キムラ

音楽・映画・諸々の記録

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最近の記事

あの日、早朝の代官山で見かけた彼女に捧げる(までもない)3000字あまりの記憶

いきなりで申し訳ないが、たった今、この文章を書いているわたしはとても陰鬱な気分にある。なにもそれは昨日今日に始まったことではなく、特にここ数ヶ月で蓄積された「ずっとつらい」という気持ちが膨れ上がって今、まさに爆発してしまいそうだという状態が、普段の周期よりもずっと長く続いているといったわけで、自分ではある程度把握できていたと思っていた感情周期とでもいうべきバイオリズムが明らかに、はっきりと異常を来しているのを自覚し始めたのがここ数週間のこと。そんな現状から逃げるようにして仕事

    • 櫻坂46『何歳の頃に戻りたいのか?』 短評、そしてこれからの櫻坂46を見つめるために

      帰るべき場所は前身グループではない。そんなことは判っている。しかし、誰もがかつての輝かしい時代を脳裏に浮かべ、初期衝動の加速が機能不全を来したことなどすっかり忘れながら、かつてのセンチメンタルを反芻する。制服は、スカートは、いつになっても青春の共通言語として、時代を、社会をいとも簡単に横断してしまう。その無責任な記号が我々を永遠に刹那へと閉じ込めてしまうのと同時に、いつまでも我々を成長させない。だが肉体は老化してゆく。指スワイプで簡単に取捨選択を迫られ、無理矢理にでも時間軸が

      • THE 50 BEST SONGS OF 2023

        50. fromis_9 - Prom Night 49. Oneohtrix Point Never - A Barely Lit Path 48. tripleS - Rising 47. Metro Boomin, A$AP Rocky, Roisee - Am I Dreaming 46. LANA - 99 45. Carly Rae Jepsen - Psychedelic Switch 44. Subway Daydream - Radio Star

        • NewJeansと"坂道系"のツイートについて思ったこと

          はじめに もっとも、大きく間違ったことは言ってない。と思った。事実NewJeansのセールス実績に関しては文句の言いようがないほど爆発的、対して"坂道系"はじめ日本資本のアイドルグループが劣勢の状況にあるのも、音楽番組でのプライオリティだったり批評家筋の評価を見ても頷ける。現在の"坂道系"の楽曲がトレンドからかけ離れていると言わざるを得ない状況だったり、プロモーション面に関しても非常に内側に閉じたものーここで用いられている"内需"ーであることは否定できない。乱暴に言ってしま

        あの日、早朝の代官山で見かけた彼女に捧げる(までもない)3000字あまりの記憶

          乃木坂46 11th YEAR BIRTHDAY LIVE DAY2 〜5期生ライブ〜 短評

          「これは乃木坂ではない」 どうだろう。ステージには見たことのない光景が広がっている。感じたことのない空気が漂っている。異様な湿度。しかし息苦しくはない。むしろなんだか妙に懐かしさがある。5期生たちは、かつて先輩たちが死に物狂いで築き上げた盤石たる国家に居住しながら、そこに所蔵された郷土資料を指でなぞり、当時を経験した生き残りたち(=語り部)の話に真剣に耳を傾けながら、さも「わかったかのように」振る舞うしかない。あまりに年が離れた兄弟たち、同じ国家における勝利を勝ち取った「友

          乃木坂46 11th YEAR BIRTHDAY LIVE DAY2 〜5期生ライブ〜 短評

          気化する音楽を前にして描いたスケッチ〜 坂本龍一 『12』

          端的にリスナーに気力と体力を要求する傲慢な作品である。しかしその傲慢さこそが本作の核すなわち本質であり、かつてレコードやCDが広く流通していた時代の物体としての(固体性のある)音楽から、今日ではストリーミング・サービスの繁栄によって簡単に聴取され消費されてゆく、言わば「気化」しつつある音楽。そんな音楽そのものの物質性を改めて問いかける本作は、リリース前の予告を加味したとしても特段異様に聞こえる。本作がスケッチであり、ライブ音源とはまた別物であるということ。その作品性には作家自

          気化する音楽を前にして描いたスケッチ〜 坂本龍一 『12』

          The 50 Best Songs of 2022

          50. Snow Man / ブラザービート 49. HUH YUNJIN of LE SSERAFIM / Raise y_our glass 48. Hemlocke Springs / girlfriend 47. NCT 127 / Faster 46. Superorganism / Teenager feat. CHAI & Pi Ja Ma 45. agraph / unified perspective (variation) 44. Lil Uz

          The 50 Best Songs of 2022

          The 50 Best Albums of 2022

          50. aespa 「Girls - The 2nd Mini Album」 49. リーガルリリー 「Cとし生けるもの」 48. Nija 「Don't Say I Didn't Warn You」 47. おとぎ話 「US」 46. Immanuel Wilkins 「The 7th Hand」 45. 9m88 「9m88 Radio」 44. Bad Bunny 「Un Verano Sin Ti」 43. Hans. 「kimyuntak」 42.

          The 50 Best Albums of 2022

          乃木坂30th 特典映像・5期生個人PV 全作レビュー (50音順)

          五百城茉央『やる気!元気!ぼく、五百城。』 (監督:今原電気) 本作30thに収録されている個人PVの中で最も秀作と言える。こういった"チャレンジ系"の企画は個人PVに限らずともアイドルコンテンツの常套手段であり、既に飽和状態であるがゆえに真正面から取り組もうとすればするほど凡庸に映りがちなのだが、今作はそのチャレンジ自体を企画の中心として据えるわけではなく(つまり46のチャレンジのうちどれだけ成功できるかどうかは主題とされておらず)それによって引き出される リアクションの

          乃木坂30th 特典映像・5期生個人PV 全作レビュー (50音順)

          眉を顰める / 乃木坂46 『好きというのはロックだぜ!』 短評

          https://youtu.be/CSLYbwe9JEo 変化するアイドル 賀喜遥香。彼女が非ステージ空間 / つまりライブ・パフォーマンス以外の番組やSHOWROOMなどで見せる不安げな表情だったりおぼつかない足取りは、彼女を眺める者にどこまでも親近感を抱かせる。そのような内的葛藤をステージの上で一掃した瞬間のフレッシュ(新鮮さ)は日頃の不安定さとの対比も相まって抜群の輝きを生み出し、彼女がポジティブ・アイドルであることを見事に証明してみせる(本稿での「ポジティブ・アイ

          眉を顰める / 乃木坂46 『好きというのはロックだぜ!』 短評

          〜車輪が軋むように君が泣く〜 『希望と絶望 その涙を誰も知らない』 短評

          今作『希望と絶望』は他の坂道グループ並びにAKBグループのドキュメンタリー映画群と比較して、大したギミックが隠されているわけでもなければ特別な技巧が冴えているわけでもない、どこまでも真正面から馬鹿正直にアイドルが生きている光景を切り取った映像作品である。それが悪手と言い切りたくないが、彼女たちに直撃する問題を表層的に掻い摘んでいくだけの視点は、はっきり言ってファンによる事前の観測範囲と大差無い。ならばわざわざドキュメンタリーを、というより"映画"を撮る必要はないだろう。我々が

          〜車輪が軋むように君が泣く〜 『希望と絶望 その涙を誰も知らない』 短評

          "We got history" - 乃木坂46 「10th YEAR BIRTHDAY LIVE」

          We got history "僕らには歴史がある" https://twitter.com/kimu_ra10/status/1512753729711525895?s=20&t=_WeQK_QScZbfebz49zTENA 蓋を開ければ、この日はこの時期の曲しか披露しないということもなく、つまりDAY1とDAY2でグループの歴史を二分するようなタイトルを設定した理由が結局、VTR演出(セットリストの合間合間にモニターに映し出される、10年間を時系列で振り返る映像)に起

          "We got history" - 乃木坂46 「10th YEAR BIRTHDAY LIVE」

          乃木坂46 『Actually...』 "乃木坂らしさ"による分断

          はじめに本稿は、乃木坂46 29thシングル『Actually...』で加入まもなくセンターに抜擢された中西アルノの加入以前の行動、それにまつわる直近のSNS上での一連の騒動に対して直接的に言及することを不必要と判断した上で進む。先日公式ホームページ上で公開された乃木坂46合同会社並びに中西アルノ本人の声明文に、現時点での最大限の意思表明が記されており、本件に対してこれ以上ソーシャル上で言及することは、表層的な情報をいわば"騒動的に"再拡散・再生産することに繋がりかねない。そ

          乃木坂46 『Actually...』 "乃木坂らしさ"による分断

          "即興性"と"絶叫" 『betcover!! "危機" 2022.02.06 LIQUIDROOM』

          偉大なるサックス奏者ジョン・コルトレーンはこの世を去る僅か一年半前に『Meditations』という作品を残した。"Meditation"、すなわち"瞑想"と題されたこのアルバムは、ファーストトラック「父なる神、御子キリストと聖霊(The Father And The Son And The Holy Ghost)」の13分間の音の洪水に始まり、ファラオ・サンダースとの2テナーによる捲し立て、阿鼻叫喚の嵐を展開していく。そして最後の「静寂(Serenity)」に着地した瞬間に

          "即興性"と"絶叫" 『betcover!! "危機" 2022.02.06 LIQUIDROOM』

          生田絵梨花卒業コンサート〜その構造にみる"しあわせ"の正体〜

          伝統文化とはほんらい保守的で排他的で差別的なものだ。いったんある地域の中で生まれるとその領域の中だけで成熟してゆく。そして伝統という名の鎧をまとう。(中略)その間、その領域以外の異分子との交流はない。いや、むしろそういったものを排除しながら、その領域の内側だけで洗練されてゆく。(中略)ヒトの文化はそうやって閉じられた中で成熟し、伝統となり、その成熟が頂点に達し、その領域で支えられる限界にまで膨れ上がった頃、それを待っていたかのように異分子が入り込む。そのことで領域の垣根が崩れ

          生田絵梨花卒業コンサート〜その構造にみる"しあわせ"の正体〜

          『君に叱られた』 物語が紡ぐ非情

          松村沙友理や大園桃子といった、これまで選抜の中核的位置を担ってきたメンバーがグループを卒業し、ひと夏を終えようとするこのタイミングで、センターに4期生・賀喜遥香を据えた28thシングル『君に叱られた』がリリースされる。その人選に一見、新しい風を取り入れたような印象を受けるが、ここ最近のシングル表題曲(フィジカルでリリースされた作品に限定する)のセンターを確認してみると、27th『ごめんねFingers crossed』は同じく4期生の遠藤さくら、26th『僕が僕を好きになる』

          『君に叱られた』 物語が紡ぐ非情