見出し画像

Kayaに関するあれこれ


スコールから心の雨へ

「英語&翻訳解説」でも触れましたが、Kayaはまだウエイラーズがコーラストリオだった1971年にリー・ペリー(Lee Perry)プロデュースでキングストンで録音された曲のリメイクです。

もちろんペリーによるダブバージョンも作られています。

「スコールが来たら何もできない、だから吸うのさ」と歌った曲が後年自分の苦しい心境を映し出す鏡となり、ロンドン録音のアルバムタイトルになるとはボブ自身想像すらしてなかったでしょう。

(イメージ画像)

オリジナル録音から6年の間にボブの周りで起きたいろんな大変化を思い起こさせるナンバーです。

Kayaという言葉

「英語&翻訳解説」にも書きましたが、Kayaというのはマリファナを指すジャマイカのスラングです。

このアルバムで世界中に知られるようになりましたが、広く使われる言葉ではありません。

辞書を引いてみるとわかります。

出てきません

パトワ辞典にもよっては載ってなかったりするジャマイカでもたいして使われてない隠語です。

ちなみにkayaで辞書を引くと出てくるのは、(1)日本と朝鮮半島に分布する常緑針葉樹(榧)、(2)東南アジアで食べられているココナッツジャムです。

これが榧

現在では(2)の意味で使われることが多いようです。

ココナッツジャム

話をアルバムKayaに戻します。

ボブの笑顔

Kayaと言えば、誰もが思い出すのはこの印象的なアルバムジャケットです。

生前にボブがIsland Recordsから発表したスタジオ録音アルバム8枚の中でジャケットで彼がにっこり笑っているのはこれだけです。

ジャケットデザインを担当したのはウエイラーズがトリオからバンドに変わったのとほぼ同時に専属アートディレクターとしてファミリーに加わったネヴィル・ギャリック(Neville Garrick)です。

Neville Garrick

Garrickに関しては彼の最高傑作=アルバムSurvivalのジャケットについて書くタイミングできちんと紹介します。お楽しみに〜。

ボブの写真をジャケット用にアレンジしたのはGarrickですが、撮影したのは別人です。

ケイト・サイモン

撮影者はアメリカ人フォトグラファーのケイト・サイモン (Kate Simon)。

Kate Simon

Kateはマドンナ(Madonna)、パティ・スミス(Patti Smith)、アンディ・ウォーホール(Andy Warhol)、ローリングストーンズ(Rolling Stones)、ウイリアム・バロウズ(William Burroughs)、デヴィッド・ボウイ(David Bowie)といった有名人の写真で知られるポートレイト専門の写真家です。

NY出身の彼女は19歳の時に写真家を志してロンドンに移住、いくつかの仕事を経験した後、音楽週刊誌Disc(1975年にRecord Mirrorに吸収される)のフォトグラファーとなって著名なミュージシャンの写真を撮り始め、SoundsNew Musical Expressといった音楽雑誌に仕事場を広げ、加熱していたロンドンのパンク・ロック・シーンを写真で紹介していた人です。

Kateの仕事場

1975年7月ロンドンのライシアム・シアター(Lyceum Theatre)でおこなわれたウエイラーズのコンサートをSounds誌の記者として取材したKateは終演後知人を通じてボブに紹介され、それからボブをカメラで追いかけるようになります。

ケイトだけが知るボブ

彼女はインタビューでこう言っています。

「私たちは本当に良い関係を築けたわ。ボブとの仕事はとても勉強になった。彼は私を受け入れてくれるとわかっていたから、私はさまざまなテクニックを試し、写真家として本当に成長できたの。もう50年も前のことだけど、彼のことをはすべて覚えている。とても奇妙なことよ。ボブをよく知っていた人、彼と関わりがあった人、彼を撮影した人なら誰でも同じように感じてるはず。ボブはほかの誰とも違っていたから」

(イメージ画像)

「ボブはとても優しくて、存在感があったわ(中略)。被写体としてどうあるべきかという意識も持っていた。そして素晴らしい、本当に素晴らしい顔をしていたわ。素晴らしい顎、素晴らしい頬骨、そしてきれいな顔のラインを持っていた。悪い写真なんて撮れない顔よ。でもそんなことより、レンズを通して伝わってきたのは、ボブは人として本当に真面目でパワフルだってこと」

Kateのことを気に入ったボブはKayaのジャケット写真撮影のため、彼女をジャマイカに招いています。そしてウエイラーズのお抱えフォトグラファーとして1977年のアルバムExodusのプロモーション・ツアーに帯同させました。

Bob and Kate on a tour bus

別のインタビューではこう語っています。

「ボブはツアーバスの中で、ギターを手にひとりで座るのが好きだった。私がこの写真を気に入ってる理由は、私と直接アイコンタクトをとっているから。彼はこの写真の中に本当に存在しているように感じる。まさにボブよ。ツアーバスの中での彼は本当に内省的で、空港でも聖書を読んでいた。小さな旅行用の聖書よ。彼はよく相互依存や人間性について話していたわ」

Photo by Kate Simon

Kayaのジャケット写真についてはこんな裏話を披露しています。

「ロンドンからキングストンに飛んで、シェラトンに泊まっていたんだけど、プールでクリス・ブラックウェルと平泳ぎで競争したのよ。私は元競泳選手だったんだけど、クリスは本当に泳ぎが上手でね。なんと彼が私に勝ったのよ。プールから上がると、ボブがプールサイドのテーブルに座っていた。私は水着のままカメラを取ってボブを撮影したわ。泳ぎが自慢の私が平泳ぎで負けたことに対する彼の反応があのスマイルよ」

Photo by Kate Simon

ボブは謙虚で知的な人物だったとKateは振り返っています。

「彼は物腰が柔らかくてとても律儀だった。ツアーバスやコンサート前のサウンドチェックではいつも一番乗りだったわ。自分の音楽に対しても、周囲の人たちに対しても、とても真剣だった」

「ボブはすごく知的だった。本当の先生で、愛についてだけでなく、自分の権利のために立ち上がることについても教える人だった。それが彼の音楽がこんなにも長く生き続けてる理由だと思う。彼は普遍的な考えや感情、アイデアを歌にしていたわ」

長期に渡るツアーの間、朝から晩までボブと過ごし、シャッターチャンスをうかがいながら間近で彼を観察し続けたKateにしか語れないボブの素顔です。

以上、今回はkayaという言葉、印象的なアルバム・ジャケット、撮影者でボブを深く知る写真家のKate Simonに関するあれこれでした。

それじゃまた~

<補足情報>
Kateが撮ったボブの写真はこの作品集に収められています。

Rebel Music: Bob Marley & Roots Reggae by Kate Simon


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?