板スライドガラスで挟み比較してみました。写真は上から、接着直後、1か月後、2ヵ月後です。

接着用漆の変化

糊漆の変化が大きいのは、恐らくガラス板スライドガラスの圧着が甘かった事が原因と思われます。麦漆と接着用錆も、糊漆ほどではありませんが収縮による目減りが確認できます。接着用漆の使い方で違いは出ますが、目減りは時間の経過で必ず進んでいきます。
ガラスは平滑で食付かないので陶磁器の接着面に比べると縮みは大きいと思いますが、陶磁器でも縮みは起こり目減りします。そのため塗った漆が陥没するわけです。

陥没は錆で埋める方法もありますが、目減り量が分からない事、錆は押し込める深さに限界がある事の2点から、手間は掛かりますが私は第11回のヒビ修理と同様の方法で漆だけの充填を行うことにしています。
サンプルの陥没は2回塗りで埋める事が出来ましたが、圧着が甘かった時などは数回以上の充填塗りを行う時もあります。
陥没以外の下地塗りは1回(錆固めと合わせると2層)です。

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漆による充填

下地調整

陥没が埋まったら、1200番の耐水ペーパーの水研ぎで下地の高さを合わせ、機械的結合と金の光沢調整のため2000番の耐水ペーパーを下地全体に掛けます(金を若干マットに仕上げたい時は1200番で止めても大丈夫です)。

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下地研ぎ出し

何度か書きましたが漆はガラスと相性が良くありません。そのためゆうに付いた漆は普段使いしていると取れてくるので、極力、修理箇所以外は漆が付かないよう塗っていますが、複数回の下地塗りをしていると徐々に漆が広がってしまう事もありますので、金蒔きをする前にカッターで余分な箇所は削って線を調整しておきます。
絶対に必要な手順ではありませんが、施釉陶磁器ではこうした調整も行えます。無釉の場合は漆が沈降してしまうので出来ません。

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下地をカッターで調整

赤漆塗り

下地の調整が終わったので金蒔き作業を行います。赤漆の作り方や塗り方などは第14回第23回で説明していますので合わせてご参照ください。

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赤漆塗り終わり

今回は、手持ちの作業が可能で、塗る箇所も多くないので内側と外側を一緒に金蒔きしていますが、複雑な割れ方であったり、大きくて取り回しが難しい器などは状況に応じて内側と外側を分けたり、何か所かパーツに分けて複数回の金蒔きをする事もあります。
金継ぎを始めたばかりで漆の扱いに慣れていないと、塗りに時間が掛かったり、全体を同じ半乾き状態にするのが難しかったりするので、何か所かパーツに分けて金蒔きを行う方が良いかもしれません。

金蒔き

赤漆が半乾きになったら金を蒔きます。
今回は、あしらい毛棒で金粉を落とし、真綿で広げています。

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金蒔き中

全体に金を蒔いたら、更に真綿で蒔き締めて金の艶を調整します。

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金の蒔き終わり

1号丸粉を使用したので蒔き締めて終了になります。1〜2日ほど漆ムロに入れて赤漆を乾かします。光沢が必要な方は1号ではなく3号丸粉以上を使って蒔き締めてから乾かし、更に磨きをかけて(第16回)下さい。

終了

漆ムロに1日入れて赤漆が乾いたら、余分な金粉を拭いて作業終了です。
ここから更に1か月以上養生させたら実用可能になります。接着作業から約2ヵ月で金蒔きまで終わりました。第3回で説明したように科学的な漆の反応終了までは半年程度(接着箇所は嫌気なのでもっと長いかもしれません)ですが、経験的には接着作業から3か月以上表層の漆は1か月以上の養生で普段使いは出来るようです(勿論、養生は長い方が漆の匂いが弱くなり、漆も硬くなりますから長期養生をするに越したことはありません)。それより短いと再破損したり、水を飲むと喉に違和感を感じたりする事がありました。

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金継ぎ終了

第4回で記載したように、破損の修理は複数の壊れ方が絡んできていろいろな技術を総動員しますので手間も時間もかかりますが、工芸的作業は手間と時間をかけるほど必ず向上すると思って器に手をかけてあげて下さい。

以上で、金継ぎの基本解説は終了です。
世の中には形や素材や焼成温度の違いなど様々な器があり、更にどんな状況で使われてきたのかなど、いろいろな要因が加わり、壊れ方も千差万別です。長く修理の仕事をしていますが、どのように直したら良いかを考えなければいけない状況は今でもあります。
私は一介の修理屋なので、金継ぎの価値や芸術性はよく分かりませんが、器を作った人や使う人に「良いね」と感じて頂ける金継ぎが出来たらなぁと思いながら、あ~だこ~だと試行錯誤しながらやっています。
そんな諸々の修理よもや話は、またの機会に書きたいと思います。

お付き合い頂きありがとうございました。

(全31回 終わり) - ご質問は気軽にコメント欄へ -

(c) 2021 HONTOU , T Kobayashi

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