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美味しい炒飯食べたくない?
今日も来てくれてありがとう。
僕はいつも都内に客先を持ち
営業活動をしている。
だから1日10000歩は余裕で歩く。
でも、それをいいことに
ご飯を沢山食べちゃう。
うん、食生活をコントロールしなきゃね。
▶︎近所の中華
食事をコントロールしようと言いつつ、
ご飯の話をしてしまう。
会社の近くには、やたらと中華の店が多く、お昼の選択肢がだいぶ限られてくる。
中華、カレー、中華、中華、、
いや、中華多すぎやろ!ってツッコミ入れたくなるくらい中華料理ばかり。
3年前住んでいた家の近所に
小さな中華料理屋があった。
「金華楼」という名前だ。
お店から家は徒歩3分程度。
よく昼ごはんの時間に食べに行ってました。
3年前は新型コロナウイルスが猛威をふるい、テレワークが多かったこともあり余計だったね。
初めて行った時は、新天地に踏み入れる気分で躊躇したものの、このお店の炒飯が美味しくて通うようになった。
◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎
住宅の1階部分を中華料理屋に改装している。
お店はカウンター8席と、4人掛けのテーブルが2つ。
老夫婦で営んでいて、
カウンターの中にある厨房では
旦那さんが1人中華鍋を振い、
料理を提供していた。
12:00くらいには満席で、
近所では人気のお店だったな。
しかし、
ある日、お店に行くと
お店にお客が誰もいなかった。
昼時にしては珍しい。
「いらっしゃい」と店に通され
いつもの炒飯を注文する。
「今日はね、お客が全然来なくてね」
と水が入ったコップを僕の前に置きながら
静かに奥さんが話す。
5分くらいで炒飯が出来上がる。
少し胡椒が強めに効いた
癖になる炒飯だ。
「あなた、いつも来てくれる子だね」
僕のことを認識してくれていた。
常連になった気分で嬉しかったな。
すると、
「このお店ね、もうすぐ閉めるの」
口から米が少し溢れた。
▶︎料理人としての旅
奥さんは、僕が炒飯を食べている間
少しだけ昔話をしてくれた。
旦那さんは今年で81歳。
18歳のときに中華鍋を握り、
料理人としての道を志した。
そして、中国での修行を目標にした。
今のようにSNSが普及しているどころか、
インターネットすらなかった時代。
知り合いからの紹介を経て、
中国の料理人に手紙を出し、
修行をする許可を得た。
1960年の中国は毛沢東政権。
中国が大飢饉に見舞われる
大変な時代だった。
そんな中で海外修行
それでも自分のお店を出したい一心で
修行に励んだらしい。
そして、国内の中華店を経て
念願のお店を開店。
奥さんは、お店のアルバイトとして働いており、
旦那さんと付き合い結婚した。
時代の移り変わりと共に客も物価も変わる。お店が廃業しそうなときもあったが、中華鍋を振り続けた。
料理人としての旅だったのだろう。
▶︎中華鍋をおろす
2020年。
新型コロナウイルスが日本にやってくる。
感染に恐れ飲食店に出入りする客も減り、飲食店のほとんどが売り上げ低迷に頭を抱えていた。
金華郎も避けては通れなかった。
しかし、地元のお客が足蹴なく通ったかいもあり、今日まで続けてこられたと話してくれた。
炒飯食べながら、ドラマ見てる感覚だったよね。
もうストーリーが壮大すぎた、、
そして、ご主人も81歳になり
いよいよ中華鍋を振るにも
筋肉がもたなくなったんだよね。
料理人としての人生も終わりを迎える。
そのタイミングで、僕がこの店を訪れはじめた。
常連に比べれば、
客として貢献した時間はわずかだが、
主人の旅に、巡り会えたことに感謝したい。そして、この美味しい炒飯を本当はもっと食べたいと思っていた。
▶︎美味しい炒飯
実は僕も引っ越しを考えていた頃で、
奥さんの話を聞いた1ヶ月後。
ようやく家が決まり、
引っ越すタイミングとなった。
引っ越しの日、
この街で過ごす最後のお昼ご飯として
炒飯を食べに金華楼を訪れた。
いつも通りに席に案内され、
炒飯を注文する。
一緒に餃子も注文した。
主人は今日も中華鍋を振る
□□□□□
美味しい炒飯とは何だろうね。
僕はグリーンピースが苦手だから、
入っていない炒飯だと嬉しい。
鶏がらと胡椒が効いて、
パラパラの炒飯
ごま油の効いたネギのスープを一緒につけて、そこにレンゲが入っている。
普通の炒飯だけど、
癖になる。
意外とそういう炒飯に出会うのって難しい。だから、このお店が好きだったんだ。
最後の一粒までご飯を食べて
冷たい麦茶を、音を立てながら飲み
コップを机に置いて溜息をつく。
そう、いたって普通なんだよね。
▶︎そして
お店を辞めたら何をしたいかと違うお客さんに聞かれていて、奥さんは旅行に行きたいと話していた。
お店をやってたら
なかなか旅行行けないもんね。
お父さんは81歳だけど
まだまだ足腰共に元気だから
日本中の温泉を巡るんだって。
素敵な夢じゃないか。
その1週間後、お店は閉店。
長い旅が終わり、
新しい旅へ夫婦は出かける。
Google Mapから
静かにお店の名前が消えていた。
今日も誰が日常を旅する。
そして僕は新たな炒飯を探す。
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