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【エッセイ】 自分の中に潜むキツネ。


意識高い系の人が苦手だった。

格言めいた言葉を吐き、美容や健康状態を意識した生活を心がけている人を見ていると、「あんたはどこに向かっているの?」とバカにした視線を送っていた。そして、「そんな人生、つまらなそう」だとか「もっと縛られないで自由に生きたら?」なんてことを心の中でボヤいていた。

それはたぶん、自分が出来ないことにチャレンジをしている人に対するやっかみだ。嫉妬だ。自分が勉強できないから、本を読んでいる人をニヤニヤ笑い、自分が食事制限できないから、美容健康を意識している人を鼻で笑った。若い頃のウチって、そんなヤツだった。

「酸っぱいブドウ」という童話がある。

ある日、キツネは木の上に美味しそうなブドウを見つけた。しかし、そのブドウはとても高いところにあり、キツネには届きそうもない。それでもキツネは、そのブドウを食べたいと思った。ジャンプをしたり、木によじ登ろうとしたが、とうとうキツネはブドウにありつけなかった。そこで、キツネは呟いた。「どうせ、あれは酸っぱいブドウだ。美味しくないに決まってる」と。そして、キツネはその場を去っていった。


キツネはウチだ。
本当は、目標に辿り着きたいはずだったのに、諦める言い訳として、対象物の価値を下げている。

勉強した方がいい。食事制限をして、健康に気を使った生活をした方がいい。自分もそうなりたい。意識高くありたい。心の底ではそう思って、小さなチャレンジはしてみたが継続ができなかった。そして、「そんな人生、楽しくないに決まってる」なんてことを思って、あきらめてきた。

酸っぱいブドウには、「執着を捨てることができるか」みたいな問題もあるらしい。いつまでも執着しないで、潔くあきらめた方が次の道に進める的なね。そのためには、対象物の価値を下げてでも自分を肯定してあげよう的な。そんな教訓も含まれているそうだ。

でも、ウチは、次の道にも進んでいない。いつまでもいつまでも、遠くから「いいなあ」なんてことを思っていた。もう、本当に性根がくさった人間なんだと思う。そりゃあ、友達ができないわけだよね。

そんなウチだったが、さすがに年齢を重ねていくと変化していくらしい。美容なんて如実に現れるからね。お菓子を食べれば吹き出物ができてしまうし、脂肪もつき体重がドンドン増えていく。すると、体調も崩すようになり、いよいよ健康管理の重要性に気付かされてしまう。

食事制限は当たり前のようにするし、ビジネス書などを読むと、ドンドン意識が高くなる。人との付き合い方、自分の人生の目的、そして、自分を支える言葉などなど。若かりし自分が見たら驚くほどの変化を遂げたと思う。スキマ時間があれば本を読み、早寝早起きを心がけ、こうして自分の好きな文章を書くことをしている。

きっと、今のウチは意識高い系に分類されると思う。もっともっと高い人なんて五万といるけど、その最下部に自分は入っていると思う。

少なくとも執着から解き放たれる時だって、「あれは酸っぱいブドウだ。美味しくないに決まってる」なんてことは思わない。「きっと美味しいブドウだけど、自分の今の能力では、まだあそこまでは届かない。もっとジャンプ力や、射抜く道具を使えるようになってから、ここを訪れよう!」と思うようになった。

意識高い系の人と出会ったら、素直にすごいと思うし、なんなら自分でもできることはないか、と盗めるところを探したりする。美容、健康。もちろん大事。こちらも参考にさせていただきます。残念ながらウチはスイーツを断つことができないけど、それでも時間帯とかは気にするし、その分、食事を減らしたりする。いつまでも健康にいたいと思う。

気付けば、若い頃にやっかんでたアッチ側にいる。できないことをやっかみ、嫉妬する時期は終わった。終わってみると、あの頃の自分が青く見えてしまう。でも、誰でも酸っぱいブドウを眺めるキツネの時期があるんだと思う・・・。

いやいや!

ウチ、キツネを卒業した気になってるけど、ふとした瞬間にキツネが現れる。

電車で対面に座る若者が高級ブランドを身につけているのを見て、「ブランドが好きな子なんだなあ」と思うと同時に、「誰から貢いでもらったんだろう?」なんて嫉妬混じりの感情を抱くこともある。まさにキツネ! 自分で頑張って働いて買ったのかもしれないのにね! あーあ。だめだこりゃ!

ウチも頑張ってお金を稼いで、本を好き放題たくさん買ったり、美味しいものを食べにいくぞー!

キツネとの闘いは、まだまだ続く。


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