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歌う

街を歩いていたらある曲が流れてきた。長らく聞いていなかった曲、それでも歌える自分に思わず笑ってしまう私。多分、いやきっと、他の事に気を取られてこの曲なんて聞こえていなさそうな通行人の中で鼻歌を歌いながら考え事をする私。もしかしたらすれ違った人の中に私と似たような人がいたかも。なんて事をもしかしたらで溢れてる世の中で思う。

流れてた曲は元彼が聴いていた曲。年上で2人の時は頼りがいがあるのに子供っぽい顔で笑う人だった。酔い潰れて知らない部屋で迎えた朝に告白された大学生らしい始まり。私の家にいる時はいつも携帯を触っていた彼。それが寂しくて仕方なかった6.1インチの液晶画面に負けてた私。最初の頃は大好きを伝えられすぎて幸せに浸りながら呆れて笑ってた。気づいたら私の好きが彼の好きを超えて、不安で辛くてご飯が食べれない毎日がやってきた。そんな毎日が続いたある日、彼が合鍵と私の荷物を返しにきた。寒くて仕方がない日だった。どんなに上着を着てもどんなに毛布をかぶっても寒い私。どんなに拭いても止まらない涙。お揃いのものが無くなって寂しくなった部屋。縛っていた銀色の塊がなくなってどこか寂しくなった薬指。もう来ないLINE。心配した友達からの電話。お酒から始まった苦しい恋愛なんて大学生らしすぎて笑っちゃう。あの6.1インチの携帯から流れていたYouTubeや音楽、ゲームの音が生活にこびりついて消えなかった。泣き続けていたせいかあんまり記憶がない冬。全部が思い出の鍵になって苦しんだ春。他の人と幸せに過ごした夏。苦しかった冬を忘れて歌ってた秋。気づけばもう一回冬が来る。春はどこに行こう、夏はどこに行こう、秋は、次のクリスマスは、なんて話していたのにお互い他の人と夏を過ごして冬を迎える。あんなに苦しくて毎日泣いていたのに気づいたら私は他の人の彼女になってまた誰のものでもない人になった。もう寒くなくなった。歌番組、街中、カラオケ、どこでも彼が聴いてた曲が流れてきたらしんどくて耳を塞いでたのにもう歌えるようになった。時間って本当に強い力を持ってるよね。苦しい中でも毎日時間の中で生きてたら気づいたら歌えるようになるんだもん。こんなに好きなのに、ずっと好きなんて思った想いはいとも簡単に季節の間に埋れていった。時間にしがみついてられる程強い想いじゃなかったのかな。恋は盲目だね、この恋心は永遠だなんて感じちゃうだもん。

もしあの時お酒を飲んでなかったら、もし付き合っていなかったら、もし同じコミュニティに入らなかったら、もし、もし、もし。もしが溢れる中で今日も生きる。もし付き合ってなかったら今の好きな人と付き合えたのかな。もし付き合ってなかったらこんなnoteも書いてなかったのかもしれない。きっと今のこの苦しい気持ちも今の人との思い出の曲も、次の冬には思い出として受け止められる。もしかしたら明日は来ないかもしれないけどね。だからこそ今日も私は好きな人に会いたくなる。

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