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深夜散歩

 小学生の頃、スイミングスクールに通っていて、送迎は専用のバスだった。そのバスも各々の家までは行けないから、各自、一番家から近い場所で降りる。私は寂れたコンビニエンスストアでバスを降り、それから家までの100メートルもない一本道を駆けていく。
 寂れていても微かに灯りはついていて、自販機の明かりがこんなにも安心したことはない。ここを飛び出すと、もう街灯はない。私は家までのこの暗黒の道を死に物狂いで駆けていく。お化けが私の足を掴むのではないか、殺人鬼が私を殺そうと襲ってくるのではないか、得体の知れない怪物に食われるのではないか、色々な恐怖が私を襲い、私は全方位に首を振りながら必死に走る。それほどまでに、小学生にとって一人の夜とは恐怖の対象だった。
 と、大人になった今、こうして文字が打てている事実、私の命は確かにここにある。結局、夜に襲われることはなかった。
 私は酒を買いにコンビニへと向かった。深夜2時。もうこれと言って恐ろしさはない。どうかしてしまったのか。
 いや、大人になったのだ。

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