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初の個展"OPEN YOU"を開催しました

私は絵を描くのが苦手です。

正確に言えば、線を描くのはやや得意ですが、色鉛筆や絵の具で色を塗るのが苦手です。せっかく画用紙いっぱいに良い下書きを描いても、いつも色塗りの段階でぐちゃぐちゃになってしまうのです。小学生の頃の私にとって、美術はフラストレーションが溜まる時間でした。

でも、高1の美術で石膏の作品をつくった時と、高2の美術で針金の作品をつくった時は夢中でした。造形には、浮かんでくる着想をそのまま表現できる「自由」がありました。

思い返してみると、幼少期の私は、引っ込み思案で、家でブロックを組み立てる遊びばかりしていました。絵を描いたり、友達と走り回ったりもしていましたが、ブロック遊びがもっとも記憶に残っています。これが、私のアーティストとしての原点です。

ただし、「人に見せる」という意味で言うと、より原点らしい体験があります。高3の秋、受験勉強と文化祭準備で忙しない時期に、私はLINEスタンプを作っていました。細かな経緯は忘れましたが、「一般のクリエイターも、LINEスタンプを制作・販売できるようになる」というニュースを見て、気づいた時にはPCにかじりついて作業していました。

当時はAdobeもペンタブもよく知らなかったため、マウスでWindowsのペイントツールを操作し、40枚のイラストを仕上げました。幸運なことに、このスタンプは国内外で300個以上売れました。

販売を開始してからの2,3ヶ月は、来る日も来る日も売上状況と使用状況(どこの国でどれくらい送受信されたか)を眺めるのが、楽しくて仕方ありませんでした。

「これだけ売れてるってことは、半径10km圏内に買ってくれた人がいてもおかしくないな」などと、よく妄想しました。「台湾とかフィリピンとか、行ったこともない国で暮らす人たちが、私のスタンプを日常的に使っているなんて」と心が躍りました。

なんの才能もない素人の高校生がつくった作品は、海を越え、人々の生活の一部となったのです。

でも、その勢いで制作した2作目は、まったく売れませんでした。私は「絵が下手だから仕方ない」と納得してしまいました。それからの7年間、デザインやライティングのような、表現よりも伝わることに重きを置いた制作機会はありましたが、アートとは無縁の日々を過ごしました。

しかし、いま私は再びアートと出会いました。



上記は、個展当日に配布したドキュメントの全文です。
そして、こちらは個展当日の様子と、前日からのメイキング映像です。

以下も長いので、読みたい章を中心にご覧いただけますと幸いです。

1. アーティストになり、個展が決まるまで

芽生え - 2021年11月

私が再びアートと出会ったのは、友人である美月さんのグループ展でした。
(美月さんとの出会いは、ZaPASS経由でコーチングを受けたことです)

このグループ展は、2021年5月に熱海で行われたアート合宿を起点としており、美月さん含む、アーティストとしての活動経験がない方も展示されていました。この時、どの作品からも芯のようなものを感じると同時に、「自分もやってみたい」という気持ちが芽生え始めました。


決断・模索 - 2022年1月〜3月

それから、経緯は全然覚えていないのですが、2022年のテーマや目標を考える中で、「アートをやる」と決意しました。当時はブルーピリオドの影響もあって、絵に意識が向いていました。そのため、美大について調べたり、近所の絵画教室をいくつか回ったり、デッサンの練習をやったりしました。

しかし、どの道もしっくりこなくて、ネクストステップに踏み出せませんでした。ただその中でも、美術館やギャラリーを20ほど周ったのは、広い視野で進みたい道を考えるのに役立ちました(そして純粋に楽しかったです)。


発想の転換 - 2022年3月

春にも、友人達のグループ展がありました。いくつかの作品に圧倒されると共に、普段は接点のない人々が1ヶ所に集う様を見て、リアルの場の魅力を感じました。

また、当日居合わせた中村峻介さん(チームラボ出身のアーティスト。本展のサポート?をされていた)私のポートフォリオをご覧いただき、「デッサンとか基礎から学ぼうと思っています」とお話したところ、「もうスタイルができてるから、そんなのやらなくていいよ」みたいに言われました。

そして、現代アートのスクールに通うか、もしくはもう展示をやっちゃえばいい、と助言をいただきました。

「何事も、基礎を身につけ、経験を積んでから」と考えていた私は、この言葉で「型通りに、1段ずつステップを踏まなくてもいいんだな」と楽な気持ちになりました。


転機 - 2022年4月

4月、ZaPASSコーチ養成講座でお世話になった たけさん達と富士山で合宿をしていた時のことです。話の流れで「いつか個展をやってみたいんです」と話していたら、たけさんから「うちでやったらどうですか?」とお誘いいただきました。

たけさんが代表を務める株式会社はぐくむは、世田谷でコミュニティカフェをやっています。そこには若者のチャレンジを応援するシステムがあり、色んな方が、1日〜数日限定でバーやカフェ、対話イベントなど開いています。

私としては「秋か冬にできれば」という温度感だったので「まだ早いんじゃ・・・」と遠慮する気持ちもありましたが、直感的に「これの機会は逃しちゃいけない」と思い、二つ返事で承諾しました。

それからとんとん拍子で話は進み、店舗責任者のひでろうさんが「定休日ならいつでもいいですよ」と言うので、約2ヶ月後の7/6に決めました。

思っていたよりも、かなり自由に、かつ全然壁にぶつからず実現してしまったので、「ほんとに大丈夫?」となにかを疑いたくなるほどでした。

この経験を通して、「なにかを実現するには困難が伴う」という考えが、必ずしも正しいわけじゃないと改めて気づきました。

今の日本なら、個展を開くのも、会社を設立するのも、多少のお金と時間があればできます。大変なのは継続や目標達成であって、ただやるだけなら意外と簡単です。3年前のイラン留学でも、同じことを実感しました。


2. 開催準備

日にちが決まってから、準備の大部分を自力で行いました。はぐくむ湖畔はカフェなので、展示は初めてとのこと。展示に関するプロがいないので、あらゆるリスクに気を払いました。

実際にやった準備は、以下の通りです。


2ヶ月前

①ひでろうさんに相談しながら、概要を決める
日にち、準備を含むタイムスケジュール、金銭面、セキュリティ、備品・設備の確認、私の荷物の管理、提供する飲食まわりなど。お店に関する部分は、大いに助けていただきました。


②ヒアリング(構想時の考え方、どんなリスクがあるか、など)
美大卒の友人と、アートスクールに通っていてインスタレーションの展示経験がある友人にヒアリングしました。

ここで大きかった収穫は「素材」と「現代アート制作における視点」です。

まず「素材」について、私は世間のアーティスト達がどんな素材・備品を使って制作しているのか知らなかったので、「なにか特別なアイテムが要るのでは…」と危惧していました。しかし、結論としては「特にない」でした。アートは自由です。

ただ、唯一オススメされたコクヨの「ひっつき虫」は重宝しました。あらゆるモノとモノを接着することができ、撤収時は跡が残らないので最高です。

次に「現代アート制作における視点」に関してです。作品がある会場・土地の性質を活かす「サイトスペシフィック」や、「リレーショナル・アート」という、作品と作品を取り巻く人々との相互作用も含めて作品とみなすアートなど、現代アートの考え方を教えてもらいました。

それまで、知識に頼りすぎて、自分らしい作品を見失うのを懸念し、あまり学習していませんでしたが、やはり基礎は押さえておいた方がいいと思いました。



1ヶ月前

会場および会場付近の視察×2
会場や会場周辺の写真・動画を撮影したり、メジャーで会場内のあらゆる長さを測ったりしました。結果として、長さのデータは1つしか使いませんでしたが、「備えあれば憂いなし」です。

はぐくむ湖畔の写真
はぐくむ湖畔にあるモノの長さ


2週間前

①コンセプト決め
これが一番大事です。ギリギリまで悩みました。当初はなんらかの社会問題を暗示するなど、絞ったテーマにするのも考えました。が、初めての個展ということもあり、後々制約にならないような、でも想いが込もったものに仕上げました。

なお、最初は以下のグラフィックでしたが、意図せず「多様性」「LGBTQ+」「ドラッグや幻覚」を連想させる気がしたので、変えました。この時期は、一番葛藤していました。


②はぐくむ湖畔のHPに掲載する、アイキャッチ画像・文章の提出
コンセプトが決まってしまえば、スルスルと完成しました。



前日〜当日朝

①買い出し
必要な備品・素材をMustとBetterに分け、購入しました。もともと大量の荷物を持ち込んでいましたが、都内で買えそうなものは運搬コストを考え、現地で揃えることにしました。

コーナンに行けたらベストでしたが、どの店舗も東松原駅から1時間ほどかかるので、渋谷のTOKYU HANDSやダイソーに行きました。あと、お花屋さんで笹を買いました。

②はぐくむ湖畔で打ち合わせ
この日の夜から当日の夕方まで、私1人で会場を管理するため、店舗責任者?のひでろうさんと、10点ほどレクチャーや質疑応答を行いました。ドリンク提供や会計のやり方なども教わり、新人バイトのような気分でした。


③制作・準備
ここが最大の山場でした。夕方にお店が閉まってから当日の朝まで、普段は賑わうカフェが私1人となり、ひたすら制作・準備です。夜になると人通りも少なくなり、ゲームの世界にいるような非現実感がありました。

静かな広い空間で1人になると、孤独を感じます。時間がなかったので噛み締める余裕はありませんでしたが、もし制作期間が3日とか1週間だったら、身体よりも精神への負担が大きかったでしょう。

作品と向き合うことは、すなわち己と向き合うこと。
普段は目を背けている現実さえ、直視せざるを得ません。

なぜ芸術家は心を病んでしまうのか、その一因を垣間見た気がします。



3. 当日の様子

動画をご覧ください。



4. 個展を終えて

感想は「大変だったけど、やってよかった」です。

今回の開催は平日かつ1日だけでしたが、30名以上の方にお越しいただき、感無量でした。種々の事情で「行きたいけど行けません」というご連絡もたくさんいただき、人に恵まれてるなぁと実感しました。

一方、私にとってアートは「お客様のニーズに沿って価値提供する」ビジネス的世界観とは異なるため、「いろんな人に来てほしいけど、それをモチベーションにしちゃいけない!」という葛藤もありました。

この葛藤は最後までブレーキとなり、極限まで攻めたような作品はつくれませんでした。これは次回への課題です。しかし、舞台が穏やかなカフェというのもあって、そことの調和を大切にしたとも言えます。


そんな中でも、来場者の1人からいただいたお言葉は、とても印象に残りました。その方は夜にお越しいただき、ザッと作品を見た後、店内でタコライスを召し上がられました(写真は違うメニューですが)。

その後、また作品をご覧いただいたのですが、以下の作品が一番印象に残ったとおっしゃっていただきました。

『Socialian Menu』

この作品は、食べ物ではないものを料理に見立てたものです。

その方から、以下のようなお言葉をいただきました。

「健康的な食事をした直後に、そうじゃないものを見せられて、皮肉というか、すごく感じるものがあった。お皿もフォークもスプーンも、さっきまで自分が使っていたものと同じだし、2つの鏡が自分の食事する姿を想像させ、自分ごととしか思えない」

この方が、作者の私よりも作品に当事者意識を持っていることに驚くと同時に、食事と鑑賞を合体させた時に生じるパワフルな体験に関心が止まりませんでした。

私が作品展示を通して生み出したいのは、まさにこういう体験だと気づかされました。


最後に「やってよかったこと」をまとめておきます。皆さんもぜひ、展示をひらいてみてください。

①本気で作品をつくる機会になり、直接感想・フィードバックがもらえる
専業ではないアーティストは、締切や目標を持ちづらい分、いい機会です

②いろんな方とお会いでき、思わぬ出会いもある
作品という媒体があるおかげで、距離感が近くない人とも話しやすいです。また、3年ほど疎遠になっていた先輩がFacebookの投稿を見て来てくださったり、SNSやオンラインコミュニティの友人が集う機会になったり、通りすがりの方とお話したり、いろんな出会いがありました

③自分を大切に想ってくれている人たちの存在を実感できる
わざわざ平日に足をお運びいただくと、実感せざるを得ません

④「展示すること」への理解が深まる
「作品や会場の準備をして、展示して、見てもらう」というざっくりした理解だったのが、ここまで述べたような解像度になります


p.s. Facebookに投稿した文章です。

多くの知人からすれば、なんで急に展示をしてるのか謎だと思うのですが、自分でも不思議です。

私自身、昨年までは展示というと「美大などでしっかり腕を磨いたアーティストの土俵」という認識を持っていました。

しかしそれが、友人たちの、個性とエネルギー溢れる展示を肌で感じる中で、いい意味で崩れていきました。

既存の権威や価値基準に傾倒せず、新たな流れを生み出すのがアートの一側面だとするならば、私のような無名で実績がない人もどんどん制作・展示していくといいんじゃないかな、と思います。



5. 次の展示は1ヶ月後

最後に告知させていただきます。

ありがたいことに、「個展をやります」と告知してから、上述の美月さんから展示のお誘いをいただきました。精一杯やっていると、ちゃんと見てくれる人はいるんですね。

8/19(金)19:00〜 in 恵比寿

8/19(金)夜、東京・恵比寿にて、画家や小説家、コーヒー焙煎士などさまざまな表現者とともに、作品を展示させていただきます。

イベント名は「"好き"に生きる未来への前夜祭 ~応援とつながりの場~」

さまざまな年齢・バックグラウンドを持つ、感性豊かな参加者が50名以上いらっしゃる想定です(運営・出展者が多様なので、自然と参加者も多様になります)

【詳細】
・19:00から夜遅くまで開催
・バーなのでドリンクはもちろん、焚き火や各種展示物を見たり体験したりできます🥤

【会場】
・CityCamp
・都市とキャンプのカルチャーを融合させた、焚き火のあるバー🏕
・恵比寿駅から3分ほどです

【費用】
¥2,500(ドリンクチケット×3付)

ご興味のある方は、FacebookメッセンジャーTwitterInstagramなどでご連絡ください(不確定でも大丈夫です)

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