見出し画像

すがる

突如送られてきたLINE、私の好きなお酒の写真。自分からは連絡しない、塩対応をするなんて考えて実行しているうちに彼が仕掛けてくるようになった。早く忘れたいこの沼から抜けたいと考えているのに彼からの通知は一度見ると頭から離れなくなる。悔しいけど私はまだきっと好きで暫く沼から抜けられない。

どんな子がタイプなの?家はどこ?家族構成は?女の子の好きな仕草は?最近付き合った人は誰?好きな食べ物は?嫌いな食べ物は?人々が彼に投げかける質問の大半の答えを知っている。皆と同じようなリアクションをして笑っている私を見て笑う彼。私と同じように彼も私の大体の答えを知っている。飲み会で私の嫌いな食べ物が入っている料理を誰かが注文しようとすると、それよりこれにしましょうよ〜なんて一声挟んでくる。どんな芸能人がタイプ?と聞かれた私が答え忘れた人を追加してくる。私が質問されているのを見ながらさっきの私みたいに笑ってる。私の好きな食べ物も好きなタイプもそれ以外の事も多分よく知っているもんね。何飲む?なんて聞いたら同じやつと答える彼。大学生の飲み会、2時間1000円の飲み放題、安いおつまみが並ぶ席で同じ酒を並んで飲むどこにでもいる男女。同じ卓の誰もが私達の関係を知らない。互いの家を行き来している事も沢山の写真がある事も、色んな所に行った思い出があることも知らない。今日もさも久々に飲むような顔をして私達は飲む。こんな気味悪いことをするようになるのが大人になるなんてことなのか。それなら大人になんてなりたくなかった。

そういえばお前最近どうなん?いいやついないの?なんて先輩が聞いてくる。素直に数人にアプローチ受けてるけどどう思う?なんて話す。俺はそいつ〜、私はそっちじゃない方がいいと思う〜と皆自分の意見を話す。へらへらと笑う私、何も言わない彼。目があったから、ん?なんて顔をしてみたけど逸らされた。帰り道で気づいたら彼が隣にいた。俺あんな話知らなかったんだけどと口を尖らせる彼。明日の予定もその男?本当は?なんて聞いてくる彼。側から見たらめんどくさい問いかけにみえるだろう。私にとっては少しだけ嬉しい彼の行動。だけど私はそりゃ言ってないもん、わざわざ言う事じゃないでしょと返す。すがらないと決めたからにはしっかり貫きたい所。「いや〜〜ずるいわ、そうやっていつもはぐらかすんだから、あざといわ〜」言う彼。どっちがあざといんだと詰め寄りたいがこれも我慢。「そっかデートする相手いるんだ、あ〜〜やだなぁむかつく」と言われたところで我慢が効かなくなった。ペラッペラの理性が死んだ私。この人!ってなってないから多分誰とも付き合わないよなんて返してしまった。そっかそっかと可愛い顔で笑う彼。やっぱりその感覚大事だよねなんて言う。やっぱりこの人!って人は貴方のことだけどと心の中でつぶやくけど口には出さない。顔には出ていたかもしれないけどそこはご愛嬌。私は彼の彼女じゃないし彼は私の彼氏でもない。なんの約束も契約もない関係。都合がいい関係。それでも偶に独占欲を発揮したり彼氏彼女という間柄の人達がする事となんら変わらないことをする。それでも私たちは付き合っていない。夜風は今日も冷たい。

そんな事をnoteに書いていたらかかってくる電話、3秒ほどで息を整えてさも普通にとる。
今どこ?そっち迎えに行く。なんていう彼。今起きた、分かりやすいところ向かうわ〜なんていう私は4時間前には起きて準備をしていた。いつからこうなったんだろう。都合の良い関係を辞めたいと深夜の公園で友達と泣いていた私はどこにいったんだろう。まぁ自分から誘わなくなっただけ大きな前進。あと10分もしないで彼はくる。少しだけ前進した私の気持ちが後退する夜にきっとなる。きっとまた悲しくも隣で眠る彼の体温に安堵する朝が来る。悔しいけど私にとっては特別で幸せな時間。そんな時間も今日で終わりかもしれない、次は来ないかもしれない、彼とはもう2度と一緒に過ごさないかもしれない。お互いの気分や状況次第な私達の関係はあまりにも脆いけど今日も私はその時間に縋る。そんな時間と暮らす。彼が好きだと言ってた歌を歌う。時間が過ぎる。もうこんな時間だ、早くいかなくちゃ。今日も心は彼に縋っている。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?