案外 書かれない金継ぎの話(30)破損の修理3~刻苧成形・錆付け~
3週間養生し次の作業に支障がない強度になったので、欠けや隙間を埋める作業に入ります。作業手順は第21回・第22回と同じで、刻苧で大きな欠けを埋めてから、不足分や細かい欠け、隙間を錆で埋めて元の器の形に近付けます。
刻苧の計量と練り
幅4㎝×高さ1㎝の大きめの欠けの成形をするため刻苧を作ります。配合は第21回で紹介した比率で、内訳は
粉体10(砥の粉7 木節粘土3)水5 素黒目漆5 刻苧綿0.5(重量比)
になります。粉体は砥の粉7、愛知県産木節粘土3にしました。愛知県産木節粘土は粘りや腰が強いので、砥の粉を多めにしています。使用粘土や目的により比率を変えますが、基本的には任意です。
粉体と水と漆をまとめて計量して7割程度練ってから、刻苧綿を加えてよく混ぜ、粘りと腰が出たら練り終わりです。
刻苧の成形
少量の刻苧をプラスチックヘラ(デルリヘラ)で素地の凹凸に押し込みながら延ばします。(写真1)
更に必要量の刻苧を追加し、綿棒で伸ばします。(写真2)
サランラップで覆い、指で器の形状に合うように成形します。乾いた時の目減り分やサランラップの皺などは錆の追加で調整するので、刻苧は器の湾曲に合わせる形で、多めに付けたりはしていません。(写真3)
納得のいく形になったらサランラップを剥がします。(写真4)
成形が終わったら、このまま棚で3週間ほど乾かします。刻苧は乾きが早いので、急ぎであればもう少し短くても大丈夫だと思います。水を加えて刻苧を練っていますので、漆ムロで加湿する必要はありません。部屋の湿度が低すぎると水分蒸発が早まってしまうので、サランラップを掛けておきます(サランラップは第21回参照)
刻苧の削り
刻苧を指で弾いてみて乾いた音がすれば、削りが出来る程度まで乾いていますので荒削りを行います。
カッターと240番の紙やすりで削ります。この後、直ぐに錆付けをするので空研ぎで行いました。水研ぎした場合は1〜2日乾燥させた方が良いと思います。
錆の計量・練り
刻苧の不足分と細かい欠けを埋めるために錆を作ります。内訳は
粉体10(砥の粉5 木節粘土5)水5 素黒目漆5
で使用原料は刻苧と同じです。刻苧に付着しやすくするため粘土の配合を多めにしています。
錆付け
刻苧の不足箇所および細かい欠けを錆で埋めます。ほとんどはプラスチックヘラ(デルリヘラ)だけで大丈夫ですが、押し込みにくい所は綿棒でグリグリと押したりします。錆は目減り分を考慮し、少し厚めに塗ってあります。(写真1と2)
裏側の畳付き(釉薬の掛かっていない部分)は、錆が付くと色が残ってしまうため必要箇所以外はマスキングテープで保護してから作業します。作業が終わったら錆が乾き始める前に取り外しておきます。(写真3)
必要箇所以外に付着した錆は、揮発性油(テレピンなど)を浸み込ませた綿棒で拭いて作業終了になります。(写真4)
ヒビ止め
作業中に長めのヒビが生じていることが分かったので、ヒビ止めも行いました。素黒目漆を乗せて1時間ほど放置し、反対側まで浸透したことを確認したら揮発性油を浸み込ませた綿棒で拭いておきます。
錆削り
3週間養生(室内養生)してから、カッター、木賊で水研ぎし、木賊で研ぎにくい箇所と大きな欠けは800番の耐水ペーパーを掛けてあります。
削りが終わったら指触で、滑らかな形状になっているか使い勝手に問題ないかを確認します。ティッシュを指に巻くと、手の脂を付けずに確認と拭き取りが出来ます。
再追加が必要な箇所は無さそうなので、錆付け作業は終了になりますが、目減りしたり錆付けが足りない箇所が見つかった時は、もう一度錆付けから行います。
器の成形が終わりましたので、次回は錆固め、下地塗りを行ってから金蒔きをします。
(つづく) - ご質問は気軽にコメント欄へ -
(c) 2021 HONTOU , T Kobayashi
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?