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案外 書かれない金継ぎの話(29)破損の修理2~接着~

接着順が決まったので接着作業に入ります。糊漆や麦漆の接着手順はハウツー本やサイトでも紹介されていますので、今回は第27回で紹介した接着用錆を使用しますが、糊漆・麦漆(作り方は、第25回‗糊漆第26回‗麦漆を参照)も接着の手順や注意点は同じです。

接着用錆の計量

接着用錆の配合は『粘土10 水5 素黒目漆5(重量比)』になります。
第27回で砥の粉と混ぜる事も出来ると書いたので『木節粘土8 砥の粉2』でやってみたいと思います。
素黒目漆は0.01g多くなってしまいましたが誤差の範囲だと思うので、そのまま混ぜました。ご了承下さい。木節粘土は岐阜県産を使用しています。粘土の種類や砥の粉との配合比は、粘りとコシの強さの変化に影響します。

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接着用錆の計量

接着用錆を練る

練り方は第21回の充填用錆と同じですが、粘土成分が多いほど粘りは早く出てきます。
粘土の粘りの原因は複数の要因があると考えられていますが、鉱物結晶(代表的なのは鱗片状のカオリナイト)の間に水が入り込んで生じる表面張力や分子間力は大きな要因とされています。
練り始めると粘土に水が浸透し1分前後で粘りが出ます。糊漆や麦漆のように粘りの出た物と混ぜるわけではないので、止め時を決めるのが少し難しいですが、練っている時の抵抗感や色の変化を目安に加減を決めます。練り過ぎると可塑性が強く塗りにくくなります。

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接着用錆練り

接着作業

実用を前提とした接着は、片面付けでは十分な接着強度が出ませんので、必ず接着面の両方に付けます。表面に接着用漆を置くのではなく、凹凸に入る(噛む)よう押し込みながら塗り広げる事が大切です。(写真1)
塗布が終了したら破片を合わせて圧着します。張り合わせは接着用漆が完全に充填されて気泡などが無い事が理想ですが、そこまではやるのは難しいと思います。ですが、出来るだけ隙間を作らないよう圧着しましょう。(写真2)
余分な漆が出てきますので、揮発性油を付けた綿棒で拭き取ります。(写真3)
大きなズレが無いか指先で確認しながらテープで固定します。(写真4) 特に口辺ズレの段差は、修理後に見た目だけでなく使い勝手にも影響する部分なので、テープでしっかりと固定するようにします。
※ 固定テープは写真で分かりやすいよう黄色のマスキングテープ(車塗装用)を使用しましたが、車塗装用は粘着が強めで剥がしにくいのでガラス用かメンディングテープの方が器の固定には向いていると思います。

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破損の接着1

最初に決めた接着順で破片を付け、全体の形を調整しながらテープで固定して作業終了です。
養生は漆ムロで加湿する必要はありませんので、そのまま棚に置き、埃が付かないよう新聞紙などを掛けておけば大丈夫です。
第10回で記載しましたが、冬場に室温が下がると陶磁器の温度が下がり、接着に使った漆が硬化しなくなりますので、器の温度は下がらないよう注意して下さい。

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破損の接着2

余った接着用漆は、サランラップで密閉することで多少の保管が効きます。(糊漆、麦漆も同様の方法で保管出来ます)

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接着用漆をサランラップで密閉し保管

テープ取り外し

接着箇所が芯まで固まるには1か月以上の養生が必要になりますが、外気に触れている部分は早めに固まるので、数日~1週間あれば、どの接着用漆でも固定テープ無しで自立出来るようになります。
低粘着テープは長期的に固定する用途を想定していないので、長く貼りっぱなしにするとベタついたり糊残りしやすくなる事がありますから、次の作業に入らなくても器が自立するようになったら取り外しておきます。特に無釉の陶器の場合はテープの粘着剤が沈降してしまうと落ちなくなることもあるので、出来るだけ早めに剥がすようにしましょう。

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固定テープを除去

接着作業が終わりましたので、次回は欠け埋め作業を行います。

(つづく) - ご質問は気軽にコメント欄へ -

(c) 2021 HONTOU , T Kobayashi

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