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案外 書かれない金継ぎの話(27) 接着用錆~粘土を利用した接着剤~

接着用漆紹介の最後は、陶磁器の破損修理専用の接着剤として私が考えている接着用錆を紹介したいと思います。漆単味の純粋構造が第一の接着剤、有機性の糊と混ぜたものが第二の接着剤だとしたら、接着用錆は第三の接着剤になるのではないかと考えています。

接着用錆とは

接着用錆は、糊の代わりにドベ(粘土に水を加えて練った泥)を混ぜた接着剤です。第20回で錆や刻苧に粘土を用いる話を書きましたが、要するに粘土比率の多い錆が接着用錆になります。
糊漆や麦漆はデンプンやグルテンが含まれるため、使用頻度の高い陶磁器では熱や熱水に対しての耐久性がデンプンやタンパク質の性質に引っ張られてしまい、どうしても低下します。そこで、熱に対する耐久性に着目した接着剤として鉱物粉(無機物)を用いた錆を使うことを考えました。合成接着剤には耐熱性無機接着剤というものがありますが、それと考え方は似ています。
第24回で説明したように、補助剤の必要条件は「漆を接着面に残留させる」事と漆が固まるまで「接着を保持出来る」事の2点です。粘土の粘着性は、この2つの条件に当てはまるので、陶磁器の接着の補助剤として利用する事ができるわけです。

粘土について

粘土には、酸性火山岩が熱水により変性して出来るものと、風化(分解)して出来るものがあり、どちらも可塑性かそせい(成形すると時間が経っても形が変わらない性質)を持ちます。風化し河川に流されて堆積した粘土には強い粘りが生まれ、日本では蛙目粘土がいろめねんど木節粘土きぶしねんどがこれに当たります。
蛙目粘土と木節粘土では河川を流される距離が異なり、木節粘土の方が長距離を移動し湖水に堆積するため、蛙目粘土を一次堆積粘土、木節粘土を二次堆積粘土として区別します。木節粘土は河川を流される時にいろいろなものが混じるので、亜炭(完全に石炭化していない植物化石)や有機物を多く含み、蛙目粘土よりも黒褐色で粘りが強いという特徴があります。
糊の代わりに漆と混ぜるのは木節粘土が適していると思いますが、もちろん蛙目粘土も接着用錆に使う事は出来ます。ちなみに日本の代表的な木節粘土には岐阜県産と愛知県産があり、愛知県産の方が粘りが強いのですが腰が強すぎるため、接着用には岐阜県産の木節粘土を私は使う事にしています。しかし、この辺は好みで選んでも問題ないと思いますし、以下で記載するように砥の粉と混ぜて増粘性を調節するためには愛知県産の方が適していると思います。

接着用錆の作り方

接着用錆は、これまで紹介した錆の作り方と同じで、材料の配合比は
木節粘土10 漆5 水5(重量比)
になります。
使用する粘土の粘りやコシが強すぎる時は適宜、砥の粉で置き換える事も出来ます。あまり粘土が少ないと粘らないので、概ね
(木節粘土7 砥の粉3)  漆5 水5(重量比)
までを目安にするのが良いと思います。
※接着用錆の練り方は欠けの修理で紹介した錆とほぼ同じですが、次回の破損接着の実践編で写真付きで解説します。

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接着用錆

接着用錆の特徴と使い方

鉱物粒子が接着面の凹凸に噛んだ状態を漆で固定しているので、機械的結合が高く耐久性があります。使用材料は漆と鉱物粉だけなので、耐熱性は第24回で紹介した漆単味の接着に近いと考えて良いと思います。
陶器・磁器のどちらも使用可能ですが、接着面に凹凸のある陶器素地の方が強く噛みます。ガラス化が進み、かなり平滑な接着面の磁器の場合、接着力は漆単味と同程度になります。

接着面に塗り広げたら、直ぐに張り合わせ圧着させます。
粘りの強い粘土を使用していますが、初期粘着力は糊漆と同程度なのでテープで固定しておく必要があります。数日でテープを剥がして欠け埋めなど次の作業をする事が出来るよになります。急がない時は数日でテープを剥がしてから2週間養生させて次の作業に移る方が良いでしょう。
麦漆のようにベタベタしていないぶん作業中の器を汚しにくいというメリットがあります。
錆なので、小さな貫通孔や欠けであれば、接着のついでに埋めておく事も出来ます。

サランラップで密閉すると数日は保存可能ですが、徐々に硬くなって粘性が落ちてきますので長期保存はしない方が良いと思いますが、新しく作った錆と混ぜて欠け埋めなどに使用する事も出来ますので意外と無駄が出ません。

(つづく) - ご質問は気軽にコメント欄へ -

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