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案外 書かれない金継ぎの話(14)ヒビの修理5~赤漆と筆運び~

下地作りが終わったら金蒔き装飾になりますが、その前に金粉を接着するための赤漆の作り方と、線を引く時の筆運びの説明を書こうと思います。既に赤漆をチューブ入りで買った方は、作り方の説明は読み飛ばして頂いてかまいません。

赤い色の漆 

金粉は小さい粒の集合なので、隙間なく蒔いても極微量に下地を透過します。この時の金粉の接着に使う漆の色により、人の眼は、温かみのある金や冷たさを感じる金、明るい金や暗めの金など微妙な違いを感じとります。
金をより金色らしく見せるには赤い色が良いとされています。赤い色の漆は顔料を混ぜて作り、弁柄べんがら酸化第二鉄さんかだいにてつ)を混ぜた赤漆辰砂しんしゃ硫化水銀りゅうかすいぎん)を混ぜた朱漆の2色があります。辰砂の方が鮮やかな赤色になりますが、値段が高めで水銀が含まれていることもあり、食器の金継ぎでは弁柄が多く使われるようです。
なお、まれにレーキ顔料を使った安価な赤漆が売られている事がありますが、レーキ顔料の漆は経年で金の表面に赤が染み出てくることがありますので金蒔き前に確認をするか、出来るだけ弁柄の赤漆を使う方が良いと思います。

赤漆の作り方

赤漆は、素黒目漆と弁柄をよく混ぜ、粒が残らないようして出来上がりです。金継ぎでは金を蒔く時しか使いませんので、自分で作る方がコスパが良いと思いますから、少量を出来るだけ無駄なく作る方法を紹介したいと思います。

パレットにサランラップを乗せておきます。サランラップ二重が丈夫なので推奨します。

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磁器タイルにサランラップを乗せる

素黒目漆と弁柄を混ぜます。
弁柄が少ないと乾いた時に暗赤色になってしまうので重量比で素黒目漆5:弁柄5が良いのですが、少し硬めで塗りにくいので私は素黒目漆6:弁柄4にしています。0.01gの計量器があると便利ですが、そこまで厳密に計量しなくても大丈夫なので、体積比で等量を目安にするとよいでしょう。漆と弁柄を混ぜる時は、パレットの上で直接混ぜずクッキングシートの上で混ぜます。

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クッキングシートで素黒目漆と弁柄を混ぜる

赤漆を濾します。
漆芸では漆を濾すために吉野和紙という手漉き和紙を重ねて使いますが、手近な濾し紙だと珈琲ドリップのフィルターが使えます。いろいろな紙で試しましたが、珈琲フィルタが一番コストパフォーマンスが良いようです。あまり安いフィルタは繊維がほつれて赤漆に入ってしまうので、少し高めのものを使う方が安全です。(私はマツモトキヨシオリジナルブランドを使っています。)
先ほど混ぜた赤漆の上に乗せ、クッキングシートごと4つ折りにし、ヘラでゆっくりと押し出します。ヘラが無ければ定規でも構いません。一度押し出したら裏返し、もう一度押し出して完了です。

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赤漆濾し

直ぐに使う時は、そのまま作業に入ります。残った赤漆は密封して保管します(密封方法は記事12 を参照)。次に使う時は、サランラップを開けてそのまま使えますが、1週間以上開けてしまうと見た目に変化が無くても、微細なダマが出来ていたり粘度が変わって塗りにくくなったりしますので、少量の揮発性油を加えて濾し直してから使って下さい。漆と弁柄を追加して濾し直せば無駄なく使うことが出来ます。

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漆の保管方法

筆運びについて

筆は漆の美しさを見せるための大切な道具で、人により使い方にはいろいろなこだわりがありますので、これでなければいけないという決まりは無いと思いますが、自分がこだわっている点という事で紹介したいと思います。

私は、穂が短いと直ぐに漆が切れてしまい綺麗な長い線を引けないので、穂は長め(15~20mm)を使っています。
穂の2/3辺りまで漆を十分に含ませ、穂先をパレットの上で整えて準備完了です。

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細筆に赤漆を含ませる

線を引く時には、肩が上がっていると筋肉が硬直し手首や指先が自由に動きませんので、まず息を吐きながら肩を下げて脱力してから、ゆっくりと穂先を下地の上に乗せます。
穂の弾力を意識し、穂の弓反りの形を崩さないようにして筆を移動します。
漆が無くなってきたら、垂直に穂を浮かせます。動作は常にゆっくりです。
穂の2/3に漆を含ませたら穂先を整え、先ほど穂を浮かせた箇所の1㎜くらい前に穂先を下ろし少し重なる感じで置いてから、続けて線を引いていきます。

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筆の運び方

(つづく) - ご質問は気軽にコメント欄へ -

(c) 2021 HONTOU , T Kobayashi

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