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【エッセイ】 山あり谷あり、美しきものなり。

人生、山あり谷ありという。

いい時もあれば、悪い時もある――ということ。でも、たぶん、それだけの意味じゃない。だって山も谷も美しいもの! だから、本当の意味は、「人生、山あり谷あり、美しきものなり」なんじゃないかしら。

いい時もあれば、悪い時もある。
でも総じて見れば、そのどれもが美しい。
だから、どんな人生だって美しいのだ。

・・・そんな言葉に見えてくる。とても元気をもらえる、素敵な言葉だ。

でも、どうしたって自分の人生のことを考えると「美しい」とは思えない。焼けた山もある。ゴミが溜まった谷だってある。全てが美しいわけじゃない。そんなヒネた自分が言葉を拒絶する。

こんなことを考えているのは、今、自分が谷にいるから。そう思わないように、そう思わないようにと考えてきたけれど、現実を見ないわけにもいかない年齢になってきた。

なにをしても空回りをしたり、うまくいかない時間。自分の周りから人がいなくなってしまうんじゃないかと不安になる時期。なにもかもが嫌になって、自暴自棄になったり、破滅的な考えが頭の中を占めてしまう。それが人生における谷なのかもしれない。

谷にいる時、ウチは試合を放棄するかのように、フィクションに浸る。

本を読んだり、映画を観たり。違う世界に脳を溶かす。すると、心なし気分だけが上向きになってくる。現実はなに一つ変わらないし、相変わらず谷底にいるんだけど、雨が上がった時のような錯覚を起こしてしまう。

外国に行くと自分の国のことがより鮮明に見えてくるみたいに、フィクションの世界に行くと現実世界の輪郭がクッキリするのかもしれない。

フィクションから帰ってきて、よくよく世界を見渡せば、確かに美しいものはあった。散っていく桜、触覚をぴくぴく動かすカメムシ、背中を丸めながらホウキを掃くおばあちゃま。いない、と思っているだけで、ウチを支えてくれてる人たちもたくさんいた。家族との会話、友達からのノロけたメール、仕事の熱い話。

どれも、ちっぽけなモノに感じてしまうけど、一瞬でも「美しい」と思った自分がいた。確かに谷でも美しかった。認めたくはないけれど、言葉が証明することだってあるのかもしれない。

人生、山あり谷あり、美しきものなり。

もう少し、頑張ってみようかな!

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